サイトアイコン 残る桜も 散る桜ー膵臓がん完治の記録

免疫細胞治療

『免疫細胞治療』は最近出版された本で、癌研有明病院の名誉院長が監修しているというので手に取ってみた。本屋では結構売れているようでした。

読んだ印象を先に書けば、「免疫療法」や「がんペプチドワクチン」に関心があれば手元に置いておくのもよいかなという本です。免疫細胞治療の全般にわたって最新の情報が書かれており、実際の治療成績も多く載せられているからである。

はじめにがん治療の3大療法、手術・放射線・抗がん剤について書かれているのは、「第4の選択肢」としての免疫細胞治療を語る上で3大治療法を解説しないわけにいかないからでしょう。

「免疫療法」といわず、「免疫細胞治療」としたのは、巷に氾濫するいかがわしい免疫療法と一緒にされたくないという意識か。

監修者と執筆者はそうそうたるメンバーです。

その他総勢19人。実質的にはリンパ球療法の技術を提供している瀬田クリニックGroupの医者が中心で、メディネットと提携している病院の医者がそれぞれ分担して、研究と治験の現状を書いているということでしょうか。22世紀医療センター  免疫細胞治療学講座はメディネットの寄付講座です。東大にはこうした寄付講座が22講座あります。

がん相談室『蕩蕩』の相談医師とも重なっているようです。蕩蕩は、セカンドオピニオン料金が世間の2倍ほどしますね。

こうしてみると、この本はメディネットと瀬田クリニックGroupの宣伝という意味合いが相当濃厚だという印象を受けます。その点を意識して読んだ方がよいと思います。

がんペプチドワクチン療法(樹状細胞を使う免疫細胞治療の一種)も含めて、まだまだ十分な成績を上げているとは言えませんが、選択肢のなくなったがん患者には一縷の望みにはなり得るということ。しかし全額自費治療だから、治療費は400~1200万円かかります。貧乏人には無縁です。術後の補助療法として再発や転移を予防する効果に期待が持てるはずですが、国の制度の都合で現状では末期がんなどへの臨床試験しかできないということ。これはがんペプチドワクチン療法も同じです。

膵臓がんに対する臨床例もいくつか書かれていますが、相変わらずこの治療法でも膵臓がんに対しては芳しい結果を見ることができません。横浜市立大学で、膵がんにゲムシタビンとの併用で免疫細胞治療をおこなった例です。培養したリンパ球を太ももからカテーテルを入れて肝臓に注入する試験です。膵がんでは肝臓への転移が多いのですから、理にかなっているというわけです。2006年から2009年2月までの9症例があるということですが、『その中に再発までの期間が長くなった患者さんがいらっしゃいます。・・・この方の場合再発までの期間が700日という結果でした。』と説明されています。これを良かった症例として紹介されているということは、他はもっと悪かったとも取れますね。

再発までの期間が700日で、長かった!!! やはり膵臓がんは癌のなかの王様ですね。私は今日で手術から691日目です。免疫細胞治療なし、巷の様々なサプリメントも何もなしです。まだ再発はしていません。しかも入院しているわけでもないし、仕事も普通に続けており、元気です。どうしてなのか、何が良かったのかは自分でも分かりません。まぁ、これに文句を言うことはないのでしょうが。

期待が持てる免疫細胞治療ですが、『免疫信仰は危ない!』などの批判的な本も合わせて読むべきでしょう。リンパ球療法などエビデンスのないものを高額な治療法として提供してよいのかという批判があります。

また、NK細胞を免疫細胞治療の主役にしているANK療法の側からのこんな批判もあります。

さて、よく、ANK療法も、瀬田クリニックさんがやってるものと同じですか?と質問されますが、根本的に違うものです。

「体内の免疫細胞を体外で培養して再び体内に戻す」

この形式は同じですが、扱ってる細胞が違います。

瀬田クリニックさんはT細胞系ですから、がんを殺す力はそれ程強くなく、標準治療と併用して、延命や生活の質(QOL)改善を狙うもの、とされておられ、実際、数年の歳月をかけ蓄積したエビデンス(延命効果)を発表されています。

前提は、標準治療ありき、で、その副作用をどこまで抑えられるか、免疫へのダメージをどこまで低減できるか、に主眼を置いておられます。瀬田流の免疫細胞療法は、あくまで免疫を脇役の位置に置いているのです。

免疫細胞療法には、大原則があります。

(1) 体の外で、がんを殺す細胞を培養する
(2) 免疫抑制を打破する強い免疫刺激を与える

この二つの要件を満たさないと、がんを「治す」可能性は開けません。

NK細胞の培養は難し過ぎる。
簡単なT細胞や樹状細胞なら手を出せる。
大量培養も簡単で、日本中、どこの施設でも実施できる。
手軽さから、どんどん、普及した獲得免疫系の免疫細胞療法は押しなべて、
(1)の、がんを殺す力が弱く、標準治療と併用するしかありません。がん治療の主役にはなれないのです。

免疫には獲得免疫と自然免疫があり、今大騒ぎしている「豚インフルエンザには免疫がないから」という議論は、正確には「獲得免疫がないから」ということです。獲得免疫がなくても自然免疫でウィルスをやっつけることは可能なんですね。そうでないなら、新しいウィルスが出るたびに人類は何度も滅亡しているはずです。

だから、ただの風邪にどうしてあんなに大騒ぎするのか不思議ですね。日本は世界の笑いものになっています。マスクが売り切れて買えないとニュースになるほどの大騒ぎです。

朝日新聞の素粒子欄にも「ニューヨークでマスクをしている人はいない。どうしてマスクをしないのかと聞いたら、どうしてマスクをするのかと聞き返された」と書かれていました。マスクでインフルエンザウィルスを防止できるという科学的な根拠は何もないのです。エビデンスがない。

リンパ球バンク(株)の藤井社長のブログですが、このブログ、他の記事も結構おもしろいです。一方、『免疫信仰は危ない!』では、瀬田クリニックの院長が、リンパ球バンク(株)のことを秘密主義だと批判していることも紹介しておきます。

瀬田クリニックGroupが切除不能局所進行膵がんを対象として実施した免疫細胞療法の臨床研究の結果に関する論文が、米国膵臓学会公認の学術誌『Pancreas(パンクレアス)』(April 2009 –
Volume 38 -)に掲載されました情報は、4月21日のブログで紹介しています。

免疫細胞治療に関しては、賛否いろいろな考えを吟味してみることも大事です。

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