ビタミンサプリメントとがん、最近の話題

ビタミンの抗がん作用のニュースが立て続けに流れました。国立がん研究センターが多目的コホート研究の結果を発表したものですが、時事ニュースでは、

ビタミン剤の摂取を続けた女性ではがんや循環器疾患の発症リスクが低下するとの調査結果を発表した。男性について関連は認められず、同センターは「男性の場合は、喫煙や飲酒の影響があるのでは」としている。

ところが、日経メディカル・がんナビでは、

日本人の女性で、ビタミンサプリメントを過去に摂取していた人々は、がんのリスクが17%上昇し、最近摂取を開始した人では24%上昇すること、一方で、5年以上摂取を継続してきた人では心血管疾患(CVD)のリスクが40%低下することが、多目的コホート研究(JPHC研究)で明らかになった。男性では、サプリメント摂取とがん、CVDの間に有意な関係は見られなかった。

と、同じ国立がん研究センターの発表に対して、女性のがんリスクに関しては正反対の報道がされました。もとの国立がん研究センターの発表内容はこちらです。内容が非常に分かりにくく、小見出しだけを見れば「女性では、ビタミンサプリメントの過去摂取者や摂取開始者で全がんリスクが高く、継続摂取者で循環器疾患リスクが低い・男性では変わらず」としたがんナビの記事が正しいようにも思えます。BMC Public Health 2011年11巻540の内容(英文)

これらの相反する報道に関して、健康産業新聞が10月11日付で次のような解説記事を載せています。

国立がん研の発表記事に、大きな疑問の声

 6日に開かれたエグゼクティブ会議で、国立がん研究センターが8月25日に発表したリリースに大きな疑問の声が上がった。エグゼ会議では当初、同センター発表に基づき、日経夕刊紙や化学工業日報などが報じた記事が真逆の内容になっていることから、「ビタミンサプリ摂取に関するがんリスクの増減と報道のあり方」というテーマで、シンポジウムは開かれた。パネリストの指摘で、化学工業日報は「循環器系疾患でリスク低減」と報じ、日経新聞は「ビタミンサプリ摂取でがんリスク高まる」と報じた。時事通信社などもサプリメントの有用性に言及した配信を行った。

 実験そのものはサプリ摂取とがんの関係がテーマで、90年代からスタートし、今回の発表は、サプリメントの摂取について、①調査開始時も5年後も非摂取、②開始時摂取、5年後非摂取、③開始時非摂取、5年後摂取、④開始時摂取、5年後も摂取の4グループで調査した。その結果、女性では①に比べ②で17%、③で24%全がんリスクが上昇したと報告、一方循環器系では、非摂取者に比べ5年の摂取者で発症リスクが40%減少したというもの。特に脳梗塞で有意にリスク低減が見られたとも。 

本来の趣旨からはサプリを取っていた人と取らなかった人という意味で①と④の比較が合理的で、ここでは両者の間で、全がんで8%、循環器系で40%の発生リスク低減が見られ、これを受けて「ビタミンの摂取を続けた女性ではがんや循環器系疾患のリスクが低減した」(時事通信社)と報じた。日経夕刊紙の報道に疑問はあるが、ニュースリリースでは、そのように読める内容となっており、極めて恣意的といわざるを得ないとの指摘がパネラーからも相次いだ。

 アガリクスのブック商法ががんについての社会的な責任を問われたのと同じように、今回の国立がん研究センターの研究が、膨大な国家予算を基に進められている事からすれば、その本質的な内容が曖昧であり、一般的に理解できるところのサプリを取っている人と取らない人の比較で行われるべき、まとめが、はずされていることなど、極めて奇異なまとめだといわざるを得ない。サプリメントが有用であるにもかかわらず、その事実が歪曲されるような発表であるならば科学者としての責任は重い。同センターの中立性という点からも問題は深刻で、改めて同センターの関係者の説明を求めなくてはならないというのが、共通した結論であった。

つまり、比較する組み合わせに問題があるとの指摘です。ビタミンを摂っている人と摂っていない人を比較すべきです。「当初摂っていない、5年後も摂っていない」グループと「当初摂っていた、5年後も摂っていた」グループを比較すべきということです。下の図1で、青とピンクを比較すれば、女性のビタミン摂取者のがんリスクが低下しているのは明らかです。
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男性については優位な関係は認められなかったのは飲酒や喫煙の影響ではないかとしていますが、事前にこうした交絡因子を排除して計画すればよいのではないでしょうか。専門家の仕事とは思えません。がん研究センターの発表が恣意的かどうかは意見の分かれるところでしょうが、国民的関心のあるニュースでしかも税金を使って長期間研究した発表ですから、もう少し丁寧な説明をすべきだったと思います。それとも、がん研究センターとしては「ビタミンサプリメントなど効くはずがない」との思い入れがあったのでしょうか。

それにしても、ビタミンAもB,C,E,その他をすべて一括りで「ビタミンサプリを摂っている、摂っていない」としたコホート研究に意味があるのでしょうか? それぞれ効果が違うでしょうに。あまり役立たない研究にムダな予算を付けたのではないかという気がします。(ビタミンDがなぜないのか?)

さて、海外でもいくつかのニュースがありました。

サプリメントの摂取は大半の人で不要、逆効果も 研究
  ビタミンサプリメントの摂取は大半の人では必要ない。それどころか、年配女性では死亡リスクが高くなる恐れもある。米国医師会(American Medical Association)の内科専門誌「アーカイブス・オブ・インターナル・メディシン(Archives of Internal Medicine)」に10日、このような研究結果が発表された。

 今回の結果は、ビタミンE、ビタミンA、ベータカロチンなど一部の抗酸化物質のサプリが有害になりうることを示す新たな証拠だとした上で、「ビタミンとミネラルのサプリは、少なくとも栄養状態が良い人には予防措置としてすすめられない」と記している。

 Bjelakovic医師らによると、年配女性、そして恐らくは年配男性にも有益と見られる唯一のサプリは、ビタミンD3という。食事または日光暴露により十分なビタミンD3を得られなかった場合に有効だという。

こちらもAFPのニュースですが、
ビタミンEのサプリメントで前立腺がんリスクが増加

これら二つのニュースについては、安西さんが「米国統合医療ノート」に解説しています。

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これらのニュースを見ても、私自身はマルチビタミンを摂ることを止める必要はないと考えています。もちろんメラトニンも続けます。

以前にも紹介したと思いますが、「がんサポート情報センター」にある大野智氏監修の記事「サプリメントはがん治療に役立つか?」にあるように、抗がん効果のあるサプリメントは皆無だと言って良い。しかしその中でもメラトニンとビタミンDには期待が持てると書かれている。このブログでは過去に私が摂取している理由は書いているが、今回のニュースでは私の方針を変える必要はないと言えます。

エビデンスは重要ですが、国立がん研究センターが永年研究しても、上のような程度のエビデンスしか得ることができないのです。がん患者には時間がないのです。きちんとしたエビデンスが揃うまで待っていられない。

  • ある程度の(ヒトに対する)研究成果があること
  • 重篤な副作用がないこと
  • 高価でないこと

これが私のサプリメント選びの基準です。


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ビタミンサプリメントとがん、最近の話題” に対して2件のコメントがあります。

  1. キノシタ より:

    刑事コロンボさん。
    お母上のご逝去のコメントに接し、心よりご冥福をお祈り申し上げます。ステージ4aで2年近くの闘病、すばらしいことだと感銘致しました。コロンボさんの戦略と心の支えがあったからこそだと思います。
    QOLもある程度維持された宝物のような時間だったのではないでしょうか。残された者としては、もう少し別の方法が、との想いはいつもあるのだと思います。
    結果ではなく、どのような時間を過ごすかが大切だと、逆に教えられました。
    結局は、「いまここに」ある時間をいかに過ごすかですよね。明日どうなるか、も大切ですが、それだけではせっかくいただいた余命を勿体なく消費するのではないでしょうか。
    何度もコメントをいただき、こちらこそありがとうございました。

  2. 刑事コロンボ より:

    こんばんは。私の母が、10月9日に永眠しました。
    膵頭十二指腸切除術を受け1年9月半の闘病生活でありました。
    上腸間膜動脈に浸潤がみられた状態で2年近く生きられたのは幸運だったかもしれませんが、私個人としては、もっと最善を尽くせたはずだと悔いばかりが残ります。
    しかしながら、キノシタさんのブログに巡り会えたことは私にとって暗闇に灯る一筋の光明でありました。本当にお世話になりました。心から御礼を申し上げます。キノシタさん、ありがとう!

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