比較:免疫細胞療法クリニック

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あちこちで免疫細胞療法が話題になっていますね。きっかけはITmediaビジネスのこの記事です。

ここでは記事の中身にはあまり触れませんが、ITmediaビジネスはソフトバンクの子会社です。代表取締役社長兼CEOは、孫正義社長の戦略秘書、社長室長を務めた大槻利樹氏。

確かに、「免疫療法」をうたって、科学的根拠のない治療を提供している悪徳クリニックが存在しているのは事実だ。そのおかげで、日本では「免疫療法=怪しい治療」という認識が社会にすっかりと定着しているわけだが、世界を見渡せば、この認識はかなり時代遅れというか、「勘違い」と言わざるを得ない。

例えば、ゲノム研究の世界的権威として知られる、米・シカゴ大教授でもある中村祐輔氏は自身のブログでこう述べている。『科学として免疫療法は確固たる位置を築いたことは明白だ。日本では、いい加減な免疫療法が広がることを問題視し、憂慮している人が少なくないようだが、欧米ではいろいろな免疫チェックポイントを対象とする治療薬や多種類の免疫療法の検証が進んでいる。「怪しい免疫療法が広がることを懸念して、まともな免疫療法を抑え込む」ことは非科学的だ』(中村祐輔のシカゴ便り 2017年4月2日)

「科学的な(発展途中の)免疫療法」と「いい加減な免疫療法」とがあり、オプジーボなどがまともな免疫療法であり、巷のクリニックでの「免疫細胞療法」が怪しい免疫療法と、とりあえず括っても良いでしょう。しかし、どうやら巷の免疫細胞療法クリニックも、自分ところは怪しげなクリニックと同一視して欲しくないと言っているように見えます。

どこまでが、怪しい、いい加減な免疫療法なのでしょうか。

長い記事ですので、結論を先に書いておきます。

手術ができない癌に対する免疫細胞療法で、積極的に勧められるものは一つもありません。

『すい臓がんカフェ』でも免疫細胞療法を話題にすることがありますが、すい臓がんカフェは「いかなる代替療法に対しても、否定も肯定もしない」のが運営の方針であり、情報は提供するが、後は患者さんの判断に任せるという考えです。ここに記載するのは私の個人的見解です。

東京MITクリニックグループ

怪しげな免疫療法クリニックの代表格はここでしょう。

ともかく、すごい広告の量です。Google AdSense以外に Webサイトも www.mitgroup.tokyo と www.comfort-hp.com があり、さらにがんの種類ごとに別々のサイトを立ち上げています。(膵臓がんなら www.suizougan.jpなどのごとく)

これらの制作費だけでも相当の投資をしているはずです。このクリニックの特徴は、がん研究の最新の話題やキーワードを見境なく取りこんで、治療と称して提供している点です。

院長の宇野克明医師が2000年から出版しているたくさんの本をざっと見てみると、

  • ガンとは免疫異常がもたらす疾患・免疫病だった。免疫賦活剤、免疫賦活が期待できる食品、および心理学的なアプローチが免疫力を高める事実を医学的に示し、免疫療法によって腫瘍が消滅した症例を紹介。(『ガンで死にたくない人はガン免疫ドック』)
  • 今までに多く行われてきた、いわゆる民間療法レベルの「ガン免疫療法(代替医療)」ではなく、最新の医学研究(分子生物学、腫瘍免疫学)に基づいた、より新しく効果的な「ガン免疫療法(分子免疫治療)」を紹介します。(『戦略的細胞分子免疫治療』)
  • サリドマイドは過去、大きな被害をもたらした。しかし、治癒の見込みのない末期がん患者にとって「福音」と言える可能性を秘めている。(『がん治療―サリドマイドの適応と警鐘』共著)
  • リンパ球機能の強化・健全化を図りガンが作り出す悪い物質を排除して治療する、「がん免疫治療」の全貌を公開。(『医学界への提言 宇野式がん免疫治療の全貌』)
  • 末期・再発・転移ガン患者にやさしい 積極的免疫治療―日本免疫治療学会公式ガイドライン

一般社団法人 日本免疫治療学会は、瀬田クリニックの創設者である故江川滉二氏が設立した日本免疫治療学研究会が一般社団法人に発展したものであり、顧問には元厚生労働大臣坂口力氏が名を連ねています。しかし、現在では宇野克明氏の名前はどこにもありません。公式のガイドラインも「疫細胞療法細胞培養ガイドライン(2013年11月12日制定)」と「がん免疫細胞療法用臨床試験ガイダンス(2014年5月20日制定)」があるのみです。

  • 大至急、細胞小器官ミトコンドリアに着目せよ!全力で、ミトコンドリアの働きを解明せよ!ミトコンドリアの機能を改善できれば、医学は新しい局面に突入し、飛躍的に進歩する。(『ミトコンドリア革命―私たちの健康・未来はミトコンドリアが握っている』)

一時、MIT東京のサイトには「ミトコンドリア治療」と称するものまで登場していました。当時はミトコンドリアが話題になっていたからですね。(現在は見当たらない)

今では何を宣伝の柱にしているかというと、「ネオアンチゲン免疫治療」です。

がん細胞を攻撃するキラーT細胞は、この「がんペプチド」を目印にして闘いをしかけています。 しかし、多くのがん細胞は攻撃を防ぐため、「がんペプチド」を細胞の内部に隠してしまいます。 ネオアンチゲン免疫治療では、隠された「がんペプチド」を内部から引っ張り出し、キラーT細胞に攻撃の目印を教え続けます。

隠された抗原を引っ張り出すとはすごい発明です。突っ込みどころ満載だが、国立がん研究センターとブライトパス・バイオ株式会社が、2017年10月に「ネオアンチゲンワクチンによる完全個別化がん免疫療法に関する共同研究契約を締結」しています。

がん細胞は、遺伝子突然変異によって正常な増殖制御を失うことで増殖し、ゲノムの不安定性に基づく遺伝子変異をその過程で蓄積しますが、次世代シーケンサーの登場により、個々の患者のがん細胞で生じている遺伝子変異を正確に解析できるようになりました。これらの遺伝子変異は正常な遺伝子配列と異なるために、免疫系に「非自己」として認識され、免疫応答の標的として免疫反応を強く誘導する抗原(がんの目印)=ネオアンチゲン、すなわち、がん治療ワクチンの候補となります。一方で、がん遺伝子変異は個々の患者で異なり共通するものはごくわずかであるために、患者ごとの個別対応が必要なことも分かってきました。
この度の共同研究は、患者のがん細胞に生じた遺伝子変異の中から、その患者の免疫反応を強く誘導するネオアンチゲンを迅速に見出す手法を開発するもので、個々の患者ごとに異なるネオアンチゲンを標的とした完全個別のがんワクチンの創製を目指しています。

中村祐輔先生らが、ネオアンチゲンに関する研究と実用化を熱心に進めており、国立がん研究センターもこれからネオアンチゲンの研究を開始しようとする時に、すでにがん患者に治療として提供できるMIT東京グループって、どれほどすごい研究組織を持っているのでしょうかね。

他にも「細胞外マトリックス阻害治療」とか「アポトーシス誘導治療」、個人輸入による免疫チェックポイント阻害治療も行っています。ともかく、なんでもよいから話題になったものを見境なしにウェブ上に上げているというクリニックです。

こんなクリニックにだまされる患者もあとを絶たないようです。

テラ・セレンクリニック

樹状細胞療法を得意とするテラは、人工がん抗原「WT1ペプチド」を使用した臨床試験を行っています。膵臓がんを対象にした再生医療籐製品としての承認を目指しているのも特筆すべき点です。

県立和歌山医大とで、標準療法不応膵癌に対する樹状細胞ワクチン(TLP0-001)の医師主導治験を実施中です。

メジャーな医学誌は少ないですが、膵臓がんに関する論文をたくさん出しています。

セレンクリニックは、テラの樹状細胞ワクチンを使った治療を提供している関連施設グループです。

ただ、このWT1ペプチドワクチン療法、2010年頃に大阪大学と共同で臨床試験を行ったはずですが、その結果は芳しくなかったと見え、その後報道もされなくなりました。

現在セレンクリニックでは、WT1を用いた樹状細胞療法の治療件数は世界で最多の実績があり、特に進行したすい臓がんでは、目覚ましい治療成績を上げております。この治療報告は、世界で最も新しいがん治療が報告される権威ある学会、米国臨床腫瘍学会(ASCO)において、2009年5月29日~6月2日でも発表し、セレンクリニックの治療が一躍注目を浴びることになりました。
※WT1ペプチド・・・大阪大学の杉山教授らが中心になって研究開発されている、がんの分裂・増殖に必要なタンパク質に由来するがん抗原(がん独自の特徴)。ほぼ全ての固形がん・血液がんに高発現しており、同抗原を標的とすることでほとんどの種類のがんに対して、がん細胞のみを狙って攻撃することが可能となるため、有用ながん抗原として期待されている。
(2012年8月 セレンクリニックのサイトから保存したもの)

膵臓がん患者としては、県立和歌山医大との治験の結果に注目しています。

費用
樹状細胞ワクチン療法 1セット(5~7回投与) 1,600,000円~(税別)
※1セットにつき1回のアフェレーシス(成分採血)を行い、お支払いはアフェレーシス実施時に1セット分をお願いいたします。
※ワクチンを作製する際に用いる「人工抗原」の種類によって、上記料金のほかに別途人工抗原費用が必要になります(1種約10万〜16万円)。

セル・メディシンー自家がんわくちん療法

理化学研究所が開発した、術後の再発予防を主目的とした免疫療法です。対象となるのは、がんの手術ができてホルマリン漬けされている組織が提供できる患者です。

「自家がんワクチン」療法では、手術で取りだした患者本人のがん組織で病理診断で残ったものを細かく砕き、免疫刺激剤とともにそのまま患者本人に戻して、がん治療を行うという治療法です。培養はしません。そのため、簡便化された技術になっています。

がんだと認識する成分(がん抗原)は患者ごとに異なっているため、患者自身のがん組織を使って免疫細胞を刺激する(アジュバント剤)ことが最も理想的であると考えられます。

これまで自家がんワクチン療法の臨床研究は肝臓がんで2回、脳腫瘍(膠芽腫)に対して3回行われ、全て論文として発表されています。更に、より高いレベルの臨床研究が東京女子医科大学、筑波大学、大分大学、日本赤十字社医療センター、熊本大学、東北大学、京都大学と共同で実施されております。(患者登録は終了)

自家がんワクチンについては、学術的なエビデンスレベルも公開されています。

上記の主要論文一覧はこちら

費用

原則1コースで治療は終了。自家がんワクチン療法は「初診、1コース分(3回)のワクチン接種、2回の免疫反応テスト」で構成されていて、すべて含めて150 万円前後となっています。

メディネット(瀬田クリニック、金沢大学先進医学センター)

メディネットが開発した免疫細胞治療の細胞加工技術を用いて、免疫細胞治療に用いる細胞の加工を受託している企業です。次のような加工技術を持っているとされています。

  • アルファ・ベータT細胞加工技術
  • ガンマ・デルタT細胞加工技術
  • NK細胞加工技術
  • 樹状細胞ワクチン加工技術
金沢大学先進医学センター

金沢大学先進医学センターのサイトには、免疫細胞療法の効果として下記のような図画掲載されています。

肺がん手術後の免疫細胞療法の効果について検証した無作為比較試験の臨床結果の報告です。免疫細胞療法を併用した82人は、5年後も半数以上(54.4%)が生存しているのに対し、併用しなかった88人では1/3程度(33.4%)しか生存せず、生存率に大きな差が認められます。この結果は、免疫細胞療法によりもたらされた、再発・転移および進行の抑制効果によるものと考えられます。

と説明されていますが(Pubmed ID:9210707)、上の臨床試験はインターロイキン2(IL-2)、LAK細胞による養子免疫療法であり、効果はあるが危険すぎるので今は使われていません。LAK療法は米国で大規模な臨床試験が行われ、全員に何らかの効果が見られたのですが、莫大な費用がかかるためにこれも頓挫してしまっています。

下の図は、これもIL-2の養子免疫療法です。(Pubmed ID:11022927

この他には、樹状細胞を用いた試験や胃がんに対するものがありますが、数十名規模の症例の小規模の臨床試験で、しかも、すべて術後の再発・転移への効果を研究したものであり、手術ができない患者を対象としたものではありません。

最近の活性化自己リンパ球療法(アルファ・ベータT細胞療法、ガンマ・デルタT細胞療法)に関するものは、金沢大学先進医学センターのサイトでは紹介されていません。大学の研究センターなら、患者に誤解を与えかねないデータは載せるべきではないでしょう。

瀬田クリニック

瀬田クリニックグループのサイトに主な研究論文が公開されています。

ここに掲載された主な論文のほとんどが安全性と有効性を評価する第Ⅰ相試験です。

一つだけ、No.37としてあげられている研究『進行肺癌に対する活性化自己リンパ球療法で観察された生存期間の延長:多因子歴史的コホート研究の結果』があり、これは第IIIb / IV期の原発性非小細胞肺癌患者540人に対するアルファ・ベータT細胞療法のコホート研究です。

東京の6つの主要大学病院と瀬田クリニックグループが参加して、これらの施設で治療を受けた非小細胞肺がん患者355名を対照群とし、瀬田クリニックで免疫細胞療法を受けた192人を免疫療法群として、5年間追跡したものです。

その研究の結論は、「進行した肺癌に対する免疫療法の有効性は限られているが、特定の条件下では寿命を延ばす可能性がある。 免疫療法自体は化学療法と比較して臨床上有益ではなかったが、化学療法に対する免疫療法の有意な相加効果が腺癌の女性において観察された。 さらに、免疫療法は、死亡時近くまで患者の良好な生活の質を維持することができる。」(Pubmed ID:22422103)とされています。

この論文から生存率曲線を掲載します。

略号の意味は、CT:化学療法単独、CRT:化学放射線療法、IT:免疫療法単独、ICT:免疫化学療法、ICRT:免疫化学放射線療法、BSC(ベスト・サポーティブ・ケア)の各患者で構成されています。

図1のAで、生存期間中央値は、無治療→免疫療法単独→化学療法単独→化学・免疫療法併用→化学放射線療法→化学放射線と免疫療法併用の順で良くなっています。

抗がん剤単独に比べて免疫細胞療法を併用すると、生存期間中央値が約3ヵ月伸びます。しかし、全生存期間(OS)にはほとんど違いがありません。延命効果はなく、結局生きられる時間は変わらないが、その間のQOLは幾分良いということです。

有効性は、2年間後に、免疫療法を8.7回に、中央値で6.1ヶ月に受けた患者で消失した。 患者の生存をさらに延ばすために、より長い治療が必要となるかもしれない。

しかし、全生存期間の推定値は、試験に参加した患者の特性に応じて異なる可能性がある。

と論文の結論部分で述べています。

下の図は免疫チェックポイント阻害薬オプジーボとドセタキセルの比較臨床試験ですが、延命効果があれば、図の右側でも曲線は開いています。

これをどう解釈するか。免疫細胞療法で貯金を使い果たし、その後の腫瘍の増大と症状の悪化により急激に亡くなる患者が増えるということかもしれません。

「打ち切り」例を考慮すれば生存期間中央値に差はない

図1-Aで気になる点があります。

赤丸の部分、抗がん剤と免疫療法併用群の曲線の上に「ひげ」が立っています。これは治療の途中で転医などで消息不明になった患者がいる場合に「ひげ」を付けます。抗がん剤単独群に比較して、免疫療法併用群の「ひげ」が多くなっています。これを「打ち切り」例と言いますが、その場合に、曲線は上に膨らむのです。詳しい説明は大場大先生の下のブログがわかりやすく解説しています。

打ち切り例を考慮すれば、実際の生存期間中央値は抗がん剤単独群と差がなくなる可能性が大きいと言えます。

アルファ・ベータT細胞療法(免疫細胞療法)に延命効果はない。生存期間中央値も伸びるかどうか怪しい。

しかし貴重なコホート研究であり、エビデンスレベルは低いが、立派な研究結果が出ているのですから、日本語に翻訳して瀬田クリニックのホームページに堂々と載せたらいかがなものでしょうか。

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費用:下記以外に初診料と相談料が必要です。

米原万里さんの体験記

瀬田クリニックについては、卵巣がんでなくなった米原万里さんが『打ちのめされるようなすごい本』に体験記を書いています。「癌治療本を我が身を以て検証」という章です。

「活性化自己リンパ球療法」を受けに、瀬田クリニック系列新横浜メディカルクリニックへ。1回約26万円、1クール6回、3カ月で約156万円。

星野泰三/水上治著『高速温熱リンパ球療法 ガン治療最後の切り札』(メタモル出版)が勧めるのは、活性化自己リンパ球療法と(癌が熱に弱く、リンパ球は高温で活性化するという特徴を生かした)温熱療法を組み合わせた魅力的な治療法なのだが、健康食品の宣伝販売に熱心すぎて金儲け一辺倒が透けて見える上に、成功例ばかりを列挙しているのが逆にひどく怪しく思えた。著者のもとで治療を受けていた従兄弟が亡くなったのを思い出し、好奇心もあって一応資料を取り寄せてみる。院長である著者の星野が背にするロココ風インテリアに思わず笑ってしまう。

活性化自己リンパ球療法を推奨する多数の本の中にあって、淡々とした叙述に終始する江川滉二著『がん治療 第四の選択肢』(河出書房新社)は、いかにも学究肌の真摯な探求心、癌患者の苦痛を少しでもやわらげたいという静かな情熱が伝わってきて胸を打つ。

癌の再発予防のために、著者が開設した瀬田クリニック系列の新横浜メディカルクリニックに通うことに決めた。培養されたリンパ球が最大値に達するのが採取後二週間ということで、二週間に一度通院して血液の採取と培養されたリンパ球の静脈への注入を行う。

一時期瀬田クリニックで修業をしていた医師から、実は患者の一〇%を医師が占めていると聞かされた。日本の人口比から考えると突出した数字。医師たち自身が、いかに三大療法を信用していないかを物語っていて可笑しい。

初日、「現在当院で治療中の患者の中で貴方が一番軽症ですね」と励まされる。本書の中でも、この療法は予防的に用いた方が効果的であるはずだと書かれていたのを思い出し、さらに心強くなる。

ところが、その日、瀬田から新横浜に出向いていた著者の江川滉二医師が、「できれば、開腹し転移の恐れがある卵巣残部、子官、腹腟内リンパ節、腹膜を全摘し抗癌剤治療を行った(J医大0医師の①バージョン)上で当治療を受けた方がいい」と述べたので、耳を疑った。①バージョンの苦痛と危険を避けたいがためにこの治療を受ける決心をしたというのに。これは、「第四の選択肢」では無かったのか。単なる三大療法を和らげ補佐する副次的療法に過ぎないのか。それにしては、高すぎるのではないか。

私の剣幕に驚いたのか、当面はこの治療法だけで大丈夫でしょうということになった。しかし、私の中で治療法に対する懸念と不安は膨らむ。それは、一年四カ月後の再発によって裏付けられた。少なくとも私には、当療法は予防的効果を全く発揮しなかったことになる。

再発が判明した時点で、J医大のO医師よりも熱心に手術を勧めたのは、新横浜メディカルクリニックのK院長だった。「さもないと三カ月以内に痛みが出てきて歩行困難になる」と脅しさえした。同院のウリである活性化自己リンパ球療法よりも三大療法に対する信頼の方がはるかに強いように見受けた。

リンパ球バンク:ANK免疫療法

ANKはAmplified = 増強されたNK細胞という意味です。がん細胞を傷害するのは、基本的にNK細胞とT細胞の一種である細胞傷害性T細胞(CTL)です。NK-T細胞やガンマ・デルタT細胞などは、NK細胞とCTLの中間的性格を持っています。

樹状細胞は抗原提示細胞といわれ、がんの特徴を覚えて記憶し、それをT細胞に教えて活性化する役割を持っています。樹状細胞自身ががん細胞を攻撃するのではありません。

それに比べてNK細胞は、生まれながらの”殺し屋”、教えられなくてもがん細胞を見つけると攻撃します。ではなぜ、樹状細胞療法やガンマ・デルタT細胞療法が広まっているかというと、NK細胞に比べて培養が簡単だからです。

メディネットやテラも、一応NK細胞療法を選択肢にあげていますが、NK細胞の活性化を保ったまま培養できているかどうか、疑問です。多くの場合、MHCクラスIを発現するがん細胞を攻撃しない特殊なNK細胞が生き残り、増殖してきます。(以上はリンパ球バンクの見解です)

リンパ球バンクは大規模な臨床試験は行っていません。その理由について次のように書かれています。

免疫細胞療法について、患者さん個人個人の詳細な状況や条件を問わず、免疫細胞療法を受けられたか否かによって、患者さんを二つのグループに分け、両グループの余命の差を統計処理したデータが、国内の医療機関から発表されています。(上記の瀬田クリニックの論文のことだと思われる)この場合、ある種の免疫細胞療法を受けられた方の中には、他の免疫細胞療法も受けられる方がいらっしゃるなど、特定の免疫細胞療法の延命効果を厳密に証明するものとは言えませんが、全体的な傾向として、免疫細胞療法を受けられる方は、そうではない方よりも、余命が延びる傾向があることを示唆するものと考えられるでしょう。

私どもは、延命効果も重要ながら、患者さんにお元気になっていただくのが切なる願いであり、ANK療法開発の目的でもあります。そのため、延命効果を治療の主目的とすることは本意ではありません。

正直なサイトですね。「延命効果はないから目的にはしない」と告白しています。治療を求める患者にも、そのようにはっきりと伝えているのでしょう。延命効果のない治療に1クールで400万円もを払う患者もいるのでしょう。

費用
  • リンパ球採取費用(税込み) 216,000円/回
  • リンパ球培養費用(1クール 12回) 3,844,800円
  • 点滴投与費用  20,000円/回
  • リンパ球運搬費用  54,000円

ざっと400万円必要です。

免疫細胞療法にエビデンスはないのか?

国内の免疫細胞療法、活性化自己リンパ球療法(アルファ・ベータT細胞療法、ガンマ・デルタT細胞療法)に関するエビデンスレベルの高い臨床試験は存在しません。せいぜいがコホート研究のレベルです。

しかし、海外では米国食品医薬品局(FDA)が、2010年に承認した自家細胞を用いた免疫細胞療法があります。ホルモン療法抵抗性前立腺がんを対象にした、Dendreon社のシプリューセル‐T「プロベンジ(商品名)」です。国内未承認薬の1つで、1ヶ月の費用が930万円といわれています。欧州では費用対効果が悪いということで、承認申請を取り下げています。

約500例の患者を対象としたプラセボ(未処理の自家末梢血単核細胞)との二重盲検、無作為化比較試験において、4ヵ月の生存期間の延長が認められた(25.8ヶ月vs21.7ヶ月)ことなどから、FDAが生物製剤として承認したものです。

しかし、Dendreon社は、この薬が承認されるまでに第3相試験を3回も実施しているのです。日本の免疫細胞培養会社やクリニックが負担できるレベルの費用ではありません。

このプロベンジは、国内では樹状細胞療法としてニュースになりましたが、実際には樹状細胞だけでは効果を出すことができずに、T細胞とNK細胞を同量加えてやっと4ヵ月の延命効果を出すことができたものです。NK細胞を使わない活性化自己リンパ球療法で、同じような効果が期待できるかは疑問です。

結局どれを選べば良いの?

免疫細胞療法では、がんは治らない

がん患者の多くが誤解をしていますが、免疫細胞療法は、がんを治す治療法ではありません。これまで見てきたとおり、せいぜい生存期間中央値が数ヵ月延びるだけであり、生きていられる時間(全生存期間)は、免疫細胞療法をやってもやらなくても違いはありません。プロベンジのような延命効果は証明されておらず、多分延命効果はありません。

ただ、初期の期間におけるQOLは改善するようですから、そうした恩恵を受けることはできるでしょう。

免疫療法のクリニックが、一定の努力をしていることは認めますが、瀬田クリニックの広告塔となっている元厚生労働大臣 坂口力氏らがめざしている、免疫細胞療法を健康保険で適用させる運動は、時期尚早でしょう。さらに確かな効果を証明できる臨床試験を行う方向にエネルギーを向けるべきで、この程度の効果しかない治療法に、がん患者から署名を集めるなど論外です。

ひげのお医者さんのクリニックには近づいてはいけません。金も命も持って行かれます。

積極的に勧められる免疫細胞療法はありませんが、手術ができた患者さんの再発・転移予防をめざすセル・メディシンの自家がんワクチン療法は、経済的に可能なら受けても良いかも知れません。1クールだけで終わるので、他の免疫細胞療法のように、幸か不幸か効果があれば延々と続けなくてはならずに自己破産するなどの心配もありません。ランダム化比較試験を含めた、ある程度のエビデンスが存在します。

がんの治療は博打です

がん治療は博打です。博打に家族の生活費まで突っ込んではいけません。

経済的に余裕があり、遺される家族の生活の心配がないのなら、その他の免疫細胞療法に取り組むことはあってもよいでしょう。患者の自己決定権ですから、ヘルシンキ宣言違反だとか人体実験だという非難は無視しても結構です。

今現在免疫細胞療法を受けている患者さんは、経済的に可能で、効果が実感できているのなら続ければ良いのです。患者の立場では、効果が感じられる治療法にそれ以上のエビデンスは必要ありません。

一度始めた代替医療を止めるのは難しい

しかし、「効いているかもしれない」と考えたら、止めるのは怖いでしょうね。標準治療と併用しているので、どちらが効いているのかは分かりません。分からないけど止められない、高額な治療を死ぬまで続けることになります。

代替医療全体に言えることですが、一度始めたら止める決断をすることは難しいです。これが先方の目論見でもあるわけです。

私の場合は、これらの治療法はまったく検討の対象にはなりませんでした。理由は「コストパフォーマンスが悪い」の一点だけです。


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