夢枕獏『大江戸恐竜伝』

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夢枕獏の『大江戸恐竜伝』全五巻を読み終えた。昨年9月より一巻ずつ発売されて、1月に第五巻が刊行されたものです。いや~、おもしろかった。彼の小説を読むのは『神々の山嶺』以来です。第五巻を読み終えて最後のページを見て、おやっと思った。

平成二十五年(二〇一三)八月二日
『大江戸恐竜伝』完
高知県、馬路温泉にて

と書かれてある。馬路温泉なら私の郷里のすぐ近く。「ごっくん馬路村」のゆずで村おこしに成功した馬路村にある。まだ新婚のころ(かれこれ35年前)に一度この温泉に入ったが、当時はお世辞にもきれいとは言えない施設だった。現在は立派な温泉宿に様変わりしているようだ。夢枕漠は釣りもやるから安田川の鮎釣りにでも行っていたのだろう。

構想から20年、執筆に10年かけたという。冒険小説だと本人は言うのだが、SFといっても良い。主人公はエレキテルで有名な江戸時代の鬼才・平賀源内と恐竜である。絶滅したはずの恐竜は、実は中国の奥地にわずかに生き残っており、秦の始皇帝を「東方の蓬莱山に長生不老(不老不死)の霊薬がある」とたぶらかして、大金を巻き上げた徐市(じょふつ。徐福の別名)が、この龍も船に乗せて東方へ船出した。その蓬莱山が沖縄の伝説にあるニルヤカナヤであり、建物も鎧もすべて黄金でできている国である。恐竜はニルヤカナヤで生きていた。

ニルヤカナヤを探し当てた平賀源内は、オランダ人らとの戦闘の末に恐竜の饕餮(トウテツ)を連れて江戸に帰ってくるが、将軍家治が見物をしていたその時に、放火による火事になり江戸市中に逃げ出す。放火したのは盗賊・火鼠の一味であり、その頭の火鼠の銀八とは、実は源内の愛人・お吟であった・・・。

何とも壮大な物語で、登場人物も杉田玄白、田沼意次、「鬼平犯科帳」の長谷川平蔵、大泥棒の稲葉小僧:伊奈吉など多彩な顔ぶれです。

饕餮(トウテツ)」とは、中国神話の怪物だそうです。饕餮の「饕」は財産を貪る、「餮」は食物を貪るの意であると。何でも食べる猛獣、というイメージから転じて、魔を喰らう、という考えが生まれ、後代には魔除けの意味を持つようになった、とあります。命よりも金、経済第一主義であとの世代のことは考えないというのは、3.11後原発事故への対応を見て、いやと言うほど思い知らされたことです。

読みながら、恐竜とは原発のことではないかと感じたのですが、執筆からでも10年ですから3.11の遙か前です。しかし、著者のあとがきには、

大自然の力の象徴である龍を、果たして人間がコントロールできるのか。これは三・一一以来、われわれがずっと考え続けてきていることでもあります。

と書かれているので、私の感想もあながち的外れではないようです。

大江戸恐龍伝 (一) (小学館文庫)

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