今日の一冊(83)『がん治療革命の衝撃』
昨年11月の放送されて大きな反響をよんだNHKスペシャル「“がん治療革命”が始まった ~プレシジョン・メディシンの衝撃~」の内容に、2017年7月現在での最新情報を付け加えて出版されたものです。
がん治療は、これまでの臓器ごとに抗がん剤を開発し、臨床試験をしてエビデンスを確立して治療する、そうした流れが大きく変わろうとしています。
遺伝子の変異箇所を見つけて、それに効果がある分子標的薬を投与することによって劇的に腫瘍が縮小して、延命効果を得ることができる時代が到来しようとしています。
分子標的薬は、従来の抗がん剤に比べて副作用が少ないという利点があり、さらに、遺伝子変異のタイプが分かっているので、使う前に効果があるかどうかがある程度分かるのです。患者にとっては大きなメリットです。
遺伝子検査の結果、遺伝子の変異が見つかっても、それに効果が証明された分子標的薬がなければ治療ができません。あっても日本で承認されていなければだめだし、特定の臓器ごとの承認制度ですから、別の臓器への適用はできず、全額自費になります。
確かにすばらしい治療法ですが、恩恵を受けることのできる患者は少ないでしょう。
また、分子標的薬もいずれ耐性ができて効かなくなります。耐性ができるとは、腫瘍に別の遺伝子変異が現れてくるということです。それじゃあと、別の薬を使うためには、また遺伝子変異を調べなければならない。臓器を採取することは患者の負担になるから、血液から簡便に遺伝子変異を調べる「リキッドバイオプシー」が必要になり、開発されています。
やはり抗がん剤は延命効果と症状の緩和をめざす治療には変わりがないのです。