サイトアイコン 残る桜も 散る桜ー膵臓がん完治の記録

『再発』


「再発」と言っても、私の膵臓がんが再発したのではありません。もちろん、再発するかどうか、予防するためには何をしたら良いかということが今の大きな関心事ですが、できることはすべてやっているので、あとは天に任すだけ。しかし、がんが再発したときの対処法に的を絞って書かれている本がほとんどない中で、最近出た田中秀一著『再発 がん治療最後の壁』は貴重な情報源になり得ると思います。

がんの再発について、「最新の医療状況をふまえ、基本的な知識から現状と限界までをも真摯につきつめた、待望の総合解説書」との前宣伝ですが、内容はこんな感じです。

1.がん再発とは
   なぜ再発をするのか
   がん再発のメカニズム
2.再発は予防できるのか
   再発のための検診と予防
3.再発がんの治療
   部位別・再発がんの治療
    肺・胃・大腸・小腸・肝臓・食道・乳・子宮・血液ほか
   抗がん剤をどう使うか
   代替医療は効果あるか
4.再発がんの新しい治療法
   体に優しい治療
   新しい薬物医療 分子標的薬
   副作用と対策
   がんワクチン療法
5.緩和ケアの新しい展開
   さまざまな緩和ケア
6.がん再発にどう向きあうか
   四人の「再発」例

著者の田中秀一氏は読売新聞社医療情報部長であり、長期連載「医療ルネサンス」を担当してきた方です。それだけに、がんに関する最新情報をもれなく網羅しています。「がん再発のメカニズム」ではがん幹細胞理論を、女王蜂と働き蜂に例えて、女王蜂の遺伝子をもった働き蜂は「一つのがんの塊であっても、性質の異なる集団としてできあがる。だから、特定のがん細胞を殺す抗がん剤を使っても、性質の異なる別のがん細胞は生き残り、治療が難しいのだ。」と説明する。女王蜂自身が自己複製するだけではなく、働き蜂の中から女王蜂に変化するものも現われる。これを可塑性と言って、正常細胞にはないがん細胞の特質でもある。まことにがん細胞は不死身の生命力を持っているようだ。「これまでの分子標的薬の多くは、がん幹細胞には効いていない」とも指摘している。細胞内の増殖因子に働くシグナルを遮断してがんの増殖を抑えようとしても、がん細胞は別の経路を使って「振り替え輸送」をしてしまう。こうして分子標的薬の攻撃を「ステルス」能力でかわすこともできる。

がんが転移するにはニッチと呼ばれる間質細胞が必要で、転移先のこの細胞がないと転移が成立しないと考えられている。しかしがん細胞は、自分の周りにニッチを作って、ニッチごと転移してしまうこともできる。ほかにも、

など要領よくまとめられている。

「新しい治療法」ではラジオ波治療が好意的に取り上げられている。主として肝臓に転移した場合に有効であり、主な医療機関の治療件数もリストアップされている。がんペプチドワクチンについても紹介されているが、正直私のブログの方が情報量としては多い。

「部位別・再発がんの治療」の章には膵臓がんの説明はない。再発したら完治が望めるような治療法はないからだろう。抗がん剤治療についても、虎の門病院の高野利実医師との対談形式で次のように述べている。

一次治療が効かなくなり、二次治療、三次治療に進むにつれて、期待されるメリットは小さくなり、予測されるデメリットが大きくなります。確かに、使
える抗がん剤の種類はどんどん増えていますが、「使える薬があるから使う」というのは本末転倒です。きちんと、メリットとデメリットを予測し、その抗がん
剤を使うのが自分にとって本当に良いことなのかどうかを慎重に考える必要があります。

末期の膵臓がんならなおさら、ジェムザールの次にTS-1、タルセバにFOLFORINOX、アバスチンなど輸入してでも使うという戦略が、果たして自分のためになるのか、目的は何なのかをよく考えた方が良い。

再発がんは治ることがない。この点ではこの本も、近藤誠氏も、梅澤医師もみんな共通している。がんと闘っているのではなく、副作用と闘っているようでは何のための延命した時間かとなる。本末転倒とはそういう意味だ。

「四人の再発」として上坂冬子さん、筑紫哲也さん、関原健夫さんと、「乳がんと17年、治療しない生き方」と題して、近藤誠氏の元で無治療で過ごしている渡辺容子さんが紹介されている。乳がんのようなおとなしいがんと膵臓がんを同列には考えられないが、このようながんとの付き合い方もある。渡辺さんのブログ「暗川」は、最近では原発の記事で埋められている。

この本、一発逆転のホームランを狙っているがん患者には期待はずれだが、再発後の治療の限界を知り、賢く対処するためになら参考になる。

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