がんとエピジェネティクス(2):エピジェネティクスとは?


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遺伝子の実態はDNA(デオキシリボ核酸)で、ワトソンとクリックが発見したように二重らせんの構造をしています。しかしDNAは二重らせんのままむき出しになっているのではなく、そのまわりに多様な有機分子を結合しています。いわば腕をワイシャツの袖で覆っているようなものです。DNAは衣服をまとい装飾品で飾りたてているのです。

この有機分子が、遺伝子を活性化(タンパク質を作る指令)させたり不活性化させたりするのです。遺伝子には自分自身を活性化させることはできません。どういうタイミングでどの遺伝子を活性化させるかは、細胞核の外からの情報として与えられます。しかもこれらの有機分子は長時間同じ遺伝子にくっついている、場合によっては子孫にまでその状態が引き継がれるのです。遺伝するのは遺伝子だけではないのです。

「エピジェネティクス」とは、遺伝子の働きを調整するこれらの分子が、どのようにして遺伝子をコントロールしているのかを研究する学問分野で、21世紀のこの十年間で急速に発展している分野です。特にがんに関するエピジェネティクスはよく研究されています。がん細胞内では多くの遺伝子がメチル基を失って「脱メチル化」していることが知られています。これによって遺伝子活動の異常が生じます。細胞増殖を抑制できなくなるのです。がんは遺伝子の突然変異によっても生じますが、多くが遺伝子の脱メチル化なのです。突然変異は元には戻せませんが、脱メチル化は、エピジェネティックなものなので元に戻すことができるのです。この点に将来への大きな希望があります。

細胞をパソコンに例えることができるでしょう。遺伝子あるいはゲノムはハードディスクです。ここに基本的なOSや動作の設計図であるプログラムが書かれています。しかしこれだけではパソコンは動きません。プログラムを起動し、キーボードやLANを経由したインターネットの情報を整理して(環境の情報を取り入れて)、次にどのような動作をするべきかを指令する装置が必要です。パソコンではCPUです。細胞では、実は細胞膜がその役割を果たしているのです。

遺伝子は単なる設計図の格納庫です。重要な設計図ですが、例えれば、ハードディスクがなければパソコンとしてほとんど機能しないでしょう。しかし、ハードディスクだけでパソコンが動くと考える人はいないはずです。

エピジェネティックな現象としてはいくつかありますが、その一つとしてヒストンのアセチル化を例にとって紹介します。

DNAはひものようなものが単純に存在しているのではなく、ヒストンといわれる物質(ヒストン八量体)に約二回巻き付くようになっています。このヒストンのしっぽの部分にアセチル基がくっついて、それが目印の役割をしてDNAの転写が促進されます。
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また、DNAそのものにも、DNAのアミノ基シトシンのメチル化という現象があり、遺伝子の発現が抑制されるのです。

細胞が、多彩に変化する環境にDNAに書かれた設計図だけで対応することは不可能だということは、簡単に想像ができます。コンピュータプログラムも、私がプログラミングをはじめた初期には、N88BASICのように「フロー駆動型」であったものが、いまでは「イベント駆動(イベント・ドリブン)型」といわれるものに置き換わっています。イベント・ドリブン型というのは、キーが押された、マウスがある領域の上でクリックされたというような、あるイベントに対してどういう反応をするかをプログラミングしています。環境のできごとに対して反応が定義されているのです。

細胞も、細胞膜を通じて周辺からの情報を入手して、それに対してどのような反応をするか、どの遺伝子を使ってどのタンパク質を作るのかを決定しているのです。その際に、細胞の周囲(微小環境)からの情報、周囲にある別の細胞との協調関係など、実にさまざまな要因を考慮して、反応を決定するのです。

遺伝子に書かれた単純なフロー駆動型で、私たちの生命が維持されるはずはないのです。

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