丸山ワクチンと中井久夫『臨床瑣談』

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前回の丸山ワクチンの関連ですが、私のブログの一部を再録しておきます。この記事は、2007年6月に膵臓がんと診断されてから1年半後のものです。当時は田舎の墓も墓終いして死ぬ準備も整え、さて、残された時間をどう生きようかという心境になっていたころでした。

膵臓の存在を忘れないこと

臨床瑣談
精神科医であり、ギリシャの詩人カヴァフィスの詩集を翻訳出版するなどの活躍もしている中井久夫さんは、「膵臓疾患を発見する最大の秘訣は何か。それは膵臓の存在を忘れないことだ。」と書いている。「沈黙の臓器」膵臓は、がんになっても自覚症状はなく検査でも見つかることは少ない。だから膵臓の存在を意識しておくことが必要だろうというのだ。

こうした意識を持っていた彼が、十数年前に、彼の教え子である若き女医が肝臓がんの疑いをもたれたとき、「膵臓がんではないか」ということで内科医の診断に異議を申し立てたそうだ。そのおかげか、その女医さんは膵臓がんを早期に見つけることができ、今でも元気で活躍していて毎年年賀状が届くのだと。

中井久夫さんの「臨床瑣談」にはこうした臨床にまつわる『瑣談(さだん)ちょっとした、つまらない話』が書かれているのだが、内容は「つまらない話」ではなく、がん患者にとっても興味深いことが多く語られている。

肺活量が大きい人はがん生存率が高い

臨床瑣談 続
「がんを持つ友人知人への私的助言」の章では、「闘病という言葉は使わない方がよいのではないか。なぜならがんと闘うという意識は、交感神経を刺激して免疫力を低下させる」、「顕微鏡下で副腎皮質ホルモンがリンパ球を壊すのを見た。だからリンパ球はストレスに対して非常に弱いのだ」。

「肺活量が大きい人はがん生存率が高そうだ。栄養や血液にたくさんの酸素が供給され、それがリンパ球の活性化に繋がっているようだ」などの指摘はなるほどと思う。胃がんが脊椎に沿ってのっぺりと転移した70歳の男性(肺活量8000cc)が何年も生存し、社会的活動もしている例などを紹介している。

そういう私も肺活量は多い方である。以前のブログにも書いたとおり、膵臓がんの手術前の肺機能検査では針が振り切れて、検査技師の女性が「こんなの始めて~!」と驚いていた。このときの測定値は8000ccを超えて測定不能だったから、この胃がんの男性よりも私の方が多いということになる。

高校時代はブラスバンド部でトロンボーンを吹いていた。(今はチェロを弾いているが、同じ低音楽器であり、どうやらこれらの楽器の音域が私の好みらしい。)肺活量が非常に多いのはそのせいだろうと思う。学校の身体検査で肺活量を計るときに針が振り切れて足りずに二回に分けて測定したこともある。未だにがんの転移がないことは肺活量が大きいためかもしれないということになると、これは愉快だ。

「がん患者よ、管楽器を吹きなさい」ということにもなるかもしれない。ドクター・ワイルも「治癒力を高めるために、もしもただ一つだけを、と言われたら何を推奨しますか?」との問いに対して、「呼吸法です」と答えているから、相通じるものがありそうだ。

がん患者への三つの助言

中井久夫さん自身も前立腺がんを経験している。がんを告知された医者の心境も正直に書かれているが、我々と差がなく驚いて混乱している様子がおかしいが、がんになった医者である作者の言葉には重みがある。中井さんのがん患者への助言が三つある。

  1. 睡眠を十分に取りなさい
    正常な細胞が細胞分裂をするときに、最も危ない時期を午前2時から4時くらいの時間帯に迎える。細胞ががん化しないためにもこの時間帯は熟睡して体力を回復しておくことだ。
  2. おいしいものを食べなさい
    これは栄養をとることと、病院食などはストレスがたまる一方で治癒には悪影響だという話。
  3. 笑いなさい
    ノーマン・カズンズの「笑いと治癒力」を例にとって、笑いは免疫力を高める。無理にでも笑いなさい。脳をだましてでも笑っていれば効果がある。

意外でもあり、当たり前すぎるようでもある助言だが、これで良いのだと思う。私なら、このほかに「歩きなさい」「瞑想をしなさい」「楽しいことをたくさんしなさい」と言うだろう。

「がん細胞は弱くて混乱した細胞です。死ぬべき細胞が死ねず にいるだけです。がん細胞は熱にも弱くて、リンパ球の攻撃にはひとたまりもなくやられてしまいます。」 サイモントン療法のCDにもこれと同じ台詞があり、白血球ががん細胞を対峙するイメージを描くように指導している。人体では毎日5000個、ある説では数万個ものがん細胞が生まれているそうですが、そのほとんどは自己免疫力で退治されるのです。その攻撃をかわしてやっと生き残ったがん細胞もリンパ節で阻止されて、なかなか転移はしないものです。

中井さんも丸山ワクチンをつかったことがある

最後に「SSM、通称丸山ワクチンについての私見」項。中井さん自身も丸山ワクチンを使ったこともあり、丸山博士と会った最後の世代としての責任から、言っておかねばならないという想いが書かれています。医学部教授ががんになったとき、助教授が丸山ワクチンをもらうため、身分を隠して日本医大へ行くのを何度か見たそうです。彼は「ダブルスタンダードではないか!」と怒りを覚えます。中井先生は堂々と医者の名刺を渡して講演を聴きに行ったら、丸山先生から部屋に招かれてお話を伺うことができた。こんな若造に対しても鄭重な応対をしていただいたことに、先生の孤独を感じたと言います。

ある代替医療を標榜するクリニックの前には高級車がずらりと並び、医者や医者の家族らしい患者がクリニックから出てくるそうですから、「医者のダブルスタンダード」は今日でも一般的な現象なのでしょう。

丸山ワクチンに話を戻しますが、中井さんは丸山ワクチンについては好意的な見方です。実際の効果があった(と思われる)患者も見ています。丸山博士自身はこのワクチンをがんの特効薬としては考えていなくて、周囲から「あれにも効きそうだ。これにも」と言われている間にこんなことになってしまった、と困惑していた様子が伝わってきます。

エビデンスとは何か、代替医療はニセ科学か、ここでも問題になりますね。丸山ワクチンはエビデンスがないからニセ医療なのか。当時は選択肢としては丸山ワクチンしかなかった時代です。このときに「エビデンスがないから」といって、藁にもすがりたい患者を切り捨てて良いものなのか。一方で、インチキクリニックが横行している現状との関係をどのように考えるべきなのか。インチキクリニックにも彼らなりの理屈があり、「重症患者しか来られませんから、エビデンスもなかなか確立できないのです」と言われたら、なるほどそういうこともあるのかなぁ、などと思いたくはなります。

丸山ワクチンを考えている方には、申請方法とか、書類の作成における抜け道なども書かれており、「臨床瑣談」は参考になる一冊です。


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