シリーズ「がんとAI、伴走録」(2):その診断書、ひとりで読んでいませんか?

スマートフォンを使い、AR(拡張現実)で貧血の診断結果やアクションプランを確認している女性。

診察が終わって、封筒に入った診断書や検査結果を手渡される。家に帰って封を開けてみると、見慣れない専門用語と数字の羅列。読めるけど、意味がわからない??多くのがん患者さんが経験する感覚だと思います。

「がんとAI、伴走録」第2回は、この「診断書・検査結果の言葉をかみ砕く」というテーマを掘り下げます。

なぜ診断書は理解しづらいのか

そもそも診断書や検査報告書は、患者さん向けに書かれたものではありません。医師から医師へ、あるいは医師から自分自身の記録として、正確に情報を伝えるために書かれた文書です。ここに、理解しづらさの根っこがあります。

書類の種類によって書き方がバラバラ
病理報告書、画像診断(CT・MRI)のレポート、血液検査の結果表??それぞれ書式も専門用語の使われ方も異なります。ある書類は文章形式、ある書類は数値と基準値の羅列、といった具合です。

日常語とは意味がずれる医学用語
「浸潤性」「所見なし」「異型」といった言葉は、日常生活ではまず使わない表現です。字面から何となく不安な印象だけを受け取ってしまう、ということも起こりがちです。

そもそも「読む」という行為自体のハードルがある
特に印刷された紙の書類は、そのままではAIに読み込ませることもできません。まずは「読める形」にする、という最初の一歩自体が意外と見落とされがちです。

生成AIでできる具体的な使い方

まず、紙の書類はカメラで撮って渡せる

診断書や検査結果が紙で手渡された場合、パソコンに打ち込み直す必要はありません。スマートフォンのカメラで撮影し、その画像をそのままAIに渡すことができます。多くの生成AIは画像に写った文字を読み取り、内容について質問に答えてくれます。

プロンプト例:

(診断書の写真を添付して)この診断書の写真を読み取って、書かれている内容をやさしい言葉で説明してください。読み取れない部分や、文字がかすれて判断できない箇所があれば、正直に「ここは読み取れません」と教えてください。

ここで大事なのは、AIに「わからない部分は補完せず、正直に申告してもらう」ことです。写真の文字が不鮮明な場合、AIがそれらしく埋めてしまう(ハルシネーション)リスクがあるためです。この点は、後ほど改めて触れます。

専門用語・略語を日常語に置き換えてもらう

写真でも、手入力したテキストでも構いません。まずは「翻訳」してもらうところから始めます。

プロンプト例:

診断書に「浸潤性乳管癌、Stage IIA、ER陽性、HER2陰性」と書かれています。それぞれの言葉が何を意味するのか、専門用語を使わずに説明してください。

検査数値の意味・基準値との比較を確認する

血液検査などは数値と基準値が並んでいるだけのことが多く、どこが問題なのかが直感的にわかりません。

プロンプト例:

血液検査の結果を貼ります。基準値から外れている項目だけを取り出して、それぞれ「基準値よりどれくらい違うか」「一般的にどんな時に数値が変動するか」を説明してください。診断や重症度の判断はしないでください。(その後に検査結果を貼り付ける)

長い書類を「要点3つ」に絞って要約してもらう

情報量が多い書類ほど、まず全体像をつかむことが大切です。

プロンプト例:

この検査報告書の内容を、最も重要なポイント3つだけに絞って箇条書きにしてください。詳細な数値は省略して構いません。

「次にこの結果について何を医師に聞くべきか」を洗い出してもらう

理解した先に、次の診察でのアクションにつなげます。

プロンプト例:

この診断書の内容について、次回の診察で医師に確認しておいた方がいい質問を5つ考えてください。素人にもわかるような、率直な聞き方にしてください。

ここは医師の領域??AIに求めてはいけないこと

前回の記事でも触れた通り、生成AIは「理解を助ける道具」であって「判断を下す存在」ではありません。診断書という場面に置き換えると、次のようなことはAIに求めるべきではありません。

  • 「この数値は深刻か」「これはどれくらい進行しているのか」といった、重症度や予後の判断
  • 診断書に書かれている内容そのものが「正しいかどうか」の医学的な判定
  • 複数の検査結果を統合した上での、総合的な病状評価

これらは、医師が他の検査結果や診察所見と照らし合わせながら初めて判断できるものです。AIに聞いて「大丈夫そう」「深刻そう」という印象だけを受け取って一喜一憂するのは、避けたいところです。

プロンプト例(こう聞くのがおすすめ):

この検査結果が深刻かどうかの判断はしないでください。その代わり、次の診察でこの結果についてどう質問すればいいか、聞き方の例を教えてください。

この場面ならではのハルシネーション対策

診断書・検査結果を扱う場面は、他の場面以上に注意が必要です。理由は、扱っている情報が「固有の数値」「固有の名称」だからです。

写真やコピーの読み取りミスが、そのまま解釈のズレにつながる
文字がかすれていたり、手書きの部分があったりすると、AIが誤読することがあります。そしてAIは、誤読した文字をもとに、もっともらしい説明を作ってしまうことがあります。「G1」を「G7」と読み違えて解説が展開されてしまう、といったことも起こり得ます。

対策:

  • 写真を渡す際は、「読み取れない箇所は必ず申告してください」と明示的に伝える
  • AIの説明の中に出てくる固有の数値・分類・薬剤名は、必ず自分の目で原本と照らし合わせる
  • 少しでも「あれ、こんな数値だったかな」と違和感を覚えたら、その部分だけ再度貼り直して確認する

基準値や分類基準は、時期や施設によって異なることがある
検査基準値は測定方法や施設によって微妙に異なりますし、がんの病期分類も改訂されることがあります。AIが古い基準や一般的な基準をもとに説明してしまう可能性は、常に頭の片隅に置いておきましょう。

対策:

  • 「この基準値は、どの機関のどの時点の基準に基づいていますか」と尋ねてみる
  • 曖昧な場合は「一般的な目安であり、実際の基準は医療機関に確認してください」と付け加えてもらうよう、あらかじめ頼んでおく

まとめ

診断書や検査結果は、もう「ひとりで辞書を引きながら読む」時代ではなくなりつつあります。写真を撮って渡し、わからない言葉を翻訳してもらい、次に何を聞けばいいかを一緒に整理する??そんな使い方であれば、AIは診断書との距離を縮めてくれる心強い存在になります。

ただし、写真の誤読や基準値のズレなど、この場面ならではの落とし穴があることも忘れずに。「AIの説明」と「原本の文字」を必ず照らし合わせる一手間が、正確な理解への近道です。

次回、第3回は「セカンドオピニオンの準備」を取り上げます。今の診断内容を、どう整理して他の医師に伝えればいいのか。一緒に考えていきましょう。