サイトアイコン 残る桜も 散る桜ー膵臓がん完治の記録

『代替医療のトリック』サイモン・シン

ビッグバン宇宙論 (上)』『フェルマーの最終定理―ピュタゴラスに始まり、ワイルズが証明するまで』『暗号解読―ロゼッタストーンから量子暗号まで』のサイモン・シンが代替医療を科学する、これだけで迷わず買った本です。

代替医療解剖 (新潮文庫)

サイモン・シン, エツァート・エルンスト
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本書と扉を開くととすぐに「チャールズ皇太子に捧ぐ」という献辞がが飛び込んできた。チャールズ皇太子は統合医療財団を設立し、「代替医療にもっと研究資金を-代替医療は研究に値する」と題する論文をタイムズ紙に寄稿している。この献辞は著者らの皇太子に対する辛らつな皮肉です。

この本のもうひとりの著者であるエツァート・エルンストは永年代替医療に関わってた代替医療の専門家であり、代替医療分野での世界初の大学教授となった人物です。このふたりが「代替医療は、病気の治療として効果があるのだろうか」という疑問に、何の先入観も持たずに科学的に追求し、”真実を探る”ことを目的として書いています。(というふれこみです)

第一章は『科学的根拠にもとづく医療(EBM)』の考え方、その歴史の説明に当てている。なぜなら著者らは代替医療をEBMに沿って検証しようとしているからであり、そのためにはEBMの考えのなかった時代の医療がどのようなものだったかを明らかにする必要があると考えているからです。

例として瀉血を取り上げています。瀉血が広まりだしたのは古代ギリシャのころであり、19世紀の初頭まで中心的な医療行為でした。アメリカの初代大統領ジョージ・ワシントンが「13日の金曜日に引いたちょっとした風邪」をこじらせて、4回の瀉血による失血死をしたことはあまりにも有名です。水夫の壊血病がビタミンCの欠乏によるものだということを歴史上初めての「対象比較試験」で明らかにしたジェイムズ・リンドの業績は忘れられていたのですが、1809年にアレクサンダー・ハミルトンが瀉血が効果のある治療法なのかどうかという患者をランダムに振り分けた対象比較試験を行ないます。その結果は明白でした。瀉血を受けた患者の死亡率は瀉血を受けなかった患者のそれの十倍にのぼったのです。

これらの先駆的な試験により明らかになったのは、「科学的根拠に基づく医療」が生まれる前の医療は、病気から回復した患者は、治療のおかげで回復したのではなく、治療を受けたにもかかわらず回復したのである。また、ナイチンゲールは社会統計学の知識を使って、病院の衛生状態、環境の改善が医療における重要事項であることを証明した。こうして今日「科学的根拠に基づく医療(EBM)」によりたくさんの人命が救われているのだということが最初に強調されています。

著者らはEBMの考えに従って、主立った代替医療について考察します。

鍼、ホメオパシー、カイロプラクティック、ハーブ療法については詳細に検討し、それ以外の代替医療に関しては要約と結果を示すだけにしています。

鍼療法については、擬似鍼が発明されたことにより二重盲検法による比較試験が可能になったことを示し、気・経路が解剖医学的に何の根拠もないと断言するのです。1972年のニクソン訪中に先立つキッシンジャーの訪中に同行したニューヨークタイムズ記者レストンが自身の体験を書いた「北京での手術体験」はアメリカにおいて鍼に対する関心を呼び起こしたが、著者らは「中国における外科手術デモンストレーションは、局所麻酔や大量の鎮静剤などが使われており、まやかしだった可能性が極めて高い」と指摘する。2003年にWHOが鍼治療に好意的な報告書を出したことを「虚偽誇張があり、政治的判断が加味されている」と、手厳しい。

コクラン共同計画のレビュー、いわゆる「コクラン・レビュー」によれば、鍼治療の効果について、

  1. 鍼の有効性は臨床試験から得られた科学的根拠によっては指示されない。
  2. 臨床試験がずさんであるため、鍼の有効性について確かなことは何も言えない。
  3. 研究方法がずさんで件数も少ないため、系統的レビューを行なうことさえできない。

とし、鍼治療に関しては「プラセボ効果」以上の治療効果はない、という結論になっている。

ホメオパシーについては更に手厳しい。ハーネマン自身は有能で誠実な医者であったことは認めている。ハーネマンは当時医療の主流だった瀉血を施すことはしなかったし、瀉血を「人殺し」だと激しく批判したのである。しかし、彼の人格と、その確立したホメオパシーとは別の問題である。科学的に検討されなければならない。ホメオパシーについては、このブログでも何度か取り上げているので、これ以上は触れないが、有効性を示す科学的根拠は一つもなく、逆に効果がないことを示す科学的根拠は多数ある、ということです。

等が取り上げられています。

最期にアンドルー・ワイルに関する記述を紹介します。

チョプラや、彼と同業の医療グルたちが、代替医療の複音を広めるようになって十年以上になる。医療グルは大きくメディアに取り上げられ、人気のテレビショーに出演し、膨大な人数の聴衆に向かって講演を行なってきた。

否定しようのないそのカリスマ性に、実業家としてのプロ意識が加わって、絶大な影響力を持って大衆に代替医療を普及させてきた。こういう医療グルたちは概して、それでなくても誇張された誤った主張に説得力を与えている。

たとえば、アメリカで最も成功している代替医療の推進者、アンドルー・ワイル医師は、・・・・・彼のアドバイスのなかには、運動をしましょうとか、タバコは控えましょうといった有益なものもある。しかしそれ以外の多くのアドバイスには意味がない。意味のあるアドバイスとそうではないアドバイスとの区別がつかないことだ。

たとえばワイルは、2004年に出版された『ナチュラル・ヘルス、ナチュラル・メディシン』という著作のなかで、関節リウマチに処方薬を使うのはやめるようにさかんに説いた–薬のなかには、明らかに病気の経過を変え、身体が不自由になるような変形を防止してくれるものがあるというのに。

ワイルは、効果のある通常医療をしばしば中傷する一方で、ホメオパシーをはじめ効果のない代替医療を奨励する。そして病気をもつ人たちに向かって、さまざまな代替医療を試してみて、自分に合うものを見つけようなどとアドバイスする。

ワイル博士の、「実地に試してみる」という哲学は、代替医療の分野で本を出している著者の多くに共通する立場だ。

代替医療に懐疑的な患者、もしかすると効果があるものだって存在するのではと思っている患者、一読の価値のある著作だと思います。少なくとも、代替医療について何かを言おうとしたとき、無視してはいけない著作の一つには違いないでしょう。

私もワイル博士の主張には共感する部分もたくさんありますが(実際彼の推奨するマルチビタミンを摂っている)、オステオパシーを何の疑問もなく、彼の実体験からの結論として書いていることには首をかしげてしまいます。

ただ、サイモン・シンがEBMを万能のように取り上げている点には疑問も残ります。遺伝子解析による「がんの個別治療」や「テーラーメイド医療」が提唱されている現在、統計的な比較試験がどこまで適用できるのだろうかという問題があるからです。

『21世紀の医療を担うのは日本ホメオパシー医学会だ!という気概をもって、エネルギー場の時代を邁進して
いく所存です。』と述べている日本ホメオパシー医学会理事長の帯津良一先生には、ぜひ読んで欲しい本です。せめて帯津三敬病院においてホメオパシーを対象
として「ランダム化比較対象試験」の結果を発表してください。多くの著書のある帯津先生ですから、こんなことはたやすいことに違いないと思うのです
が・・・。

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