8月から高額療養費の自己限度額引き上げに反対するパブコメを提出しました。
2026年8月に予定されている高額療養費の自己負担限度額引き上げに対し、反対のパブリックコメントを提出した。改正案は国民皆保険制度を揺るがし、国民の生命と健康の保持を困難にすると主張されている。医療のセーフティネットを維持するため、本案の速やかな撤回が求められている。
負担増は経済的理由による受療抑制を招き、患者を追い詰める危険性がある。削減される財政規模が限定的である一方、物価高騰や他予算との配分の不均衡が指摘されており、制度本来の目的である経済的理由で必要な医療から排除されない仕組みの堅持を訴えている。
石破前総理が凍結した高額療養費引上げ案を、高市政権が強引に復活して押し進めようとしています。パブコメを出したからといって政府がその案を引き込めるとは思えませんが、私自身の意思表示として以下のようなパブリックコメントを提出しました。
健康保険法施行令等の一部を改正する政令案に対する意見(反対)
【1】意見を提出する対象の案件名
健康保険法施行令等の一部を改正する政令案
【2】意見の概要
2026年8月から予定されている「高額療養費の自己負担限度額の引き上げ」に対し、国民の生命と健康の保持、および国民皆保険制度の維持を脅かすものであるとして、全面的に反対し、本改正案の撤回を強く求めます。
【3】反対意見の理由
■ 理由1:【実体験】19年前の膵臓がん手術を支えてくれた「高額療養費制度」への恩恵と感謝
私は今から19年前の2007年、「がんの王様」と呼ばれる膵臓がんの告知を受けました。直腸がんの経験もあった私にとって、二度目のがん、それも極めて予後が厳しいとされる膵臓がんの告知は、言葉にできないほどの葛藤と大きな精神的動揺をもたらすものでした。
幸いにも切除可能との診断を受け、私は命を繋ぐための開腹手術という大手術に臨むことができました。大手術やそれに伴う長期入院には、当然ながら非常に高額な医療費が必要となります。身体的な苦痛と死への恐怖に怯える中で、さらに「一体どれほどの治療費がかかるのか」「家計はどうなってしまうのか」という経済的不安まで重なっていたら、私の心は間違いなく折れていました。
しかし、日本には「高額療養費制度」がありました。窓口で支払うべき自己負担額に確固たる上限が設けられていたおかげで、私はお金の心配を最小限に抑え、「治療に専念する」という強い意志を持つことができました。
私が膵臓がんという難病を乗り越え、19年経った今もこうして元気に生存できているのは、食事や運動、睡眠、そして何より「治療費の心配をせず、心の平穏を保って回復に努められたこと」の総合的な効果であると確信しています。もしあの時、制度が十分に機能していなかったり、自己負担限度額が手を出せないほど高額に設定されていたりしたら、私は手術や治療を躊躇し、今日の命はなかったかもしれません。
■ 理由2:経済的な理由による受療抑制(治療諦め)と病状重症化のリスク
医療のセーフティネットが機能していたからこそ救われた一人のサバイバーとして、今回の自己負担限度額の引き上げ方針には強い危機感を抱かざるを得ません。
がんや難病、慢性疾患などで月単位の継続治療が必要な患者にとって、自己負担額の引き上げはダイレクトに生存を脅かす障壁となります。経済的な理由から、治療の間隔を空けたり、薬を減らしたり、治療そのものを諦めざるを得ない「受療抑制」が起こることは火を見るより明らかです。これは適切な医療を受ける権利の侵害であり、結果として多くの患者の命を危険にさらし、長期的には重症化による救急搬送の増加や、全体的な医療費増大を招く悪循環を生み出します。
■ 理由3:物価高騰下における国民生活の実態を無視した負担増
現在、日本は長引く急激な物価高(食料品・光熱費等の高騰)に直面しており、国民生活は非常に逼迫しています。このような厳しい経済環境下において、さらなる医療費の自己負担増を課すことは、家計の購買力を削ぎ落とし、生活困窮者をさらに追い詰めることになります。ギリギリの生活を送っている中低所得層の生活実態や患者への影響について、十分な調査・検証が行われないまま本改正を導入することは、極めて乱暴であり、到底容認できません。
■ 理由4:財政削減効果の極めて低い見直しと、歪んだ国家予算配分への疑問
本改正により政府が目指す医療費の削減(給付抑制)効果は、国・地方の公費や保険財政を合わせても全体でわずか300億円程度に過ぎないとされています。これは、年間約47兆円に上る日本の国民医療費全体のわずか0.06パーセント程度という、極めて微小な割合です。
また、この過酷な患者負担増と引き換えに、現役世代が得られるとされる社会保険料の負担低減効果も、加入者1人あたりで月にわずか117円ぽっきりに過ぎません。
このように、生活困窮者や難病患者を限界まで追い詰め、命のセーフティネットを削り取って生み出す財政効果が極めて微小である一方、政府は軍事費(防衛関係費)にはその280倍以上にあたる8.5兆円もの巨額の予算を計上しているのが現状です。
国家の真の「安全保障」とは、外敵からの防衛のみならず、国民が病気や困窮によって生活を破綻させ、命を落とさないよう、国内の社会保障を守り抜くことであるはずです。医療・福祉のわずか数百億円の予算を削りながら、その何百倍もの予算を軍備に惜しみなく投入する現在の国家予算の配分は著しくバランスを欠いており、断じて賛同できません。
■ 理由5:国民皆保険制度が目指すべき方向性との乖離
高額療養費制度の本来の目的は、「必要な人が経済的理由で必要な医療から排除されないこと」です。一部の富裕層のみが最新・最適な医療を享受でき、庶民がそれを我慢せざるを得ない社会構造に向かうことは、日本が誇るべき国民皆保険の理念(すべての国民が等しく良質な医療を受ける権利)に真っ向から反します。医療費の持続可能性を議論するのであれば、患者への負担転嫁ではなく、国の責任として適切な財政基盤を確保し、防衛費などの他予算の見直しを含めた本質的な分配策を優先すべきです。
【4】結論
19年前に高額療養費制度によって命を救われた当事者として、本改正案における「自己負担限度額の引き上げ」に強く反対し、本改正の速やかな撤回を求めます。
これから重い病に立ち向かう患者たちが、経済的な不安に脅かされることなく、安心して治療に専念できるよう、この偉大なセーフティネットを今以上に強固なものとして維持・改善することを切に要望します。

