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3.11後を生きるには「内部被ばく」を正しく知ること

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地震の翌日、3月12日のブログで「やはりメルトダウンか? チェルノブイリ並みになるかも。政府は真相を隠しているに違いない」とか、「海水注入を決断したのはメルトダウンが始まっているからだろう」などと書きましたが、実際はその頃すでにメルトダウンが始まっていた、さらには格納容器の底に燃料が落ちるメルトスルーにまで至ったというのですから、私の「最悪のシナリオ」もむしろ控えめでしかなかったわけです。

3月15日には「政府は、妊婦と乳幼児を直ちに避難させよ!」と書いて、「あくまでも最大規模の爆発があった場合」の瀬尾健さんが作成した被害想定図を載せておいた。本当に神の配慮か、圧力容器が破壊されるような水蒸気爆発にならなかったのは幸いであったが、原発の過酷事故が起きれば、数時間で行動を決断しなければならないということがよく分かった。チェルノブイリの強制避難区域よりも汚染のひどいところに子供も妊婦も未だにいるのだから、この国の政府は旧ソ連以下だということもよく分かった。

事故直後の3月12日の記者会見で「炉心溶融の可能性がある」と発言した原子力安全・保安院の中村幸一郎審議官は更迭された。彼はウソを言ったから更迭されたのではなく、本当のことを言ったから更迭されたのである。なるべく事態を軽く、危険などないかのように言いながら、その実住民が徐々に「深刻な事態」を受け入れることを期待しているように思える。あいまいにしておけば、やがて嵐は過ぎ去って行くという姿勢だ。これってどこかで経験したような、と思ったら、がんの告知と同じだった。「胃に潰瘍がありますから、念のため手術しましょう」と手術して「ちょっと大きめのポリープがあったので、念のため薬(抗がん剤)を入れておきましょう」そのうちに患者も薄々自分が癌だと悟るようになる。

しかし、今はがんも告知する時代です。それは真実を知ることで患者が病気と正面から立ち向かえるようになる。患者が真実を知らなければ必要な治療もできないからです。今回の福島原発の事故も同じだと思います。私たちはこれからは、内部被ばくを避けることはできません。必要なことは内部被ばくについての真実を知ることです。政府や東電は『放射能は流しても、情報は流さない』気でいるようです。

村上春樹さんは、カタルーニャ国際賞受賞式スピーチで、広島・長崎で核爆弾による大きな犠牲者を出した日本が、どうして二度目の大きな核による被害を招くことになったのはなぜかと問い、

何故そんなことになったのか?戦後長いあいだ我々が抱き続けてきた核に対する拒否感は、いったいどこに消えてしまったのでしょう?我々が一貫して求めていた平和で豊かな社会は、何によって損なわれ、歪められてしまったのでしょう?

理由は簡単です。「効率」です。

と言い切っています。村上さんが言うように『我々日本人は核に対する「ノー」を叫び続けるべきだった。』のです。たとえ原発が如何に効率のよいシステムであったとしても、いまでは原発が地獄の釜のふたを開けているのです。しかし、それだけではないと私は思います。私たちはあまりにも内部被ばくに関して無知だったことも大きな要因です。

肥田舜太郎さんは、日本の核兵器廃絶運動の弱点は「内部被ばく」の驚異をリアルに想像することをしなかった(できなかった)からであり、ヒバクシャ自身も内部被ばくに対する知識が乏しいがゆえに被爆体験を正しく伝えることが難しかった、と言っています。ICRPは一貫して内部被ばくを無視するか、過小評価し続けてきました。そうしなければ原発は建設できなかったからであり、核保有国の利益を守ることができなかったからです。福島第一原発の事故後の今でも、政府や御用学者は「内部被ばくによる健康への影響は考えられない」と言い続けています。

ICRPのリスクモデルは、DNAが発見される前に物理学者らが考案したものが今でも使われています。この間の分子生物学的な知見を反映していません。単に放射線による吸収エネルギーだけを対象にしています。細胞単位での放射線影響でなく、臓器の組織単位でいくらエネルギーを吸収したかという、半世紀前の古くさいモデルなのです。

御用学者たちが「健康への影響がない」というとき、ICRPのモデルによれば、この程度の被ばく線量では影響が出るはずがない、という思考方法です。疫学調査でがん患者が増加したのなら、ICRPのリスクを再検討する、これが科学的な立場のはずです。ICRPとそれに追随している学者は正反対の思考方法に陥っているのです。欧州放射線リスク委員会(ECRR)は、ICRPのモデルを「内部被曝を適切に評価できない」と批判して設立されました。神戸大学大学院の山内知也教授は次のようにコメントしています。重要な指摘なので一部を省略して掲載します。

欧州放射線リスク委員会(ECRR)と国際放射線防護委員会(ICRP)との違いは、それぞれの最も新しい勧告であるECRR2010とICRP2007とを読み比べることで理解できるだろう。

最も分かりやすいのがスウェーデン北部で取り組まれたチェルノブイル原発事故後の疫学調査に対する対応において両者の違いが端的に現れている。その疫学調査はマーチン・トンデル氏によるもので、1988年から1996年までの期間に小さな地域コミュニティー毎のガン発症率をセシウムCs-137の汚染の測定レベルとの関係において調べたものであった。

結果は100 kBq/m^2の汚染当り11%増のガン発症率が検出されている。このレベルの土壌汚染がもたらす年間の被ばく線量は3.4 mSv程度であり、ICRPのいう0.05 /Svというガンのリスク係数では到底説明のつく結果ではなかった。

ICRPではこの論文を検討した形跡が認められない。おそらく、結果に対して被ばく線量が低すぎるという理由で、チェルノブイル原発事故による放射性降下物の影響ではあり得ないと考えていると思われる。すなわち、ICRPの理論によれば低線量被ばく後にある疾患が発症すると、その原因は放射線によるものではないと結論される。

ICRPの被ばくモデルはDNAの構造が理解される前に生み出されたものであるため、そこでは分子レベルでの議論や細胞の応答について議論する余地はない。単位質量当たりに吸収されるエネルギーの計算に終始するのみである。このやり方だとひとつの細胞に時間差で2つの飛跡が影響を与える効果を考慮に入れること、分子レベルでものを考えることが不可能になる。

ICRPのよって立つところは0.05/Svというリスク係数であり、それは疫学の結果である。その疫学とは広島と長崎に投下された原爆の影響調査であるが、ECRRはその調査が原爆投下から5年以上経ってから開始されていること、研究集団と参照集団の双方が内部被ばくの影響を受けていること、それらの比較から導けるのは1回の急性の高線量の外部被ばくの結果であるが、これを低い線量率の慢性的な内部被ばくに、すなわち異なる形態の被ばく影響の評価に利用することを批判している。

ICRPのメンバーは(例えば、ICRP2007をまとめた当時の議長は)チェルノブイリ原発事故で被ばくによって死んだのは瓦礫の片付けに従事した30名の労働者だけであるとの発言が記録され問題視されている。彼は子供の甲状腺がんについても認めようとしていなかったのだった。

冒頭に述べたスウェーデンの疫学調査は3 kB/m^2以下の汚染地帯が参照集団として選ばれ、最も高い汚染が120 kBq/m^2というレベルであった。これは今の福島県各地の汚染と同等であり、むしろ福島県の方が汚染のレベルは高い。ECRRの科学幹事が盛んに警告を発している根拠のひとつがここにある。過去に同様の汚染地帯で過剰なガン死が統計的に検出されたという経験を人類が持っているからであって、このような研究結果を知らない人にはその警告の真意や彼の気持は伝わりにくいのかも知れない。(一部を省略しています)

文部科学省が5月6日発表した航空機モニタリング結果の地図をスウェーデンの調査と比較するため再度載せておきます。

Wshot200259     福島とスウェーデンの汚染を比較すれば

  • スウェーデンの汚染レベル:120kBq/m^2以下
  • 文科省が公表した上の地図では、飯舘村:1000~3000kBq/m^2
  • 福島市、川俣町、二本松市など80km圏内:~300kBq/m^2
  • がんの発生率は10%をはるかに超える割合で増加することになる。

ICRP勧告が唯一の正しい放射線リスクモデルだという考えでは、内部被ばくの驚異をつかみ取ることはできないのです。村上春樹氏が述べたように、『安らかに眠ってください。過ちは繰り返しませんから』と私たちが三度言わなくてもすむためには、内部被ばくの危険性を、今日の生物学の到達点に沿って科学的に正しく知ることが必要です。

ICRPのリスクモデルとそれに準拠している日本の放射線関係法体系、それをもとにした御用学者らでは、内部被ばくのリスクを計算することはできません。なぜなら、ICRP2007年勧告が出される前の草稿には次のような文章がありました。

(50)  臓器器官や組織内に存在する放射性核種から放出された放射線、いわゆる体内放出体について、その器官における吸収線量の分布は放射線の透過力と飛程や臓器・組織内での放射能分布の均質性に依拠する。アルファ粒子や低エネルギーベータ粒子、低エネルギー光子、オージェ電子を放出する放射性核種について、吸収線量の分布は極めて不均一となる。この不均一性は、飛程の短い放射線を放出する放射性核種が臓器・組織の特定の部位に位置した場合、例えば、プルトニウムが骨の表面に沈着したり、ラドン娘核種が気管支の粘膜や皮膜組織についた場合に、特に重要である。そのような場合、臓器で平均化された吸収線量は確率的な損傷を計算するためのよい線量とはならない。それゆえ、平均臓器線量と実効線量の概念を適用することは、そのような場合には批判的に検討される必要があり、時には、実証的で実用的な方法が採用されなければならない。

しかし最終勧告文ではこの部分は削除されています。彼ら自身が、ICRPモデルでは内部被ばくによるリスクを正確に求められないと言っていたのです。

ECRR 2010年勧告の翻訳文はこちらにあります。


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