抗がん剤で進行がんが治ると、多くの患者は誤解している

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再発や転移のあるステージ4のがんは、抗がん剤で根治することはまず不可能です。奇跡的な症例もありますから、絶対にないとは言い切れませんが、7割から8割の患者が、進行したがんが抗がん剤で治ると誤解しています。

抗がん剤は症状の緩和と延命効果

国立がん研究センターが出している『がん診療レジデントマニュアル』は、研修医の虎の巻のようなものですが、それには、抗がん剤の使用目的は「がんの存在による自覚症状の緩和、生活の質(QOL)の改善が大きな目的となる」と書かれています。

がんを治すことが主要な目的ではないのです。再発・転移したがんに対する抗がん剤は、延命効果と生活の質(QOL)の改善のために使用されます。

抗がん剤がよく効くのは、白血病などの血液のがんだけであり、その他の固定がんは、良くても延命効果しかありません。

多くの固形がんが、B,C,Dランクに位置づけられており、乳がんなどのBランクのがんでも「治癒はあまり期待できない。延命は期待できる」であり、Cランク以下は「症状緩和が期待できる」となっています。

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がん情報サービスの医師向けページにある『精神腫瘍学の基本教育のための都道府県指導者研修会』テキストには、
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と、ファーストラインの治療では、数週間から数ヵ月の延命効果があるが、セカンドライン以後の治療には延命効果が証明されていないと書かれています。

しかし、多くのがん患者(70~80%)は、抗がん剤で進行がんが治ると勘違いしているのです。正しく理解している患者は20~30%に過ぎません。そして、最初の抗がん剤が効かなくなると、セカンドライン、サードラインの抗がん剤に「希望」を託して、強い副作用に耐えて投与し続けるのです。

the New England Journal of Medicineの日本語ページに、『進行癌に対する化学療法の効果に関する患者の期待』との記事があります。

癌治療転帰調査・監視(CanCORS)研究(全米規模の前向き観察コホート研究)の参加者で,癌診断後 4 ヵ月の時点で生存しており,新たに診断された転移性(IV 期)の肺癌または大腸癌に対して化学療法を受けた 1,193 例を対象とした.化学療法によって治癒する可能性があるという期待をもつ患者の割合を明らかにするとともに,この期待に関連する臨床的因子,社会人口学的因子,医療制度的因子を同定することを試みた.

全体で,肺癌患者の 69%と大腸癌患者の 81%が,化学療法によって癌が治癒する可能性はまったくないことを理解しているという回答をしなかった

その割合は、医師とのコミュニケーションについてきわめて良好と評価した患者では,あまり良好でないと評価した患者よりも高かった。

ステージ4の肺がんと大腸がん患者の70~80%が「化学療法によってがんが治ると理解している」のです。しかも、主治医とのコミュニケーションが良いと答えた患者ほど、化学療法(抗がん剤)でがんが治ると考える傾向が高かったのです。

主治医が、予後について厳しい説明をし、「抗がん剤は延命効果です」と言ってしまうと、患者の満足度を低下させることになるのです。したがって、この点をあいまいなまま治療を勧める医者が多いのが実情です。インフォームド・コンセントは、日本のがん治療には存在しないも同然です。

日本のがん患者でも、ほぼ似たような傾向だと考えられます。

化学療法に過大な期待をもっているので、死の直前まで抗がん剤治療を受ける患者が多くなります。そして、適切な終末期の緩和ケアを受ける機会を逃すか、緩和ケアを受け始めたらすぐに亡くなることになるのです。

医者が進行がんになったら抗がん剤治療は受けない

2018年2月のアエラに、『「医師ががんになったら」衝撃の本音 どんな治療法を選択するの?』との特集がありました。

自分が最も進行している4期のがんになったら、現役医師たちはどんな治療法を選択するのか。20代から60代までのがんの診療経験のある現役医師553人にアンケートで聞いた結果が載っています。

膵臓がんの場合、化学療法(抗がん剤)を選んだ医師は16%で、その理由は、「一度やってみて、副作用と効果を見たい」「劇的に効くこともある」「新薬開発が著しいから」「一応試して、そのあと緩和ケア」。

放射線と化学療法の併用を選んだ人は15%で、理由は、「最善は尽くす」「可能性は低いが、生存できるかもしれない」「できるだけ長生きしたい」「標準治療はやるつもり」となっている。

ステージ4の膵臓がんで手術を選んだのは、わずか8%でした。「ダメもとで」「取れるものは取る」「根治したい」「子どもがいるので」「闘ってみたい」。

そして、56%が「緩和ケア」を選択しています。理由は、「効く薬がないから」「痛いのはいや」「治療がしんどい」「現時点で有効な治療手段がない」「治る見込みがないなら、好きに過ごしたい」。

一方で、がん患者の多くは、治る可能性が1%あり、生存期間が12ヶ月程度延びるのであれば、副作用の強い抗がん剤治療を受けると答えたという調査報告もあります。私の実感としてもそのようだと感じます。

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稀に治る患者もいるから希望を抱く

まれに副作用の強い集学的治療によって治った、あるいは治ったもどきになる患者がいるのも事実です。

いのちの落語」の樋口強さんなどは、そのよい例でしょう。「私も樋口さんのように治るかもしれない」と、がん患者が希望を持つのは当然です。

また、膵臓がんのブログでも、治ったもどきの状態が長く続いている方もいます。だから、標準治療以外の治療も含めて、自分にできることにはチャレンジしてみることです。

がんも人も千差万別、一人として同じではありません。抗がん剤を受けるかどうかという重要な判断は、あなたの病状をよく知る主治医とよく相談した上で、“もし先生や先生の家族が私と同じ病状なら、先生は抗がん剤治療を受けますか?”と質問をしてみるのが良いかも知れません。

プレシジョン・メディシンや遺伝子検査など、抗がん剤の進歩は日進月歩です。上にあげた医師らの判断も、新しい治療法が登場してくれば変わるかもしれません。

ステージ4で、セカンドライン、サードラインの抗がん剤になれば、それはもうエビデンス(科学的根拠)のない世界です。「漢方にはエビデンスがない」「低用量抗がん剤治療は人体実験だ」などと批判されますが、エビデンスがないことではどちらも同等です。

エビデンスがなければ、あとは直感と経験の世界です。やってみなければ分からない。やりながら、自分のがんと相談をして微調整をするしかないのです。

医療とは本来そうしたもので、歴史的にそれをたまたま「医療」と称してきただけのことです。

「直感」や「経験」で決めて良いのかと批判されそうですが、最近読んだ本が非常に示唆的な内容でした。

複雑で不確実な環境(正に医療の環境です)では、最善解を求めようとしてもムダであり、単純な解決法こそが最善である。そして直感と経験則で決めた方法が最適な解となる確率は、高度な統計的手法やフランクリンの法則を使った場合よりも、かなり高い。直感は「無意識の知性」が決めているのだ書かれています。

名医は「なぜだか分からないけど、これがいちばん良いと分かる」のです。それは経験則を絶えずバージョンアップして、「無意識の知性」を磨いているのではないか。

どのような死を迎えたいのかを考えておく

どこまで抗がん剤を続けるのか、その引き際を考えておくとこです。言い換えれば、人生の最期をどのように過ごしたいのかを考えておくことです。

どのような治療法をするかしないかにかかわらず、大事なことはあなたの価値観であり人生観です。

あらゆる治療法を死ぬ間際までやるもよし、潔くセカンドラインの抗がん剤を勧められたら無治療を選択するも良し。臨終のベッドに駆けつけたら、抗がん剤の点滴がポタポタと落ちていても、それが患者と家族の希望であるのなら、何も言うことはありません。

しかし、抗がん剤治療を中止しても腫瘍が大きくならずにがんと共存し、最期まで元気で過ごせる例が多い気がします。例えば「家族ががんといわれたら」のひぃさんや「てるてる坊主食堂」のノリポキートお母さんの例です。何の治療もせずに5年生存している膵臓がん患者もいるのです。

ということは、無理な抗がん剤治療で命を縮めている例が結構多いのではないかと推測されます。

治療に対して「希望」を持つことは大切ですが、命への「執着」にならないように、どこで治療を止めるかを考えておくことです。

がんは尊厳を維持しながら、一生を終える手段。と考えてみてはどうでしょうか。


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抗がん剤で進行がんが治ると、多くの患者は誤解している” に対して1件のコメントがあります。

  1. 桜井 より:

    なるほど、ようするに生死観の領域になるのかな?

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