がん患者のためのインターネット活用術 (11)

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がん患者のためのインターネット活用術 2017年 第2版: 私はこれで膵臓がんを克服した
ネットの情報はすぐに古くなります。Kindle本『がん患者のためのインターネット活用術 2017年 第2版: 私はこれで膵臓がんを克服した』では最新の情報に書き直して出版しています。


来週は癌研での定期検査:造影CTがあります。手術後2年半の検査です。いつものことですが、術後の定期検査の前は少々不安になります。「統計的にいえば、手術可能だった膵がん患者の9割は再発・転移する」というデータが脳裏をかすめるわけです。「もうそろそろかな?」という予感を持って診察に臨むのですが、幸い、これまではその予感ははずれきました。

再発・転移という状況が、いつ自分に起きてもおかしくはないわけで、そうなると、さて再発後の治療方針を考えておかねばなりません。診察室で慌てないためにもね。

そのためには、取り得る治療方針としてどのようなものがあるのかを列挙し、それぞれの効果あるいは有効性、副作用の程度と生活の質(QOL)、経済的負担などの要因を考慮して、いくつかの選択肢から自分にとって最適の治療法を選ぶということになります。しかし、人間の思考は、こうしたとき堂々巡りをしがちです。あれこれと迷ってなかなか意志決定ができない。「Aは効果がありそうだけど、治療費が高くて負担が心配」。「Bはある程度有効だというデータはあるが、副作用がひどそうだ」「Cは生活の質(QOL)は良さそうだが、果たして私のがんに有効だろうか」などなどです。

Excelで学ぶAHP入門―問題解決のための階層分析法

AHP(階層化意志決定法)を使って再発後の治療方針を考える

このような、いくつかの候補から選択したり、順位付けする必要がある場合に有効な手法の一つとしてAHP(Analytic Hierarchy Process)があります。「階層化意志決定法」と訳されています。一般に、評価基準は複数あり、しかもすべての基準を同時に満たす決定ができることは希です。(金もかからず確実にがんが治り、しかも副作用がない治療法があるのなら、AHP等使う必要がなく、あれこれ考える必要すらない) こうしたとき、どの評価基準をどれだけ重視するかなどを、「一対比較法」と呼ばれる測定法を援用して、質問に対する答えから計算で数値化し、その重み付けした評価基準と代替案の評価から最適な優先順位の決定を行おうというのがAHPです。トーマス・サーティが開発した手法で、1996年12月17日のペルー日本大使公邸の人質事件の解決にも応用されたといわれています。

孫子の兵法の数学モデル―最適戦略を探る意思決定法AHP (ブルーバックス)

この手法の特徴は、あいまいな情報をもとに、評価者の感性や好み・価値観という数量化が困難な定性的な要素を定量的に扱うことが可能であること。しかも手順が比較的わかりやすく、ステップ毎に単純化して判断して
いけば、数学的に合理的な結果が得られるというハイブリッドな点です。

計算の過程では、行列の固有値や固有ベクトルの計算が必要ですが、それはインターネットの計算サイトを利用すればよいし、数学的な理論や手法の難しいことは分からなくても、とりあえず手順を踏んでやっていけばきちんとした答えが出ます。ですから、数学的な説明や計算方法などは省いて、具体的な問題で説明します。より詳しく数学的に知りたいとか、興味のある方は右の書籍を参照してください。

孫子の兵法の数学モデル 実践篇―意思決定支援ソフトAHPがすぐ使える (ブルーバックス)

以下の例はAHPを説明するための仮定です。多くの部分は私の価値観に基づいていますが、結果が私の治療法の選択肢だということでもないし、何らかの治療法を推奨しているわけでもないことをご承知ください。

■解決すべき問題(目的)
私の膵臓がんが再発したとき、どのような治療法を、どのような選択順位で選べばよいか。

■評価基準

  1. 費用
  2. 生活の質(QOL)
    副作用だけでなく、治療を続けながら働くことができるか、家族との楽しい団欒が持てるか、好きな旅行に行けるのかといったこと。もちろん人それぞれに内容は違う。
  3. 生存期間
    腫瘍縮小効果とかも基準となりうるが、がんが大きくなるか小さくなるかではなく、患者としては何年生きられるのか、が切実な問題です。

■代替案
治療法のことです。例として次の5つを挙げましたが、「私は食事療法で治すのだ」とか「枇杷の葉温灸で直すのだ」、あるいは「ゲルソン療法もやってみようか」という人は、それらが代替案に含まれるということになります。どのような代替案を用意するかは、結局その人がどれだけの情報を持っているかということと、その人の価値観に依存します。

  1. がんペプチドワクチン療法
    中村祐輔教授らのペプチドワクチン。阪大・久留米大のWT-1も可能性としてはあり。
  2. 免疫細胞療法
    一般にNK細胞療法といわれる様々な治療法の中で、私が比較的信頼できると思っているものを想定しています。
  3. 休眠療法
    いわゆる少量の抗がん剤を使ってがんとの共存を図るという治療法です。治すのではなく、引き分けに持ち込んで天寿を全うすることを目指すということ。
  4. 標準治療
    膵がんの場合、ジェムザールもしくはTS-1を標準量投与する。エビデンスに基づいた延命効果が得られ、生存期間中央値が数ヶ月延びる。
  5. 無治療
    緩和ケアだけで、積極的な治療はしない。

■階層構造を書く
上に挙げた内容を階層構造に書いてみます。下のように目的と評価基準、代替案が決まりました。

Wshot00058

■一対比較値

一対比較値は次のように決めます。AがBより少し良いなら「3」というふうに決めておきます。(これがAHPでの一般的な値です)

副詞 一対比較値
同じくらい 1
少し 3
かなり 5
大いに 7
圧倒的に 9

■評価基準の一対比較表をつくる
評価基準の費用・生活の質(QOL)・生存期間について、評価基準どうしでの一対比較用アンケートを作成します。自分の価値観に基づいた値を決めるのです。右が重要なときは値が分数になっています。

<アンケート>

Wshot00059

私の価値観では、少々費用がかかっても生活の質(QOL)が「かなり」重要であり、費用がかかっても生存期間が長い方が良いに決まっているが、さりとて家族の生活を脅かすほどにはお金は使えないということです。そして副作用があって何もできずにただ生きているという状態なら、そんな延命には意味がないと考えています。従って生活の質(QOL)は生存期間に対して「圧倒的に重要」だということです。もちろんこの値は人それぞれです。とにかく生きていさえすればあとは何にも問わないという考え方も有り得ます。そういうひとは「生存期間が生活の質(QOL)よりも圧倒的に重要」という欄に○を入れることになります。

これをもとに一対比較表をつくります。慣れてくれば「アンケート」なしで一対比較表に入力できます。

<評価基準の一対比較表>

Wshot00061

費用と生活の質(QOL)では1/5という値です。アンケートと評価基準の一対比較表では水色のセルどうしが対応しています。そして、対象の位置にあるセル(黄色のセル) には逆数が入ります。

■評価基準ごとの代替案に対する一対比較表をつくる

次に「費用」という評価基準から見た各代替案の一対比較を行ないます。このとき大事なのは、途中で基準を変えないということです。「費用は安い方がよい」として代替案の評価を始めたが、途中で「免疫細胞療法は効果がありそうだから高くても仕方ないよなぁ」などという評価をしてはいけないということです。

「費用」の基準では、「無治療と休眠療法はどちらが安いか?」のように、他の評価基準は無視して評価していきます。

Wshot00062

これで一対比較表の作成は終わりです。あとは行列の固有値などを計算するのですが、インターネットのそうしたサイトを使えば数学な知識は必要ありません。安心してください。

一対比較表を作成するには、それぞれの治療法についての知識が必要だということが分かります。どれにどれくらいの費用がかかるのか? その治療法ではどの程度の副作用があるのか、AとBではどちらが生存期間が長いのか? でも統計データのない場合もあります。医療機関が宣伝のためにいう生存期間を信用していいのかどうかも分かりませんね。『がんとの闘いは情報戦である』と、やはりここでも言えます。AHPのよいところは、いい加減でも良いということです。えい!やっ!で決めてもまぁまぁ妥当な結果が出るものです。ものは試しにやってみてください。

長くなりました。続きは次回に・・・・


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