抗がん剤で進行がんが治ると誤解している

アピタル夜間学校『抗がん剤は効くの、効かないの?』の動画が公開されました。先日のブログでも紹介したのですが、放送を見られなかった方には是非見ていただきたい。(YouTubeから全画面表示にすると大きな画面で観ることができる)

結局、抗がん剤は効くのか、効かないのか――がん患者にとって切実な問題であると同時に、もっとも知りたい情報のひとつです。

抗がん剤でがんが治るのか、という意味では抗がん剤は効きません。多くの手術できない進行した固定がんでは、抗がん剤でがんが治ることはありません。ある調査によればがん患者の大多数が抗がん剤で治ると考えているそうです。「治らない」と正しく理解している患者は30%しかいませんでした。

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進行した膵臓がんでは抗がん剤による治療効果は「症状緩和が期待できる」とされています。つまり、B群のようには「延命効果が期待できる」とは書かれていません。

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つまり、症状を緩和して「がんとのよりよい共存をめざす」のが(膵臓がんを始め多くの固形がんでは)抗がん剤の使用目的になるのです。

そこのところを多くのがん患者が誤解しています。その気持ちもよく分かるのですね。「抗がん剤では治らない」とは言っても、希には抗がん剤で腫瘍が縮小して手術が可能になったり、「治ったもどき」になって何年も腫瘍が大きくも小さくもならず、上手に共存できる場合もあるからです。「私ももしかしたら・・・」と考えるのはがん患者としては当然だと思います。

こんなに辛い副作用に耐えているのだからきっと効果があるはず、というのも誤解の一つです。副作用の程度と効果にはなんの関係もありません。むしろ副作用がひどいと寿命を縮めている可能性もあるのです。

勝俣先生は、さすがにEBM重視の考えで話されていますが、抗がん剤のエビデンスは、若くて元気できつい抗がん剤をやっていない患者を対象として臨床試験を行ったものです。だから、ファーストラインでアブラキサンとゲムシタビンをやったが効果がなかった。セカンドラインのTS-1はどうだろうか、としたときにエビデンスはありません。効果があるのかないのか証明されていません。

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ただ、医師のコンセンサスとして「たぶんやらないよりはましだろう」とされているだけです。医師(専門家)の意見というのは、エビデンスレベルで言えば最低のランクです。

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膵癌診療ガイドライン2013版にも、

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こう書かれていますが、「海外におけるランダム化比較試験」の症例数は38例ほどであり、「高いエビデンスが得られているとは言えない」とされています。また、そのレジメンは(グレードC1)であり、これはエビデンスはないが、一次治療でやっているのだから良いのでは?という「専門家のコンセンサスがある」という程度のものです。

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勝俣先生も、「好きな趣味などもあきらめて、身も心もボロボロになるまで抗がん剤治療を受ける患者さんを見かけることもあるそうですが、「進行がんの段階まで来ている場合、それは少し過剰なのではないかと思います」とのことです。

「抗がん剤でぼろぼろになる」と近藤誠氏らは言いますが、やり過ぎるとそういうことにもなるわけです。

最後の最後まで抗がん剤をやるよりは、早期に緩和ケアを導入して抗がん剤をやめた方がかえって生存期間は延びるというThe New England Journal of Medicine(NEJM)の報告も紹介されていました。

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ただ、どちらが延命効果があるのかは統計的には述べることができますが、”自分”にとってはどうなのか? それは永遠に分かりません。Aの治療をやった”自分”とやらなかった”自分”を比較することはできないからです。

結局はその患者の考え方次第。どういう人生を送りたいのか。残された時間に何を大切にしたいのか、それをはっきりとさせておくことでしょう。EBMも大事けれど、セカンドラインの抗がん剤にEMBが乏しいように、医療の分野でキチンとしたEBMがある治療法は30%以下だと言われています。過剰にEBMに囚われることもないですね。

「治る」希望を持つことは大切ですが、いつのまにか「希望」が「執着」になってしまいがちです。「執着」することで逆に落ち込んで、身も心もぼろぼろになってしまいます。そんな状態にはなりたくないものです。

いくつかの私なりの批判もあります。勝俣先生は『「抗がん剤は効かない」の罪』(P.33)で、

副作用が多いからといって、安易に減量投与されるというのも、 専門医の少ない日本ならではの現象です。 血液がんでは、 抗がん剤の投与量を減らすと生存率まで減少してしまうので、なるべく減らさず投与するのが専門医の常識。 固形がんでも、乳がんや卵巣がんなど抗がん剤がよく効くがんでは同様のデ ータがあります。 その他のがんでも、本来は副作用管理をしっかりやり、必要がない限り減量せずに投与すべきです。

減量した抗がん剤、しかも副作用がほとんど出ないような超低用量で抗がん剤を使うこに効果があると主張し、治療を行っている医師がいます。
この理論は「休眠療法」とか「メトロノミツク療法」などと呼ばれることもあります。

理論的には良いところもあるのですが、医学的にしっかりと有効性を示したデータ(ランダム化比較試験での報告)はなく、実際の医療現場で患者さんに行うことが推奨される治療法ではありません。きちんとした量の抗がん剤を投与すれば、もっと効果がある可能性もあります。また、超低用量であるため、抗がん剤を使わなかった患者さんと比べて本当に効果、があるかどうかさえもわかっていません。

本来なら、 こうした根拠のない治療法は、臨床研究としてきちんと治療計画書を作成し、倫理委員会で承認を得てから、まずは研究として行われるべきだと思います。

と休眠療法を批判していますが、述べている試験は乳がんの術後補助化学療法での抗がん剤治療の例であって、進行がんの患者が対象ではないのです。

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セカンドライン以降の抗がん剤治療にはエビデンスがなく、減量したら効果があるのかないのかのエビデンスもありません。休眠療法にもエビデンスはありません。したがってこの例を持って休眠療法を非難することはできないでしょう。むしろ、勝俣医師が言うように最後の最後には抗がん剤を止めた方が生存期間が延びるというのであれば、休眠療法も、立派な一つの緩和ケアの選択肢であるはずです。

【追記】

Medエッジに『最期の抗がん剤は生活にとって良くない、米国有力医学誌が報告』という記事が掲載されました。

末期がんの最期の数カ月前、数週間前に抗がん剤による化学療法を行っても、本人の生活の質を向上させず、利益よりも害が上回ると報告されている。

調査開始時点において全般的にパフォーマンスが保たれている人では、緩和的な化学療法によって生活の質がむしろ悪化するという結果になっている。生存にも効果はなかった。
調査開始時にパフォーマンスが悪かった人には、治療により生活の質にも生存にも効果は確認できなかった。

つまり、ある程度元気な患者であれ、そうでない患者あれ、最後の最後まで抗がん剤をやれば寿命を縮めることになる。問題は、自分が数ヶ月後に死ぬと、確認を持って判断できないことです。


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