シリーズ「がんとAI、伴走録」(10):飲み忘れず、通い忘れず

がん治療は、手術のような一度きりのものだけでなく、通院や服薬が長期にわたって続くことが少なくありません。抗がん剤の投与スケジュール、複数の薬を飲み分けるタイミング、次の診察日、検査の予約——管理すべきことが一気に増えていきます。「うっかり薬を飲み忘れた」「予約を忘れかけた」というヒヤリとする瞬間が、積み重なっていく方も多いのではないでしょうか。
「がんとAI、伴走録」第10回は、「治療スケジュール・服薬管理」をテーマにお届けします。
なぜ治療スケジュール・服薬管理は難しいのか
薬の種類や飲むタイミングが複雑になりやすい
食前・食後・就寝前、飲み合わせの注意——薬が増えるほど、ルールも複雑になっていきます。
通院・検査・投薬のスケジュールが不定期に組まれる
一般的なカレンダーの感覚だけでは把握しづらい、独特のリズムで予定が組まれることがあります。
体調が悪い時期ほど、管理そのものが難しくなる
記憶力や集中力は、体調に大きく左右されます。一番管理が必要な時期に、一番管理が難しくなるという皮肉があります。
複数の診療科にかかっている場合、指示がバラバラに来る
外科、腫瘍内科、緩和ケア科——それぞれの科での予約や指示を、自分で統合しなければならない場面が出てきます。
家族が管理を手伝う場合、伝達漏れが起きやすい
本人と家族の間で、情報がうまく共有されないことがあります。
生成AIでできる具体的な使い方
薬の一覧と飲むタイミングを整理してもらう
お薬手帳や処方内容の写真を渡して、一覧表にしてもらうことができます。
プロンプト例:
(お薬手帳の写真を添付して)この写真を読み取って、薬の名前と、飲むタイミング(食前・食後・就寝前など)を一覧表にしてください。読み取れない部分があれば、正直に「判読できません」と教えてください。
飲み忘れた時の対処法を確認する形を作ってもらう
その場での自己判断ではなく、確認すべき相手につなげるためのフローを整理する使い方です。
プロンプト例:
薬を飲み忘れた時、自己判断で量を調整するのは避けたいです。「こういう場合はまず薬剤師に確認する」という基本の流れを整理してください。判断そのものは示さず、確認の手順だけを教えてください。
通院・検査・投薬のスケジュールを、時系列でわかりやすく整理してもらう
プロンプト例:
今月の通院予定、検査予定、投薬のスケジュールをメモで貼ります。時系列に整理して、重なっている日や、間隔が狭い時期がないか確認してください。(その後にメモを貼り付ける)
リマインダー用の文言や、カレンダーに登録しやすい形式に整えてもらう
プロンプト例:
このスケジュールを、スマホのカレンダーにそのまま登録できるような、簡潔なリマインダー文言に整えてください。1件につき20文字程度でお願いします。
複数の診療科からの指示をまとめて整理してもらう
それぞれの科で言われたことを統合し、矛盾や重複がないか確認する使い方です。
プロンプト例:
外科と腫瘍内科、それぞれの診察で言われたことのメモを貼ります。両方の指示をまとめて整理し、矛盾していそうな点や、重複していそうな点があれば指摘してください。(その後にメモを貼り付ける)
ここは専門家の領域——AIに求めてはいけないこと
- 飲み忘れた薬の量を、自己判断で調整すること。2回分をまとめて飲む、といった判断は必ず薬剤師・医師に確認する
- 薬の飲み合わせ(相互作用)について、AIの回答だけを根拠に併用を判断すること
- スケジュールの変更や治療の中止を、AIとの相談だけで決めてしまうこと
薬に関することは、体に直接影響する領域です。整理や記録はAIに任せても、実際の判断は必ず薬剤師や医師に確認する、という一線は崩さないようにしましょう。
この場面ならではのハルシネーション対策
薬品名や用量を誤読・誤変換してしまうリスク
お薬手帳の写真を読み取る際、似た名前の薬が多いことや、文字のかすれ、単位の読み違いによって、AIが誤った薬品名や用量を提示してしまうことがあります。
プロンプト例:
薬の名前や用量については、確信が持てる場合のみ記載してください。少しでも読み取りに自信がない場合は、断定せず「要確認」として示してください。
スケジュールを整理する際、伝えていない予定を勝手に補ってしまうリスク
プロンプト例:
スケジュールを整理する際、私が伝えた予定だけを使ってください。抜けている期間があっても、推測で埋めずに空欄のままにしてください。
一般的な服薬タイミングの知識をもとに、個別の特殊な飲み方を「間違い」として指摘してしまうリスク
がん治療の薬の中には、一般的な服薬ルールとは異なる、個別に指示された特殊な飲み方をするものもあります。AIが一般論をもとに「本来はこう飲むはずです」と修正提案してしまうと、かえって混乱を招くことがあります。
プロンプト例:
医師や薬剤師から指示された飲み方が、一般的な服薬ルールと異なっているように見えても、それを「間違い」として指摘しないでください。個別の指示がある場合は、そちらを優先することを前提に整理してください。
対策のまとめ
- 薬品名や用量は、必ず実際の処方箋・お薬手帳の原本と照らし合わせて確認する
- スケジュールの空白は無理に埋めず、不明な点は自分の記憶や記録で補う
- 個別に指示された特殊な服薬方法がある場合は、その指示を優先し、AIの一般的な説明で上書きしない
まとめ
治療スケジュールと服薬の管理は、地味ながら、治療を続けていく上での土台になる作業です。薬の一覧化、スケジュールの整理、リマインダーの作成——これらをAIに手伝ってもらうことで、管理にかかる負担を減らすことができます。その分の体力と気力を、治療そのものや、日々の生活を大切にすることに使っていただければと思います。ただし、薬の量や飲み合わせの最終判断は、必ず薬剤師・医師に委ねることを忘れずに。
これで、告知直後から日常生活までの多くのテーマを見てきました。次回、第11回は「患者会・体験談情報の検索補助」を取り上げます。同じ経験をした人の声を、どう探し、どう向き合えばいいのか。一緒に考えていきましょう。










