福岡伸一の「もう牛を食べても安心か」(文春新書)には、ナチズムから逃れてアメリカに亡命したユダヤ人の生化学者シェーンハイマーによる水素の安定同位元素H-2を使ったねずみの実験を紹介しています。
安定同位体を使うと食物が体内でどのように代謝されるかを自在に追跡することができる。彼は、当初、食物を構成する分子のほとんどは、生物体内で燃やされて排泄されるだろうと思っていた。
ところが実験結果は違った。分子は高速度で身体の構成分子の中に入り込み、それと同時に身体の分子は高速度で分解されて外へ出て行くことが判明したのだ。つまり、生命は、まったく比喩ではなく、「流れ」の中にある。(略)私たちの固体は、ミクロのレベルではたまたまそこに密度が高まっている分子の、ゆるい「淀み」でしかない。その流れ自体が「生きている」ということである。
だから私たちの身体は分子的な実体としては数ヶ月前の自分とはまったく別物になっている。
私たちの身体を構成している細胞も、その元である分子は、こうして自然界と繋がっていて、しかもただ繋がっているのではなく、高速に身体の構成分子を入れ替えながら繋がっているのである。
そして自然界を構成している分子、つまり地球の分子・原子は、最近の宇宙論によれば、過去の超新星の爆発によって生まれたものだといわれている。だとすると、まさに人間の身体は宇宙とつながっていて「動的平衡」になっているわけです。
デカルトに始まる近代合理主義精神は、自然を要素に分解し、分析することで近代の科学技術の進歩に大きく貢献をしたのですが、東洋の思想はそれとはだいぶ違っています。例えばチベット医学の生命観を記したといわれる17世紀の書物「四部医典(ギュー・シ」には身体は小宇宙であり、環境という大宇宙と絶えず手を携えて踊っているとされているそうです。
あるいは一休さんの時世の句である次の句を見れば、私たちの祖先も同じ思想を持っていたことがわかります。
朦々(もうもう)として三十年 淡々(たんたん)として三十年
朦々淡々として六十年 末期の糞をさらして梵天に捧ぐ
借用申す昨月昨日、返済申す今月今日。借りおきし五つのもの
(地水火風空の五大)を四つ(地水火風)返し、本来空に、いまぞもづく
四元素説とは、「物質は、火、水、土、空気の四元素からなる」という説。
世界を形成する四大元素と考えられていた地・水・火・風。
借りた5つの中の、返さずに自分が持って行けるただ一つのものが己の命。しかしこの命すらも自然からの借り物。つかの間己が管理しているだけ。命を自分のものと思うことが悩みの根源ではないのでしょうか。
老子の『道徳経』第16章「帰根」もおなじことを言っていますね。加島祥造さんの訳した自由詩だとこうなります。
静けさに帰る(第16章)
虚(うつろ)とは
受け容れる能力を言うんだ。
目に見えない大いなる流れを
受け容れるには
虚(うつろ)で、
静かな心でいることだ。静かで空虚な心には、
いままで映らなかったイメージが見えてくる。
萬物は
生まれ、育ち、活動するが
すべては元の根に帰ってゆく。
それは静けさにもどることだ。
水の行く先は—海
草木の行く先は—大地
いずれも静かなところだ。
すべてのものは大いなる流れに従って
定めのところに帰る。(そして、おお、
再び甦(よみがえ)るのを待つ。)それを知ることが智慧であり
知らずに騒ぐことが悩みの種をつくる。
いずれはあの静けさに帰り
甦るのを待つのだと知ったら
心だって広くなるじゃないか。
心が広くなれば
悠々とした態度になるじゃないか。
そうなれば、時には
空を仰いで、、
天と話す気になるじゃないか。
天と地をめぐって動く命の流れを
静かに受け容れてごらん、
自分の身の上でくよくよするなんて
ちょっと馬鹿らしくなるよ。
私はがんになりました。しかし、それには原因があるはずです。物事にはすべてその原因があるのですから、がんになったのにもその原因があるのです。しかし、現在の医学はその原因を元から直すのではなく、出てきた枝葉に対して治療をすることしかできません。がんになった臓器を切る、切って直らなければ抗がん剤だ、放射線治療だということになります。
しかし、抗がん剤も放射線照射も、がんを完全に治すことはできません。せいぜい延命効果があるだけのことです。
余命1年の患者が1年6か月生存すれば「効果があった」ということになるのです。現在私が投与を続けているジェムザール(ゲムシタビン)についても、国立がん研究所の翻訳文書によれば、次の治験が根拠になっているようですが、やはり延命効果しかないのです。
術後のゲムシタビン投与は膵臓がん再発を遅延
要約
手術可能な膵臓がんでゲムシタビンの補助療法を受けた患者は、手術単独治療の患者と比較して再発まで2倍近い期間生存しました。今回の臨床試験は、手術可能な膵臓がん患者の治療に化学療法の追加が有効であることを示す初めての大規模無作為化臨床試験です。結果
ゲムシタビン投与を受けた症例のがん再発時期は中央値14.2ヵ月後であったのに対して、手術後観察のみ行っていた症例のがん再発時期の中央値は7.5ヵ月後でした。
ストレスをためる生活や添加物いっぱいのファストフーズ、運動不足など、生き方の全体ががんを生んでいるのですから、その原因を正さないことにはがんは治りません。がんはウィルスと違って”外からの侵入者”ではなく、自分自身の細胞が突然変異したものだからです。
がんと言われたら、これまでの”がんを育てる”生き方を180度変えなさい。変えたからといって必ず治るわけではないが、変えなければがんは治りません。
数ヶ月で身体の分子が全部入れ替わってしまうというシェーンハイマーや福岡伸一氏の上の指摘は、言い換えればその入れ替わる元となるのは食べ物です。極論すれば、過去3ヶ月の食べ物によって私の身体ができているということですから、これは大変なことです。