シリーズ「がんとAI、伴走録」(1):がんの告知を受けた日、AIとどう付き合うか

「GEN AI: Chatting with you...」と表示されたタブレットを使い、笑顔で会話を楽しむ高齢の女性。

「がんです」——そう告げられた瞬間から、頭の中は一気に情報でいっぱいになります。病名、ステージ、治療の選択肢、これからの生活。すべてを一度に理解しろと言われても、正直、無理な話です。

そんな時代の変化を裏づけるように、2026年6月、公益財団法人日本対がん協会から興味深い調査結果が発表されました。今日は、その内容を紹介しながら、告知直後のがん患者さんが生成AIとどう付き合えばいいのか、私なりに考えてみたいと思います。

日本対がん協会の調査から見えてきたこと

この調査は、2026年3月に全国の15〜89歳のがん患者・家族約1万人を対象に実施されたものです。さらに、実際にAIを利用している427人には、より詳しい使い方についても質問しています。

利用率はまだ1割未満。でも「使っている」こと自体に意味がある

生成AIを実際に利用しているのは、がん患者本人で6.7%、家族で7.5%でした。数字だけ見ると「まだそんなものか」という印象を持つ方も多いかもしれません。

ただ、慶應義塾大学の宮田裕章教授はこの結果について、がんという病気にかかる年齢層を考えれば、すでにこれだけの人が使っていること自体が重要な意味を持つ、と指摘しています。認知率(知ってはいるが使っていない層も含む)は本人36.7%、家族44.6%まで上がることを考えると、「使ってみようかな」という予備軍はかなり広がっていると言えそうです。

何に使われているか——「わかりやすくしてほしい」が最多

利用者がAIに求めている役割で最も多かったのは、「情報を分かりやすく説明・要約・比較検討してくれること」(62.4%)。相談内容としては「がん治療に関する情報」(62.9%)、「症状・副作用・後遺症のこと」(60.6%)が上位でした。

利用理由も「すぐに調べられる・相談できる」「無料で使える」といった、いたってシンプルな利便性が中心です。専門用語だらけの説明を、自分の言葉に翻訳してくれる存在として使われている様子がうかがえます。

見過ごせない数字——6割超が「誤情報」を経験

一方で、見過ごせないデータもあります。生成AIの回答が誤っていると感じた経験がある患者は66.2%。「数回ある」が37.6%、「何度もある」が23.9%にのぼりました。

それでも、患者・家族ともに約4割が「病気や治療への理解が深まった」、約3割が「受診や相談の事前準備がしやすくなった」と回答し、合計で約7割がAIの活用をポジティブに捉えているのも事実です。もちろん、「知識が増えて逆に混乱した」「病院に行かなくなった」という声もあり、光と影の両方がある、というのが正直なところでしょう。

一番の注目ポイント——治療期間が短いほど利用率が高い

私が個人的に一番はっとしたのが、この結果です。がん患者本人の利用率を治療期間別に見ると、治療開始から3カ月未満の患者で利用率が高く、期間が短いほど利用率が上がる傾向が見られました。

つまり、生成AIが最も使われているのは、まさに「告知を受けた直後」に近いタイミングだということです。宮田教授も、この時期は不安から最初の判断に迷い、情報を強く必要としている段階であり、AIによる初期の誤った判断が治療方針を大きく歪めかねない、命に関わる可能性すらある重要な局面だと述べています。

では、告知直後にAIをどう使えばいいのか

この調査結果を踏まえると、告知直後のAI活用には「向いている使い方」と「危うい使い方」がはっきり分かれてくると感じます。私なりに、ポイントを整理してみました。

 ChatDPTでもGeminiでもClaudeでもよいので、お好みの生成AIの無料バージョンで結構ですから、プロンプト例を入力してみてください。タブレットやスマホならマイクを使って話し言葉で入れるのが使いやすいです。

① 「理解を助ける道具」として使う

告知直後は、医師から告げられた病名やステージ、治療方針の説明を、その場で全部消化するのはほぼ不可能です。診察室でメモした断片的な言葉をAIに渡し、意味をかみ砕いてもらう。これは、まさに今回の調査で最も多かった使われ方(わかりやすく説明・要約してもらう)そのものです。

プロンプト例:

医師から「ステージ3の〇〇がんで、術前化学療法を3か月行ってから手術する予定」と説明を受けました。中学生にもわかるくらい、やさしい言葉で説明してください。専門用語を使う場合は、必ずかっこ書きで意味も添えてください。

病理検査の結果に「浸潤性〇〇癌、リンパ節転移あり」と書いてあります。これがどういう状態を意味するのか、不安を煽らないよう淡々とした言葉で説明してください。

今日の診察でもらった説明文をそのまま貼ります。要点を3つだけ箇条書きでまとめてください。(その後に説明文を貼り付ける)

② 「次の一手」を整理する道具として使う

頭が真っ白な状態では、何から手をつければいいかもわかりません。「今すぐ確認すべきこと」「次の診察までに準備すること」「後回しでいいこと」を一緒に仕分けしてもらう。判断そのものをAIに委ねるのではなく、判断のための「地図」を作る手伝いをしてもらう、というイメージです。

プロンプト例:

昨日、乳がんのステージ2と告知されました。次回の診察は2週間後です。それまでに準備しておいた方がいいこと、確認しておくべきことをリストアップしてください。優先度が高い順に並べてください。

頭の中にある不安や疑問を、思いつくまま箇条書きで書き出します。これを「今すぐ考えるべきこと」「次の診察で聞くこと」「今は考えなくていいこと」の3つに仕分けしてください。(その後に不安や疑問を書き出す)

会社を休職する必要があるかもしれません。休職の申請に必要な確認事項や、上司に伝えるべき最低限の情報を整理してください。

③ 「治療方針」の答えはAIに求めない

今回の調査でもっとも重い数字は、誤情報を経験した患者が6割を超えるという事実です。特に告知直後は不安から「早く答えが欲しい」という気持ちが強くなりますが、治療の選択肢や予後についての判断は、必ず主治医・セカンドオピニオンに委ねるべき領域です。AIは「聞くべき質問をリストアップする」ところまでは強い味方になりますが、「この治療でいいのか」を決める役割ではありません。

プロンプト例:

手術と放射線治療の2つの選択肢を提示されました。どちらが良いかの判断はしないでください。その代わり、次回の診察で医師に確認すべき質問を、それぞれの治療法について5つずつ考えてください。

セカンドオピニオンを受けるにあたって、今の診断内容や治療方針をどう説明すればスムーズに伝わるか、要点を整理する手伝いをしてください。この治療方針が正しいかどうかの判断は不要です。

④ 「感情の一次受け皿」として使うのはあり、ただし専門家への橋渡しを忘れずに

不安や恐怖、怒りといった感情を、誰かに話す前にまずAIに書き出してみる、というのも一つの使い方です。ただし、これはあくまで一次的な壁打ち相手であり、本当につらい時は、医療者やがん相談支援センター、患者会など、人とのつながりに橋渡しをすることが大切です。

プロンプト例:

今、頭の中がぐちゃぐちゃで、不安と怒りと悲しみが入り混じっています。診断されてから感じていることを、思いつくまま書き出すので、判断や励ましは不要です。ただ聞いてください。(その後に気持ちを書き出す)

家族には心配をかけたくなくて本音を話せていません。まずここで、誰にも言えなかったことを吐き出したいので、聞いてもらえますか。話し終えたら、こういう気持ちを話せる場所(相談窓口や患者会など)があれば教えてください。

⑤ 「誤情報があるかもしれない」という前提を崩さない——ハルシネーション対策を具体的に

利便性が高いからこそ、つい鵜呑みにしたくなりますが、6割超が誤情報を経験しているという数字は重く受け止めるべきです。生成AIは「もっともらしい嘘」、いわゆるハルシネーションを起こすことがあります。特に医療情報では、存在しない薬剤名、実在しない臨床試験、古いガイドラインに基づく情報などが紛れ込むリスクがあります。告知直後という最も判断力が揺らぎやすい時期だからこそ、次のような「防波堤」を意識してほしいと思います。

1. AIの回答は「一次情報」ではなく「たたき台」として扱う

AIが出してきた説明や数字は、そのまま信じるのではなく「本当にそうなのか、確認が必要な仮説」として受け止めることが基本です。特に、具体的な数値(生存率、副作用の発生率、薬の用量など)は、AI単体の回答を根拠にしないようにしましょう。

2. 必ず「一次情報」に立ち返って照合する

国立がん研究センターの「がん情報サービス」や、学会が公開している診療ガイドラインなど、公的機関・専門機関が発信している情報と照らし合わせる習慣をつけましょう。

プロンプト例:

今の回答について、根拠となる情報源(公的機関のガイドラインなど)を教えてください。もし明確な出典がない場合は、正直に「不明」と答えてください。

この情報が、国立がん研究センターの「がん情報サービス」に掲載されている内容と一致しているか、あなたの知識の範囲で構わないので確認してください。断定できない場合はその旨を明記してください。

3. 「知らないことは知らない」と言わせる

AIは、聞かれると何かしら答えようとする性質があります。逆に言えば、「わからなければ、わからないと答えてください」と最初に伝えておくことで、無理に作られた回答(ハルシネーション)を減らすことができます。

プロンプト例:

これから聞く質問について、確信が持てない場合や、情報が古い可能性がある場合は、必ず「確信が持てません」「最新情報を確認してください」と正直に伝えてください。分からないのに、それらしい答えを作らないでください。

4. 同じ質問を、日を置いて/表現を変えて聞き直してみる

生成AIの回答は、聞き方や日によって微妙に変わることがあります。同じ内容を少し違う言葉で聞いてみて、回答の内容が大きくブレる場合は、その情報自体の信頼性を疑うサインです。

5. 「医師に確認済みか」を自分の中でチェックリスト化する

AIから得た情報のうち、治療方針・薬の量・今後の見通しに関わる内容は、次の診察で必ず医師に確認する、というルールを自分の中で決めておきましょう。「AIに聞いたのですが」と切り出して主治医に確認すること自体は、何ら悪いことではありません。むしろ、医師とのコミュニケーションを補強する使い方として、今回の調査でも「事前準備がしやすくなった」というポジティブな声につながっています。

6. 家族や医療者と「答え合わせ」をする

一人で抱え込まず、家族やがん相談支援センターの相談員にも、AIから得た情報を共有し、一緒に確認する。第三者の目を通すことで、AI単体では気づけない誤りや偏りに気づきやすくなります。

こうした一手間は、面倒に感じるかもしれません。ですが、告知直後という最も判断力が揺らぎやすい時期だからこそ、「AIの回答をそのまま信じない」という一線を、あらかじめ自分の中に引いておくことが、結果的に自分を守ることにつながります。

おわりに

生成AIの利用率はまだ1割に満たないものの、最も使われているのが「告知直後」という不安のピークにあたる時期だという事実は、今後さらに重みを増していくはずです。便利さと危うさが表裏一体であることを踏まえたうえで、「理解を助け、次の一手を整理してくれる相棒」として、上手に付き合っていけたらと思います。

(出典:公益財団法人日本対がん協会「がんサバイバー・クラブ」がん患者・家族の生成AI利用状況に関する調査報告、2026年6月18日発表)

次回予告:シリーズ「がんとAI、伴走録」はじめます

この記事は、シリーズの第1回です。タイトルは 「がんとAI、伴走録(はんそうろく)」 としました。

がん治療は、医師や家族だけでなく、日々の暮らしの中にたくさんの「小さな判断」が積み重なる長い道のりです。生成AIを、治療方針を決める相棒ではなく、その道のりに寄り添い、理解や整理を助けてくれる伴走者として使いこなす——そんな距離感を、これから全13回(告知直後を扱った本記事+12テーマ)でじっくり掘り下げていきます。

次回以降、以下のようなテーマを1つずつ、具体的なプロンプト例つきで取り上げていく予定です。

  1. この記事:がんの告知を受けた日、AIとどう付き合うか
  2. 診断書・検査結果の言葉をかみ砕く
  3. 診察前の質問リスト作り
  4. セカンドオピニオンの準備
  5. 体調・症状の記録整理
  6. 気持ちの整理・壁打ち相手
  7. 家族や職場への伝え方のサポート
  8. 社会制度・経済的支援の情報整理
  9. 食事・栄養面のアイデア出し
  10. 治療スケジュール・服薬管理
  11. 患者会・体験談情報の検索補助
  12. 緩和ケアについての理解を助け、緩和ケアチームへの相談を整理する
  13. 終末期に「死」と向き合う言葉を紡ぐ(シリーズ最終回)

次回は「②診察前の質問リスト作り」を予定しています。限られた診察時間をどう有効に使うか、一緒に考えていきましょう。お楽しみに。