平原綾香の『path of Independence』を聴きました。「ノクターン」や「カンパニュラの恋」はテレビドラマ『風のガーデン』の主題歌と挿入歌です。同じ曲で、歌詞が英語か日本語かの違い。ショパンのノクターン(第2番 変ホ長調 作品9-2)が原曲ですね。
納められた曲の中にチェロの心地よい独奏部分が挟まれているものが何曲かあります。ドラマでもチェロが効果的に使われていました(主人公もチェロを弾く設定)が、倉本聰のドラマにはチェロが雰囲気を醸し出してよく使われています。
いちばん記憶に残っているのは『北の国から’95秘密』のシーンです。看護師の蛍が勤務先の黒木医師と不倫の駆け落ちをして僻地の診療所に逃れていきます。その相手の医師が、空手もするしチェロも弾く名外科医という設定でした。この先生は決して画面には姿を見せず、チェロの音だけが流れてきます。「’98時代」では最果ての岩場に打ち寄せる砕ける激しい冬の荒波、粗末な掘っ立て小屋、荒涼とした雪の舞う風景にチェロのもの悲しい曲が流れてきます。
逃避先へ帰るため駅で列車を待つ間に純と車の中でカセットに録音した「先生」のチェロを聴くシーンでも同じ曲が流れてきます。世間から非難されようとも自分の意志に忠実に生きる蛍、その蛍が改札口に向かう後ろ姿が街灯の逆光に照らされています。凛と背筋を伸ばした蛍の後ろ姿に、純は強くなった一人の女を見ています。そして純の恋人との関係、情けない自分に対してやるかたない思いを抱いているようでした。
上のビデオの6分くらいからこの曲が流れています。蛍の台詞、「おかしいの。駆け落ちするのに何も持たず、チェロだけ大事そうに抱えてくるの」
この曲はフォーレの『夢のあとに』です。歌曲なのですがチェロに編曲されたものの方が格段によいです。チェロ用に編曲したのは、カザルスです。甘美で切ないメロディは、何度聞いても「北の国から」の数々のシーンを思い出します。
フォーレの『夢のあとに』はこんなシーンで使われていました。
「’95秘密」
- 純が車で螢を新得まで送るシーン、カーステレオから
- (駆け落ちの相手)黒木医師の夫人が五郎の石の家を訪ねて来たシーン
- 落石のバス待合所で純と螢が話をするシーン
- 石の家、螢からの手紙を五郎が読むシーン
「’98時代」
- 富良野へ来た螢がニングルテラスを訪れ、雪子と話をするシーン
- 螢が草太の牧場を訪れ、妊娠していることを告白するシーン
- 札幌、正吉が螢にプロポーズする公園のシーン
- 結婚式の3日前、石の家で五郎と螢が布団を並べて話をするシーン
- 富良野協会病院、螢の正吉への語りかけのシーン
- みずえの葬儀、遺言について山下先生と五郎が話しをするシーン
- 牧場の跡地と草太の墓を純が訪れるシーン
- 螢に届いた正吉の手紙が読まれるシーン
12回も使われています。最果ての岩場に打ち寄せる砕ける激しい冬の荒波のシーンは「’98時代」のどこかのシーンだったようです。