やはりイレッサは「薬害」だ

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雨上がる


来週のアンサンブルホリディー2011も迫ってきたので、ブログを書く暇を惜しんで練習しています。低音部が多く太い弦を押さえるために、左手の小指にはチェロだこが育ってきています。

日本医学会や国立がん研究サンターの和解案に応じるべきではないという見解が出て、それには厚生労働省からの働きかけがあったということが明らかになり、調査委員会も発足しました。そもそも学会が係争中の裁判に対して見解を述べるなどという、これまで例のないことに踏み切った時点で「これはおかしいな」と感じたものでした。案の定という次第です。薬害エイズやB型肝炎の裁判では、関係する学会は沈黙を守ってきたではないですか。

薬害肝炎訴訟原告の坂田和江さんが、医療者側の誤解している点を指摘したものが、医療ガバナンス学会のメールマガジンにアップされています。坂田さんの指摘は、東京大学医科学研究所客員准教授 上昌広氏に対するものですが、内容は多くの医療者の誤解を指摘するものだと言えます。

Vol.46 薬害イレッサ訴訟について 薬害肝炎訴訟原告・薬害肝炎の検証及び再発防止のための薬事行政のあり方検討委員会委員 坂田和江

イレッサの大阪地裁判決が出て、医療者・患者の側からもいろいろな意見がでています。それらを見ていると、判決文を本当に読んだのだろうかと疑いたくなるようなものも見かけます。マスコミの報道だけで判断しているのではないかとの疑問も湧いてきます。

イレッサ大阪地裁の判決文は900ページもありますから、全てを読むのは困難であるにしても、判決の要旨くらいは読んでから意見を言うべきだろうというあたりまえの考えにしたがって、時間をかけて目を通してみました。

正直なところ、法律用語を理解するのは難しいです。アストラゼネカの製造物責任は認めたが、国の責任は認めなかったという判決ですが、私は製造物責任(PL法)を認めたことの意義は大きいと思います。企業の利益を優先した結果、人為的に拡大した「薬害」であると言えます。判決文要旨の

平成14年7月当時においては,医療現場の医師等は,分子標的治療薬についての理解は十分ではなく,医学雑誌等から情報を得るほかない状況にあった。そして,必ずしも肺がん化学療法についての十分な知識と経験を有するとは限らない医師等がイレッサを使用することが予想され、(中略)
このような状況において,被告会社は,その関与による情報提供(プレスリリースやホームページ)において,ZD1839(イレッサ)の副作用は軽度から中等度の皮膚反応や下痢にとどまるなど,副作用が少ないことをZD1839の特筆すべき長所として強調する一方,間質性肺炎の発症の危険性を公表していなかった

上の部分に「薬害」の核心があります。先の記事でも紹介した『ビッグ・ファーマ―製薬会社の真実』には製薬企業の医師たちへの「教育・研修」と称した宣伝活動が生々しく書かれていますが、イレッサの時も同じことがあったわけです。判決文ではアストラゼネカのこれらの活動は「広告とは言えない」としていますが、実態は広告活動そのものです。

イレッサが承認された2002年7月5日までの新聞雑誌記事データベースを調べてみました。検索キーワードは「イレッサ OR ゲフィチニブ OR ZD1839」で、結果は85件ヒットしました。記事媒体の詳細は下の図を見てください。主なものでは、NHKニュース(1)、朝日(4)・毎日(3)・読売(5)の三大紙に、共同通信(3)、地方紙では熊本日日新聞(2)が取り上げています。()内は記事の回数

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次に検索キーワードを「(イレッサ OR ゲフィチニブ OR ZD1839) AND 間質性肺炎」として検索した結果は、ゼロ、一件も有りませんでした。承認前に大規模な事前宣伝活動をしていながら、副作用として「間質性肺炎」を書いた記事は全くありません。

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これはマスコミに非があるのではなく、アストラゼネカが知らせなかったためです。例えばメディアを対象にしたアストラゼネカ主催のセミナーが、2001年10月16日(イレッサの承認申請2002/1/25 すらまだ出されていない時期)に開かれて、次のように報道されています。

徳島大学・曽根教授 分子標的治療薬が肺がんの新しい治療法に
2001.10.18 日刊薬業 7頁
徳島大学医学部の曽根三郎教授(内科学第3講座)は16日、メディアを対象にしたアストラゼネカ主催のセミナーで講演し、増殖因子や血管新生因子などがんの悪性化にかかわる分子を標的にした分子標的治療薬が、肺がん克服の新しいアプローチになると説明した。曽根教授は、従来の抗がん剤は腫瘍進展を阻止しても骨髄抑制などの副作用発現により継続投与できないのに対し、こうした分子標的治療薬のひとつであるEGFレセプター阻害剤は骨髄抑制がほとんど認められず、多くは長期にわたって継続投与が可能と指摘、がんと共存していくという新しい考え方もあるとした。そのうえで、患者の生存期間の延長やQOLの改善・保持をめざして、(1)外科手術でがんを切除後、外科手術ではとりきれない微小転移がんを抑えるため分子標的治療薬を継続投与して再発を抑制する(2)化学療法や放射線療法によりがんを縮小させた後、分子標的治療薬を継続投与する--といった新しい治療戦略を提示した。一方、曽根教授は分子標的治療薬の課題として、分子標的治療薬は動物を対象にした実験データからヒトでの効果を予測しにくいため、ヒトへの投与ではとくに副作用の面で注意する必要がある点を提示。他の抗がん剤との併用で思わぬ副作用の出る可能性も否定できないことを示した。
また、曽根教授は、分子標的治療薬のひとつとしてEGFレセプター阻害剤ZD1839(イレッサ)の臨床データも紹介。同剤の国内フェーズ1では、25例中、12%に腫瘍縮小効果(完全寛解+部分寛解)が認められ、これに腫瘍の大きさが不変(NC)だった症例も加えると36%に増加したと報告した。

このようなセミナーを元に書かれた新聞記事で、「完全寛解・部分寛解」という語句を見た患者が、”夢のような抗がん剤”だと期待するのは当然のことです。

判決の第5分冊「医療現場の医師等のイレッサに対する認識」において、「従前の小細胞肺がんの標準治療薬であるドセタキセルのセカンドラインの奏功率が約7%であったこと等からすれば、イレッサが日本人に対してセカンドラインで27.5%の奏功率を示したことは驚異的な事実であるとして、医療現場の医師等に受けとめられていた」ことと、アストラゼネカが間質性肺炎の可能性を伏せていたこともあり、多数の死者を出す事態のなったのですから、これは「薬害」といってまちがいはない。

国立がん研究センターの嘉山理事長は、和解勧告はすべきでないとした先の会見において、間質性肺炎の副作用が後の方に書いてあったということに対して、『これは4番目だから注意しなくていいよ、ということではなくて、私ども医療人としてはどんな順番で書いてあっても同じように、対等に「重大な副作用」として扱う。』と述べています。しかし、判決の要旨では「医療現場においてこれを使用することが想定される平均的な医師等が理解することができる程度に提供(指示・警告)しなければならない。」と述べています。外科医が手術の延長線上で抗がん剤治療も行なうことが多い医療の現実を見れば、全ての副作用を記憶している医師がどの程度いるのか、疑問です。

イレッサの例から私たちがん患者は学ぶべきことは、「夢の抗がん剤」だとか「画期的な分子標的薬」だとかいわれても、承認後の治療はいわば”第4相試験”と考えて慎重に判断することでしょう。患者が判断するためにも、製薬企業は都合の悪い情報も含めて、全ての情報を公表する必要があるのです。


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