「常陽」でアクチニウム225生産へ
東京新聞によれば、日本原子力研究開発機構は、高速実験炉「常陽」(茨城県大洗町、2007年から運転停止中)で、がん治療に効果が期待される医療用ラジオアイソトープ(RI)生産のため、原子力規制委員会に原子炉設置変更許可を申請したと発表した。
機構によると、RIの中でも「アクチニウム225」はがん治療に効果が高いことが確認されているが、世界的に供給量が不足。国内でも医療現場での実用化に向けた治験の円滑な実施が、困難な状況という。
原子力機構は、26年度の常陽の運転再開を目指している。同年度中にアクチニウム225を実際に製造し、その手法の妥当性や製造量を確認する製造実証をしたい考えだ。
担当者は「常陽であれば(エネルギーの高い)高速中性子を利用できる。アクチニウム225は非常に効果が高いので、(国内生産について)患者団体などの期待が強い」と話した。
2024年2月10日 東京新聞
アルファ線による膵臓がんの治療にも期待が集まっています。
放射性同位元素アクチニウム225によるがん治療原理と対象となる癌の種類
アクチニウム225 (Ac-225) は、アルファ線を放出する放射性同位元素です。アルファ線は飛距離が短く、周囲の細胞にダメージを与えやすい性質を持ちます。この性質を利用して、がん細胞をピンポイントで攻撃し、殺傷するのがAc-225によるがん治療の原理です。
具体的な治療方法は以下の通りです。
- 抗体やペプチドなどの標的分子にAc-225を結合させる
- 標的分子ががん細胞表面の特定の受容体に結合する
- Ac-225から放出されるアルファ線が、周囲のがん細胞を殺傷する
Ac-225によるがん治療の利点は以下の通りです。
- 高い殺傷効果: アルファ線は、DNAを直接損傷させるため、がん細胞に対して高い殺傷効果を持ちます。
- 周囲組織への影響が少ない: アルファ線の飛距離は短いため、周囲の正常組織への影響が少ないと考えられています。
- 様々な種類のがんに適用可能: 標的分子を適切に設計することで、様々な種類のがんに適用可能です。
Ac-225によるがん治療の対象となる癌の種類は、現在臨床試験で検証が進められていますが、以下のようなものが挙げられます。
- 転移性前立腺がん
- 中皮腫
- 滑膜肉腫
- 神経膠腫
- 悪性黒色腫
- 白血病
Ac-225によるがん治療は、まだ研究段階ですが、従来の治療法で効果が得られなかった患者さんにとって、新たな治療選択肢となることが期待されています。
【参考資料】
- 量研機構における、アクチニウム-225の製造に向けた取組
アクチニウム225の国内生産状況
アクチニウム225 (Ac-225) は、アルファ線治療に用いられる放射性同位元素ですが、半減期が10日と短いため、安定供給が課題となっています。現状、Ac-225は主に海外で生産されていますが、日本での利用拡大には国内での生産体制確立が不可欠です。
現状の開発環境
- 研究機関:
- 理化学研究所 (理研) や東京大学などの研究機関では、Ac-225の製造技術開発や治療法の研究が進められています。
- 例えば、理研では、加速器を用いたAc-225製造技術の開発や、前立腺がんに対するAc-225治療法の臨床試験が進められています。
- 民間企業:
- JAEA-RI株式会社や日本アイソトープ協会などの民間企業も、Ac-225の製造技術開発や販売に参入しています。
- 例えば、JAEA-RI株式会社は、原子炉照射によるAc-225製造技術の開発を進めており、将来的には国内での安定供給を目指しています。
- 政府:
- 原子力委員会は、Ac-225の国内生産体制確立に向けた支援を行っています。
- 例えば、2023年度予算では、Ac-225製造技術開発や臨床試験への支援に約1億円が計上されています。
課題と今後の展望
- 製造コスト:
- Ac-225は、高価な原料や設備が必要となるため、製造コストが高いことが課題です。
- 製造コストの低減に向けた技術開発が必要です。
- 規制:
- Ac-225は、放射性物質であるため、厳格な規制のもとで製造・使用される必要があります。
- 規制緩和に向けた検討が必要です。
これらの課題を克服し、国内生産体制を確立することで、Ac-225は日本の医療現場で広く利用されるようになることが期待されます。
【参考資料】
- 放射性同位元素アクチニウム225の国内生産体制確立に向けた研究開発
- アクチニウム225製造実証の推進
- がん細胞を集中侵撃するアクチニウム225の量産技術を考案 商用原子炉でトリウムを熟成、半永久的な供給を可能に