造影剤を激減できる画期的な新型CT
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異なるエネルギーを含むエックス線を弁別して取りこむことで、CTが進化した。造影剤が少なくて良い。単一エネルギーでは難しかった影の薄い小さな腫瘍も検出できるようになった。フィリップス社のIQonスペクトラルCTである。
IQonスペクトラルCTとは
医療用CTに使われるエックス線のエネルギーは120keV(キロ電子ボルト)である。これは実効エネルギーであり、エックス線にはさまざまなエネルギーの波が含まれているが、その平均値に近い値である。(実効エネルギーは、物質の半価層を等しくする連続エックス線に等しい単色エックス線のエネルギーとして定められている)
エックス線は下図のように、さまざまなエネルギーの光子を含んでいる。
レントゲン撮影もCTも、強度情報だけを使って、人体を透過してきたエックス線の量を濃淡画像に変換している。物質の密度が異なっていても、低いエネルギーの透過量と高いエネルギーからの透過量が等しければ、全体としては同じ濃度になり、見分けが付かないことになる。
造影剤として使われるヨードは、高いエネルギーでの透過量は水とほぼ等しいが、低いエネルギーでの透過量は大きく違っている。この二つの差を検出すれば、少ない造影剤でも鮮明な画像を得ることが可能になる。
この原理を応用したのが、スペクトラルCTである。
スペクトラルCT(Dual Energy Imaging)の原理
従来からも骨密度計などではデュアルエナジー法として利用されているが、これには二つのエネルギーの異なるエックス線源が必要であった。
上層に低エネルギーのX線を検出するイットリウム系、下層に高エネルギーのX線を検出するガドリニウム系の検出器を組み合わせることで、エネルギー弁別機能を持たせ、高・低エネルギーのX線を分離して電気信号に変換し、2つの信号により任意の単一エネルギーの画像を数学的に合成する2層検出器を開発した。
これにより、通常のCT画像に加えて、40keV~200keVでの画像(161種類)に加え、造影剤であるヨードの集積をみるヨード密度強調画像や、原子番号で色分けする実効原子番号画像、造影剤の影響を除去できる仮想単純画像など、追加169種類のスペクトラル画像を提供できるようになった。
2017年11月現在、世界で40台、日本では熊本中央病院などで8台が稼働している。
診断例(日経メディカルの画像にリンク)
90代女性、エコー検査で膵腫瘍疑いによりIQonスペクトラルCTを使った造影CT撮影を行った。ただし、患者のeGFRが35.2mL/min/1.73m2と腎機能が低下していたため、通常量の4分の1となる25mLの造影剤で撮影を行った。左側は一般的な撮影条件(120kVp)で表示した画像。右側はそれを40keVでの仮想単色画像に変換したもの。左側では不明瞭な膵頭部癌が、右側の動脈相画像では明瞭に抽出されている。(日経メディカルより)
DWIBS法の開発者である東海大学医療生体工学科の高原太郎氏も、「今、また画像診断が大きく進化している。新しい発見がたくさん出てくるだろう」と期待を語っている。
スペクトラルCT(Dual Energy Imaging)の利点
- 患者の被ばく線量を少なくできる
- 少ない造影剤で良いので副作用が抑えられる
- 1回の撮影により、さまざまな情報が得られる
- 撮影後に数値演算によって画像の差分やさまざまな加工ができる。検出困難な小さな腫瘍も検出可能となる
- 低エネルギーの雑音成分を除去することによって鮮明な画像を得られる
- 擬似カラー化されたCT 画像が得られるので、区別が付きやすい
- 頭部CTでは、従来CTの骨に囲まれた部分のビームハードニングアーチファクト(擬似模様)がかなり軽減する
- 物質の質量を弁別することができるので、腫瘍の良性・悪性の区別が付けられる可能性がある
- 小さな腫瘍が検出できるので、がんの早期発見につながる
フィリップスでは、同じ原理ながら光子を一つ一つ数えるフォトン・カウンティング方式の新しいPET-CT装置も開発している。
デジタルフォトンカウンティング技術を搭載した新型PET/CT装置