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高濃度ビタミンC点滴はがんの転移を抑制するか

高濃度ビタミンCが転移を抑制する

東京工科大学の応用生物学部が、高濃度ビタミンCによってがんの転移を抑制するメカニズムを突き止めたと発表しました。

東京工科大学(東京都八王子市片倉町、学長:軽部征夫)応用生物学部の佐藤拓己教授らの研究チームは、高濃度ビタミンC(以下、VC)による、がん転移抑制メカニズムに関する新たな知見を発見しました。本研究成果は、米国の薬理学専門誌「Reactive Oxygen Species (ROS)」2018年**月**日号に掲載されました。
ビタミンCによるがん転移の抑制メカニズムに新発見 還元型と酸化型で生理作用に違い - 東京工科大学公式サイト

あくまでも試験管レベルの研究であり、これでヒトのがんに効果があるとは言えません。それに「メカニズムを突き止めた」わけではないですね。ま、1つの可能性が増えたというレベルです。

むしろ、この発表の【背景】にある、

高濃度で投与することでがん治療に効果があること近年報告されており、副作用のない治療法として注目されています。外科手術や放射線療法、化学療法などの補助として用いられる「高濃度ビタミンC点滴」は、がん転移を抑制できる可能性が示唆されていますが、その生理機能などの詳しいメカニズムについては明らかになっていません。

という文言があるが、あたかもがんの治療に効果が確認されていると印象づける内容なので、少々問題がありそうです。事実は違います。

高濃度ビタミンC点滴の科学的根拠

ノーベル化学賞と平和賞の受賞者であるライナス・ポーリングが、キャメロン医師と共同で「終末期癌患者に高用量ビタミンCを投与すると生存期間が著明に延長する」という論文を発表して以来、今日でもいまだにビタミンC(アスコルビン酸)の臨床試験が発表されています。

しかしそのほとんどすべてが、ランダム化比較試験ではなく、せいぜいコホート研究のレベルです。つまり、科学的な証拠としてはレベルが低い。

膵臓がんでもゲムシタビンとエルロチニブにビタミンCを併用した「転移性膵癌患者におけるゲムシタビンとエルロチニブとの併用によるアスコルビン酸の評価の第一相試験」があります。

14人の患者を対象とした安全性評価であり、抗がん剤とビタミンCを併用しても安全ですよ。しかし、生存期間は延びているようには見えません、てな臨床試験結果です。

ステージ0??の膵臓がんを高濃度ビタミンC点滴で治したという高城剛氏の『不老超寿』も話題になりましたね。ステージ0って、どんな膵臓がんなんじゃと、過去の記事で突っ込みを入れてあります。

試験管レベルやマウスを使った実験、少数の患者を対象とした研究などがあり、賛否両論です。

たくさんのがん患者が、高濃度ビタミンC点滴を受けているようです。ま、比較的安価だし(1回の注射で1~3万円)、副作用はないしということでしょう。抗がん剤の副作用が低減して、QOLが良くなったと、効果を感じている例もあります。

ビタミンCに抗腫瘍効果はない

しかし、決定的なランダム化比較試験が行われて、ビタミンCには生存期間延長の効果はないと結論が出ているのです。5つのランダム化比較試験を含む35本の論文、対象となる患者は8,563名にも及ぶ、ビタミンCの抗がん作用について解析されたシステマティックレビューが掲載されています。

体系的なレビュー:がん患者を治療する際に経口または静脈内のアスコルビン酸(ビタミンC)の役割はあるか?

システマティック・レビューとは、「文献をくまなく調査し、ランダム化比較試験(RCT)のような質の高い研究のデータを、出版バイアスのようなデータの偏りを限りなく除き、分析を行うことである。根拠に基づく医療(EBM)で用いるための情報の収集と吟味の部分を担う調査である。」とWikipediaにあります。一応エビデンスレベルとしては最高になります。

この論文の結論は、

対照群と比較して、アスコルビン酸(ビタミンC)による全身または無増悪生存率の低下または毒性の低下において統計学的に有意な改善が報告されたランダム化比較試験(RCT)はなかった。 アスコルビン酸の抗腫瘍効果の証拠は、症例報告および観察および非制御研究に限られていた。

結論

我々は、経口、静脈内、または癌患者との併用のいずれかでアスコルビン酸の抗癌効果の存在を支持する一貫した証拠を同定していない。静脈内投与されたアスコルビン酸が癌患者の生活の質を改善し、化学療法の毒性を低下させる可能性があるという弱い証拠がある。我々はアスコルビン酸静脈注射の潜在的な重大な毒性を確認した。また、この問題を探求したうまく設計されたランダム化比較試験の欠如もある。実務家が提供し続けると、患者は毒性や死の危険にアスコルビン酸の治療のために支払うことを続ける場合は、高品質のプラセボ対照試験が必要です。これらの試験が行われるまで、癌患者におけるアスコルビン酸塩治療の役割は実証されていない。患者はこれについて正直に知らされ、高品質の臨床試験の範囲内でのみ治療されるべきである。

ビタミンCに抗腫瘍効果はない、したがって、生存期間の延長や腫瘍の縮小効果も期待できないが、QOLを改善し、抗がん剤の副作用を低減させるかもしれない弱い証拠がある、こういったところでしょうか。

巷のクリニックや、点滴療法研究会、高濃度ビタミンC点滴療法学会のサイトでは、

高濃度のビタミンCは金属(鉄や銅など)と反応して活性酸素を発生します。正常な赤血球や正常な細胞は活性酸素を中和するカタラーゼなどを十分もっていますが、がん細胞にはそれがありません。
その結果、ビタミンCは正常な細胞はそのままにがん細胞だけを破壊することができます。

と書かれています。試験管やマウス、せいぜい少人数での低レベルの臨床試験の中から、都合のよい研究だけを取りあげて高濃度ビタミンC治療の宣伝に使っているのです。

試験管やシャーレーのがん細胞に、中性洗剤を垂らしただけでもがん細胞は死滅するのですから、東京工科大学の発表もその程度のものとして、頭の隅にでも入れておけばよいでしょう。

上記のサイトを見て驚いたのは、歯科医や皮膚科のクリニックが、がん治療の目的で高濃度ビタミンC治療を行っています。

原価1,000円程度のアスコルビン酸液注射に3万円も取るなど、ぼったくりです。だから簡単に利益が得られて、対象者も多いがん治療として自由診療のうま味があるのでしょう。

私だったら、その金で温泉にでも行っておいしい料理を食べ、きれいな景色を見てきますね。その方がよほど免疫力アップに効果がある。

QOLの維持や副作用低減にある程度の効果があるかもしれないということですから、気休めとして高濃度ビタミンC療法をやることまでは否定しませんが、腫瘍が縮小したり治ることは期待できません。

むしろ、がんを育てることもあるとの説もあるので、現在高濃度ビタミンC点滴をやっている方は気をつけた方が良さそうです。

がん患者で高濃度ビタミンC注射をしている方は多いですが、逆にがん細胞を育てる可能性もあるよという記事です。ノーベル賞を二度受賞したライナス・ポーリングの業績は偉大ですが、ポーリングが主張した「ビタミンCががんに効く」は、すでに否定された仮説です。その顛末は、Wikipediaの「ライナス・ポーリング」の項に詳細に書かれています。晩節を汚した例として。なぜ、われわれはがんに勝てないのか?日経メディカルに、デイビッド・B・エイガス氏の「なぜ、我々はがんに勝てないのか?」の記事が載っています。第1回目は「私た...
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