中川恵一 × 近藤誠 (3)

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内部被ばくについては、中川氏も近藤氏も考え方は大同小異で、ほとんど違いがない。二人とも内部被ばくの影響を過小評価している。
中川氏は、

  • 放射線汚染(内部被ばく)を恐れるあまり、政府や自治体が出荷制限・摂取制限をしていない野菜・魚・水までをも警戒し、摂取しないと、かえって健康被害が生じかねません

近藤氏は、「内部被ばく量は測定できますか?」とのQ&Aで、

  • 全身カウンターを用いると測ることができる。計測器の中に人を入れて、体内から出てくる放射線量を量ります。

と書いている。しかし、全身カウンタオー(ホールボディカウンター)では体内から出てくるガンマ線を測ることはできるが、アルファ線・ベータ線をとらえることはできない。従って正確な被ばく線量を測定することは難しい。そして、

  • (6月3日)現在の計測値をみると、福島原発から離れた地(千葉、東京、埼玉、神奈川など多くの地域)では、問題とするレベルではないと思われます。
  • 現在の日本は、チェルノブイリ原発事故後の出来事を教訓にしているので、水や食物を介した内部被ばくが問題になる事態はまず生じないであろうと考えています。

と言う。「チェルノブイリ事故を教訓にしている」などとは、福島住民の避難勧告をみてもとうてい言えるはずのないことばだが、それについては後ほど触れることにする。

内部被ばくの影響については、専門家の間でも意見が分かれていることは事実である。これについては何度か書いているので、繰り返しはしないが、ICRPの内部被ばく評価には次のような問題がある。中川氏も近藤氏も1mSvと計算された被ばく量なら、内部被ばくであれ外部被ばくであれ人体には同じ効果を与えると考えている。

アルファ線を放出するプルトニウムを吸い込んで肺に沈着した場合、アルファ線が止まるまで放出した運動エネルギーの合計を肺に質量で割ったものが臓器等価線量となる。これにアルファ線の線質係数である20を掛けたものが、組織線量当量となる。これがICRPの内部被ばく線量評価方法である。

しかし、アルファ線は線源のごく近傍の細胞だけに放射線を照射するのであって、肺全体に照射するのではない。アルファ線・ベータ線は少数の細胞に集中的に放射線を照射するのであるが、そのエネルギーを肺全体の重さで割ることで、影響を小さく見積もることに成功している。40℃のシャワーを10リットル体に掛けるのと、80℃の熱湯を5リットル掛けるのは、熱量は同じだが、80℃の熱湯を誤って掛けたのなら、急いで救急車を呼んだほうが良い。

チェルノブイリでは子どもの甲状腺がん以外は、有意に増加していないとも言うが、多くのがんの潜伏期間は20~30年である。そんなことは素人に言われずとも、二人ともがんの専門医だから分かっているはずだ。チェルノブイリの成人に対する影響はこれから現われてくるかもしれないのである。

放射線医学総合研究所が出している『虎の巻 低線量放射線と健康影響 ─先生、放射線を浴びても大丈夫? と聞かれたら』では、低線量の疫学調査の難しさを次のように説明している。

低線量放射線への被ばくによって、がんなどの健康影響があることを疫学研究で示す、すなわち、統計学的に有意に検出することは、対象者数などの点で難しい。線量とリスクの間にLNT(しきい値なし直線仮説)を仮定した場合、被ばくによって増加するがんリスクを統計学的に有意に検出するために必要な対象者数は、おおまかに被ばく線量の2乗の逆数に比例し、被ばく線量が半分になると約4倍になる。

ICRPのPublication 99ではこの統計学的検出力の問題について議論を行なっている。仮に被ばくがない場合のがんの死亡リスクが10%で、被ばくによる過剰死亡リスクが1Gy当たり10%である時、被ばく群と非被ばく群における死亡リスクの差を検出力80%、有意水準5%の片側検定で検出するために必要な調査対象者数は、100mGyの被ばくで約6400人、10mGyの被ばくで約62万人、1mGyの被ばくで約6180万人と試算されている。予想される線量当たりのリスク増加が上記の半分である場合、リスク増加を検出するために必要となる対象者数は上記の約4倍となる。

20mSvの被ばくによってがんが5%増加したかどうかを疫学的に判断するためには、おおざっぱに推計して120万人の調査対象者が必要となろう。これは福島県民の約半数になる。100人に5人が過剰にがんになったとしても、統計的に証明することは困難である。

お二人ともチェルノブイリ事故による発がん影響を根拠にして、内部被ばくは起こらない、無視できると主張している。しかし、チェルノブイリ後の被ばく影響については、広河隆一氏は6万人のカルテが盗まれており、追跡調査の結果は、住民に被害はなかったというIAEAの公式発表を覆すものだった。

「事故後、住民の被害が拡大したのは、専門家の安全宣言だった」との指摘は今日の日本でも有効だ。

また、首相官邸のHPに「チェルノブイリ事故との比較」と題する長瀧重信 長崎大学名誉教授と佐々木康人(社)日本アイソトープ協会 常務理事の声明について、4月17日4月18日のブログで反論を紹介したが、医学博士・松崎道幸氏が詳細に反論しているので、官邸の声明と対比して紹介する。黒字が「官邸資料・声明」、赤字が松崎氏の論文要旨他です。(反論文の詳細はこちら)

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チェルノブイリ事故の健康に対する影響は、20年目にWHO, IAEAなど8つの国際機関と被害を受けた3共和国が合同で発表し、25年目の今年は国連科学委員会がまとめを発表した。これらの国際機関の発表と東電福島原発事故を比較する。

2011年4月15日付首相官邸HP「チェルノブイリ事故との比較」の内容はすべて医学的に誤っている。

1.原発内で被ばくした方

  • チェルノブイリでは、134名の急性放射線障害が確認され、3週間以内に28名が亡くなっている。その後現在までに19名が亡くなっているが、放射線被ばくとの関係は認められない。
  • 福島では、原発作業者に急性放射線障害はゼロ。

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19名のチェルノブイリ原発内被ばく後死亡者の死因が被ばくと関係なしと述べているが、急性白血病など悪性疾患で5名が亡くなっているのが事実。

2.事故後、清掃作業に従事した方

  • チェルノブイリでは、24万人の被ばく線量は平均100ミリシーベルトで、健康に影響はなかった。
  • 福島では、この部分はまだ該当者なし。

24万人の除染作業員と数百万人の周辺住民では6千人の甲状腺ガン以外に健康影響はないと断定しているが、WHOなどのごく控えめな見積もりでも、ガンによる超過死亡は今後4千人から9千人と考えられている事実を隠している。

3.周辺住民

  • チェルノブイリでは、高線量汚染地の27万人は50ミリシーベルト以上、低線量汚染地の500万人は10~20ミリシーベルトの被ばく線量と計算されているが、健康には影響は認められない。例外は小児の甲状腺がんで、汚染された牛乳を無制限に飲用した子供の中で6000人が手術を受け、現在までに15名が亡くなっている。福島の牛乳に関しては、暫定基準300(乳児は100)ベクレル/キログラムを守って、100ベクレル/キログラムを超える牛乳は流通していないので、問題ない。
  • 福島の周辺住民の現在の被ばく線量は、20ミリシーベルト以下になっているので、放射線の影響は起こらない。

放射線被ばくによって増える病気はガンだけではない。原爆被爆者において、ガン、心臓病、脳卒中など様々な病気のリスクが有意に増えることが分かるまでに40年から50年以上の追跡調査が必要だったのに、事故後わずか20年に満たない時点でチェルノブイリ事故の被ばく者の健康に影響がないと述べることは、原爆被ばくを受けた国の被ばく問題専門家の資格が問われる見過ごすことのできない誤りである。

今後チェルノブイリ被爆者の追跡調査が継続されるにつれて、ガン、非ガン性疾患による超過死亡が数万人の単位で発生することが医学的に十分予測される。

一般論としてIAEAは、「レベル7の放射能漏出があると、広範囲で確率的影響(発がん)のリスクが高まり、確定的影響(身体的障害)も起こり得る」としているが、各論を具体的に検証してみると、上記の通りで福島とチェルノブイリの差異は明らかである。

官邸資料が言う「20年目のWHO、IAEAなど8つの国際機関と被害を
受け
た3共和国の合同発表」とは、「チェルノブイリフォーラム
のことです。対象集団が60万人しかなく、過小評価と批判されるこの報告でさえ、「放射線被ばくにともなう死者の数は、将来ガンで亡くなる人を含めて
4000人である」と言っているのです。この報告に準拠していることになっているこの官邸の資料はそれに触れていません。そしてこの「フォーラム」報告自体が、それが準拠しているWHOの報告の内容と矛盾していると指摘されています。

2006年のWHO報告では死者は9千件(対象集団は740万人)、IARC(国際ガン研究機関)論文では1万6千件(対象集団はヨーロッパ全域5.7億人)と報告されています。(参照:京大・今中哲二論文「
チェルノブイリ事故による死者の数」)
他にも多数公的・民間機関の研究結果はありますが、ここでは、数ある研究の中でも被害を低く見積もっているといわれる公的機関の研究結果の重要部分でさ
え、官邸資料は無視しているということを強調しておきます。

長瀧 重信 長崎大学名誉教授
(元(財)放射線影響研究所理事長、国際被ばく医療協会名誉会長)
佐々木 康人 (社)日本アイソトープ協会 常務理事
(前(独) 放射線医学総合研究所 理事長)

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疫学データで何かを主張するときは、その基礎となった対照群のデータの信頼性をまず確認することが学者としての基本だろうと思う。その意味でチェルノブイリ事故に関するIAEAなどの公式発表は信頼性に乏しいと言えよう。

最後にあのミスター100ミリシーベルト・山下俊一氏でさえ、平成12年には「チェルノブイリ原発事故後の健康問題」と題してのように言っていた。

チェルノブイリ周辺住民の事故による直接外部被ばく線量は低く、白血病などの血液障害は発生していないが、放射線降下物の影響により、放射性ヨードなどによる急性内部被ばくや、半減期の長いセシウム137などによる慢性持続性低線量被ばくの問題が危惧される。現在、特に小児甲状腺がんが注目されているが、今後、青年から成人の甲状腺がんの増加や、他の乳がんや肺がんの発生頻度増加が懸念されている。長期にわたる国際協調の下での、協力、支援活動が必要であり、今後とも唯一の原子爆弾被ばく国の責務として、現地への貢献が望まれている。
最後にチェルノブイリの教訓を過去のものとすることなく、「転ばぬ先の杖」としての守りの科学の重要性を普段から認識する必要がある。

中川恵一・近藤誠の両氏は、「専門家の安全宣言が被害を拡大する」というチェルノブイリの教訓を、肝に銘じておくべきではなかろうか。

<終わり>


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