年末年始は読書三昧

幼年期の終わり (光文社古典新訳文庫)20歳頃かあるいはもう少し経って24歳頃か、カントの「純粋理性批判」を読もうとしたことがある。結論からいえば、さっぱり頭に残らなかった。というよりは頭に入ってこなかったというほうが正確かもしれない。自分はこうした哲学的知性を理解できるような脳みそを持ち合わせていないのだと、その時悟ったものだ。

しかしこれはいささか早計な悟りだった。というのは、私の脳みその出来が悪いかったのではなくて、カントの訳が悪かったのかもしれないと思えるから
だ。哲学者が哲学書を翻訳すると、厳密さにこだわるあまり、難しい言い回しになるのは容易に想像できる。というのは、年末に池内紀訳の「カント・永遠平和のために」(綜合社)を読んで、その分かりやすい翻訳に引き込まれたからだ。

永遠平和のために

その翻訳を読んで、210年前の老哲学者カントの、やむにやまれずに書いた平和論が、今日の世界にも通用することに驚きを感じる。

「いかなる国も、よその国の体制や政治に、武力でもって干渉してはならない」

イラクに軍隊を派遣したブッショは、カントを読んでいないに違いない。『クリントンは下半身に問題があったが、ブッシュは上半身に問題がある』と揶揄されているブッシュのことだ、読むはずもないか?。

「戦争状態とは、武力によって正義を主張するという悲しむべき非常手段にすぎない。」

金正日もカントを読んでいないに違いない。

「行動派を自称する政治家は、過ちを犯して国民を絶望の淵に追いやっても、責任は転嫁する。」

小泉純一郎も安倍晋三もカントを読んでいないに違いない。

「戦争それ自体は、取り立てて特殊な動因を必要としない。名誉心に鼓舞されて戦争は起きる。」

『亡国のイージス』のファンであるという石破茂・現防衛大臣は、高価なおもちゃをあてがわれて「名誉心」を起こしかねない。もちろんカントなんか読んではいないだろう。用心・用心

カントの「永遠平和のために」の理念が今は「国連」となり、日本においては「憲法第9条」として結実している。クラークは人類の未来を哲学し、カントは人類の平和を哲学した。

2008年、世界が大きく変貌しようとしている。ネパールが王政を廃止して日本は世界唯一の君主制国家になった。日本の一人当たりGDPはOECD30か国中世界18位に転落した。

加藤哲郎氏がWebで紹介しているが、『アメリカの投資顧問会社ゴールドマン・サックス社の長期見通し「Dreaming with BRICs: The Path to 2050(BRICsについての大胆な予測:2050年への道程)」と題する調査レポートによれば、「ブラジル、ロシア、インド、中国、この四カ国GDPが今後40年間でG6(日米英独仏伊)のGDPを凌駕する」「2050
年のGDPは、1位中国44兆4530億ドル、2位米国35兆1650億ドル、3位インド27兆8030億ドル、大きく遅れて4位日本6兆6730億ド
ル、5位ブラジル6兆740億ドル、6位ロシア5兆8700億ドル、7位英国3兆7820億ドル、8位ドイツ3兆6030億ドルの順になる」という予測』
を紹介している。中国・インド、その他のアジア諸国・ラテンアメリカ諸国の台頭がすさまじい。いつまでもアメリカ一辺倒の思考から抜け出せない日本に未来
はないだろう。

カラマーゾフの兄弟1 (光文社古典新訳文庫)「永遠平和のために」は光文社の古典新訳文庫にも収められている。こちらは中山元の新訳である。古典を新しい訳で見直そうという試みが続いているようだ。加島祥造が「老子」をまったく新しく『自由詩』とも言えるような新訳で出したことが一番印象に残っている。そして光文社の新訳古典文庫には読んでみたい古典がたくさん並んでいる。この中から正月休みにはアーサー・C・クラークの「幼年期の終わり」と「カラマーゾフの兄弟」を読んだ。後者はまだ2巻しか手に入れていないが・・・。
レーニンの「帝国主義論」もどのような訳だろうか。

世界が大きく変貌しようとするとき、人の精神世界においては古典への回帰が起こる。

【追記】「永遠平和のために」には藤原新也・野町和嘉・江成常夫らの写真が収められている。これらの写真がまた良い。


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