末期がん患者のこころの問題
小児科医細谷亮太氏は、聖路加国際病院小児科で40年間難病の子どもたちと向き合ってきた医師です。大下大圓氏は、日々悩み苦しむ人たちに献身的に寄り添う飛騨千光寺住職で臨床宗教師でもあります。この二人の対談で「いのち」の重みについて語っています。
米国やカナダでは医療の現場に牧師さんがいて、末期がんの患者の気持ちにより添う活動をしています。しかし日本では、病院は心の問題にまで対処してくれません。ここ数年、病院内で臨床宗教師が末期のがん患者に寄り添う例も増えてきています。大下大圓氏は臨床宗教師として、日本でも患者の心の問題に寄り添う活動をしています。
細谷氏は、難病を抱えて小児科病棟に入院している子供でも、自分のいのちがあと少ししかないことを丁寧に伝えると、しっかりと考えて自分のいのちを見つめた生活をするようになるといいます。
「告知は、大人よりもこどもの方が受入れやすい」と細谷医師は言います。こどもの権利条約には、こどもへの告知を促す条項があるのだとも。昔はこどもにがんの告知をすることはとんでもないことでしたが、今はこどもの権利として普通に告知しているそうです。
末期がん患者にはヒーリングを
で、元看護師の中ルミ・NPO法人国際ヒーリング看護協会理事長は次のような例を語っています。
私が担当したある患者さんのことは忘れられません。彼女は末期のすい臓がんで病院から見放され、在宅医療になった80代の女性でした。退院時は腹水が張ってお腹も手足もパンパン、抗がん剤も利尿剤も効かない状態でした。ご飯も食べられず、ご本人もため息ばかり。医者に見放されたと落ち込んでいたのです。毎日訪問して入浴の介助などをしながら、アロマを使ったタッチなどのヒーリングをして、その方の気持ちに寄り添うようにしていました。すると、彼女は若い頃、気功を習っていたことがわかりました。ぜひ気功を教えてくださいとお願いしたのです。
徐々に彼女に変化が見えるようになり、「来てくれてありがとう」「親に感謝している」など、肯定的な言葉が出るようになりました。食事の量も増え、起き上がって絵を描くまでになりました。人が、“自分が誰かの役に立っている”と感じることは、生きる上でとても大切なことなのだと感じた瞬間でした。自分の社会的な役割を見出せたことで、彼女の目には光が戻っていたのです。
こうしたがん患者への精神的な支援の輪がもっと広がってほしいものです。
がんは魂の修行中
大下氏は「平均寿命の8割に達したら合格だと思え。元気なお年寄りばかりがクローズアップされるが、現実はそう簡単ではない」として、釈迦が言われた「自己執着」を捨てる大切さを説きます。
自己執着の原因は渇愛(生殖・生存・死への本能的な欲求)であり、渇愛があるから苦が生じると説いた釈迦は、苦は消滅させることができるという真実を説いたのです。その状態が「涅槃」です。
だから、がんになった今は、涅槃に到る魂の修行中と考えれば良いのだと語っています。なかなか難しいですけどね。
臨床宗教師
NHK「クローズアップ現代+」で、以前に臨床宗教師を取りあげていました。大津医師や膵臓がん患者で僧侶の田中雅博さんらが登場して、臨床宗教師の役割を語っています。
大津さん:私自身はとりわけ終末期医療にも関わっていますから、非常に助けになることが多いと感じています。
どうしても医師に対してある遠慮ですね、死ぬとどうなるんですかとか、本当に先生、死んじゃうんですか、という苦しみに、どうしても医師に対しては言いづらいこと、それも臨床宗教師には言えて、そういう方がそばにいることによって、その方が答えを見つけていくお手伝いを臨床宗教師がしているという姿を見ますと、本当にもっともっと現場に出て、私自身なんかは感じていますけどね。
病院だけではなく、在宅医療やホスピスでも臨床宗教師のお手伝いを頼めるようになってきました。
日本臨床宗教師会には、現在146名の臨床宗教師が登録されています。