がん告知直後に考えるべき10のこと(2)
診断直後に絶対やってはいけない3つのこと

医師から「がん」という診断を告げられたとき、頭の中が真っ白になり、周囲の音が遠のいていくような感覚を覚えた方もいらっしゃるかもしれません。あるいは、これからの生活や仕事、家族のことが一気に頭を駆け巡り、激しい不安に襲われている最中かもしれません。
がんの告知は、人生の中で最も大きな衝撃を受ける出来事の一つです。このとき、心と体が極限のストレスにさらされるのは、ごく自然な反応です。
しかし、この「心に大きな揺らぎが生じている時期」だからこそ、後から振り返ったときに「もう少し落ち着いて考えればよかった」と悔やんでしまうような行動をとってしまいがちです。
この記事では、がん告知という大きな岐路に立つあなたとご家族が、エビデンス(科学的根拠)と自身の価値観を大切にしながら、納得のいく選択を進めていくための最初のステップを整理します。
1. 現状の整理と落ち着くためのステップ
告知を受けた直後は、これから起きるかもしれない不確かな未来(再発や生活の変化など)への不安から、交感神経が優位になり、心身ともに緊張状態が続きます。まずはその心の動きを否定せず、「今はパニックになっても無理はない」とご自身を認めてあげることが第一歩です。
焦って何かを決めようとする前に、まずは以下のようなアクションを通じて、心と体を少しずつ「日常の呼吸」へと戻していきましょう。
- 深呼吸と身体の感覚への注目:胸ではなくお腹を使った深い呼吸を数回行い、今自分が座っている椅子の感触や、足の裏が床に触れている感覚に意識を向けます。これにより、高ぶった神経を落ち着かせる効果が期待できます。
- 「事実」と「感情」を書き出す:ノートを開き、頭の中にあるものをそのまま書き出してみます。左側には「医師から言われた客観的な事実(病名、ステージ、次回の検査日など)」、右側には「今感じている不安、怒り、悲しみなどの感情」を分けて整理します。これらを視覚的に切り離すことで、状況を少し客観的に眺められるようになります。
- 時間を置くことを許す:多くのがん治療において、告知から数日、あるいは1~2週間の猶予が治療成績に致命的な影響を与えることは極めて稀です。「今すぐすべてを解決しなくていい」と、自分自身に時間の猶予を与えてあげてください。
2. 告知直後に避けるべき3つの行動と、確認すべき「事実・行動」
精神的に不安定な告知直後だからこそ、後々の選択をより良くするために、一時的に控えたほうがよい行動が3つあります。
① 不確定なネット情報を検索し続け、偏った言説に依存すること
スマートフォンで「がん 完治」「がん ステージ4 生存率」といったキーワードを検索し続けることは、不安を増幅させる原因になります。ネット上には、患者さんの不安に付け込むような科学的根拠のない民間療法や高額な代替療法の情報が溢れています。
- 言葉の定義 – 標準治療:「並の治療」という意味ではなく、科学的根拠(エビデンス)に基づいて、現在利用可能な治療の中で「最も効果が高く、安全性が確認されている、現時点での最良の治療」を指します。
- 理由と代替案:恐怖心から「100%治る」といった極端な言葉に飛びつきたくなりますが、現在の医療データではその効果が裏付けられていないものが少なくありません。まずは検索の手を止め、「がん情報サービス」などの信頼できる公的な情報サイトのみを参照するようにしましょう。
② 十分な理解や納得がないまま、焦って治療方針を即座に決定すること
医療機関から提示された治療方針に対して、「早く治療を始めなければ手遅れになる」という焦りから、十分に内容を理解しないまま同意してしまうことがあります。
- 言葉の定義 – インフォームド・コンセント:医師から治療内容やそのメリット、副作用などの説明を十分に受け、患者さん自身がそれを理解し、納得した上で治療に同意することを指します。
- 言葉の定義 – シェアド・ディシジョン・メイキング(共同意思決定):医師が一方的に治療を決めるのではなく、医療者と患者さんがそれぞれの専門知識(医療データと、患者自身の生活習慣や価値観)を出し合い、最適な治療を共に創り上げていくプロセスです。
- 理由と代替案:治療のプロセスを主体的に選択することは、治療の副作用に対する心構えや、その後のQOL(生活の質)に大きく影響します。わからない点があればその場での返答を避け、「少し持ち帰って考えてもよろしいでしょうか」と主治医に伝えることは全く失礼ではありません。
③ パニック状態のまま、仕事の退職など人生の大きな決断を下すこと
「がんになったから、もう仕事は続けられない」「周囲に迷惑をかけるから身を引こう」と、告知されたその週に退職届を出してしまうケースが見られます。
- 理由と代替案:治療のスケジュールや副作用の程度、利用できる両立支援の制度などが明確になる前に退職してしまうと、経済的な基盤を失うだけでなく、社会とのつながりが断たれ、精神的な孤立を深めるリスクがあります。現在は、働きながら治療を続けるための「治療と仕事の両立支援」の仕組みが整ってきています。まずは会社に状況を部分的に共有しつつ、休職などの選択肢を含めて人事や相談窓口と相談することが推奨されます。
今、優先的に確認・実施すべきこと
告知から数日~次回の受診までのタイムラインで、準備しておくと良い具体的なアクションです。
- 次回の診察に向けた質問の整理:診察室に入ると緊張して聞きたいことを忘れてしまうため、事前に質問を3つ程度に絞ってメモに書いておきましょう。
- 質問例: 「私の病名と具体的な病期(ステージ)を改めて教えていただけますか?」「どのような治療の選択肢がありますか?」「治療を開始するまでに、仕事や日常生活で気をつけるべきことはありますか?」
- 同行者の手配:可能であれば、信頼できるご家族や友人に次回の診察への同席を依頼してください。一人では聞き漏らしてしまう説明を記録してもらう(メモを取る、医師の許可を得て録音する)ことができます。
3. 次のステップに向けた選択肢(メリット・デメリットの整理)
今後どのようなプロセスを進めていくか、いくつかの主要な選択肢とその特徴を客観的に比較します。
| 選択肢 | 期待される効果(メリット) | 留意すべき点(デメリット) |
| ① 主治医の提示した治療計画をそのまま進める | 医療の標準的な流れに沿って、最もスムーズかつ速やかに治療を開始できる。 | 他の医療機関の見解や別の治療選択肢を比較する機会が少なくなる。 |
| ② セカンドオピニオンを検討する | 別の専門医の意見を聞くことで、現在の治療方針に対する納得感を高めたり、新たな視野を得られたりする。 | 意見書(紹介状)の準備や予約の手間がかかり、治療開始が数週間遅れる場合がある。自費診療となることが多い。 |
| ③ がん相談支援センターへ相談する | 治療費用のこと、生活や仕事の継続、家族への伝え方など、医療行為以外の生活全般の不安を無料で相談できる。 | 直接的な病状の診断や「どの治療法が良いか」という医療判断そのものは行えない。 |
4. 相談窓口・信頼できる情報源
がんに関する悩みは、医療者、そして公的に用意された専門の相談窓口を頼ることで、一つずつ解きほぐしていくことができます。
- がん相談支援センター:全国の「がん診療連携拠点病院」などに設置されている、誰でも無料で利用できる相談窓口です。その病院に通院していなくても相談が可能です。看護師やソーシャルワーカーが、あなたの不安を傾聴し、必要な公的支援(高額療養費制度など)や地域のサポートをつないでくれます。
- がん情報サービス(国立がん研究センター):各がん種の特徴や標準治療の流れ、各種制度について、現在わかっている確かなデータに基づき、分かりやすく解説されている最も信頼のおける公的ウェブサイトです。
アドバイザーからのメッセージ
がんという事実を前に、周囲の「これを食べれば治る」「この治療は危険だ」といった雑音に心が乱されることがあるかもしれません。しかし、エビデンスに基づいた医療情報をベースに据えながらも、あなた自身の生活や人生観という「主観的な価値」をそこに重ね合わせていくことこそが、納得のいく意思決定につながります。
まずは焦らず、深呼吸をして、目の前の小さな一歩から始めていきましょう。あなたは決して一人ではありません。










