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エビデンスだけでがん治療ができるのか?(5)

脳神経学者であり医師の中田力氏は、『穆如清風-複雑系と医療の原点』でこんなことを言っています。

医療における不確定性は、複雑系のもたらす予想不可能な行動に由来し、実際にやってみないと結論が出せないことで満ちている。そして、やってみた結果が予想と反することなど日常茶飯事である。

それでも、現実的には、病に悩む人々に複雑系の理論を説いて納得を促すことは無理である。現場の臨床医は神に尋ねることも許されず、医学にすべてを委ねるわけにもいかず、不確定さを理解した上で、患者の選択すべき道を決定論的に示さなければならない。もっとも適切な選択は経験則だけが教えてくれる。しかし、それが必ず良い結果を生むとは限らない。だからこそ医療は、医師と患者との間に、ある種の盲目的な信頼関係がなければ成り立たないのである。

医師は神であってはならない。しかし、同時に、単なる人間であってもその責務は果たせないのである。

がんも人間も「複雑系」

「複雑系」とは、相互に関連する複数の要因が合わさって全体としてなんらかの性質(あるいはそういった性質から導かれる振る舞い)を見せる系であって、しかしその全体としての挙動は個々の要因や部分からは明らかでないようなものをいう。-Wikipediaより。

つまり、原因と結果が1:1に定まらない。タバコを吸ったからといって肺がんになるとは限らないし、肺がんの原因がタバコとは限らない。抗がん剤が効く患者もいれば、効かない患者もいる。多数の要因が複雑に絡み合って、時には<バタフライ効果>のように、思いもよらない結果をもたらすのです。

人工透析をしている患者に対して『自業自得の人工透析患者なんて、全員実費負担にさせよ!無理だと泣くならそのまま殺せ!』とブログに書いた長谷川豊も、「健康ゴールド免許」を提案している小泉進次郎も、人間が複雑系だということを分かっていません。

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エビデンス(科学的な根拠)やガイドラインに従った治療を行っても、治るという未来は保証されない。医療の結果は予測不可能で、あくまでもある確率で治る可能性があるというだけのことです。ただ、その確率が高いものが(それ以外もあるが)ガイドラインとして推奨されているのです。

医療は不確実性の分野ですから、唯一の正解があるわけではありません。患者としてはどのような医師が望ましいか。『医者は現場でどう考えるか』の著者ジローム・グループマンは『決められない患者たち』で次のように述べています。

決められない患者たち

決められない患者たち

Jerome Groopman MD, Pamela Hartzband MD
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ある病気の治療について、「誰がベストの医師」か、と聞かれることがしばしばある。一つの判断基準として、その病気と治療に関する知識、科学的な
データの用い方、いわゆるエビデンス(科学的な根拠)・ベースト・メディシンを行っているか、ということが挙げられる。しかし私たちが考えるベストの医師とは、さらに一?踏み込んで「ジャッジメント・ベースト・メディシン」、すなわち使用可能なエビデンス(科学的な根拠)を考えに入れることはもちろんだが、それを個々人にどのように当てはめるかを慮った医療を行う医師である。

EBMとは「エビデンス」と「患者の意向」と「医療者の臨床技能」とを個々の医療プロセスにおいて統合、「目の前の患者の最大幸福」を追求するための方法論であり、道具です。

近年「患者の意向」がEBMに取り入れられてきたのは当然と言えます。(1)でも書いたように、新しい「膵癌診療ガイドライン 2016年版」では世界的ガイドライン作成ツール(GRADE)にしたがって「患者の利益と不利益、患者の経済的状況、医療の現場で行われる医療行為」も考慮すべきだとしています。

根拠に基づく医療―EBMの実践と教育の方法しかし、その内実が伴っていません。EBMの推進者Sackettの著作、医療者向けのEBMの教科書で「経験と意味」という項目を追加しています。医療において患者の”主観的な”幸福の達成のためには、「患者が病をどのように経験し、それをどのように意味づけるか」が重要で、それが「患者の治療効果と切り離せない」と述べています。

つまり、EBMは、エビデンスのように客観的な問題だけではなく、患者の主観的な問題も扱うべきだといっているのです。

ではEBMの信奉者はどうすべきか? 当のSackett自身が「このような問題を扱う研究法は、臨床疫学者の専門範囲外であるため、他の専門家の見解に従いたい」と、匙を投げているのです。

つまり、臨床疫学のエビデンスだけでは、今日の”世界的に新しい”EBMは推進できず、患者の最大幸福も追求することが難しいのです。

標準治療で効果がなくなれば、「もう治療の方法がありません。あとは緩和ケアを紹介します」というのは、EBMでもなんでもなく、エビデンス至上主義者による「患者の意向と最大幸福」を顧みないEBMの否定なのです。


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