ビタミンDは長寿ホルモン
ビタミンDとがんの発症率
最近ビタミンDに関する科学的、臨床的知識が豊富になり、知られざる効用が次々に明らかになってきました。
マサチューセッツ総合病院のワング博士らが2008年に発表した研究では、血中ビタミンD濃度が15ng/ml未満の人は、15ng/ml以上の人に比べて、心血管病の発症率が約1.6倍、しかも、高血圧を発症している人では約2.1倍にもなるという結果です。
がんに対するビタミンDの働きに関しては1000を越える研究があり、特に大腸がん、乳がん、前立腺がんなどいくつかのがんについては、ビタミンDの有効性がはっきりと示されています。血中ビタミンD濃度が25mmol/L増加すると、全がん発症率は17%低下し、全がん死亡率は29%低下したという報告もあります。
特に消化器系のがんではその効果が大きく、大腸がんは37%低下、胃がんは42%低下、食道がんでは63%低下、膵がんは51%低下となっています。
- 腫瘍の血管新生を抑制し、がん細胞に栄養がいくのを防ぎます。
- 増殖シグナルを抑制して、腫瘍細胞増殖を抑えます。腫瘍細胞にあるビタミンD受容体と結合して、がん抑制遺伝子に働きかけます。
- がん細胞のアポトーシスを誘導します。
ただし、膵がんに関しては血中ビタミンD濃度が高すぎても返って膵がんのリスクが増加するという研究もあり、評価が定まっていない。最適な血中濃度範囲があるようです。
すい臓でインスリンを分泌しているβ細胞には、ビタミンD受容体があり、インスリンの産生と分泌を助ける働きをしています。腎不全症で人工透析をしている人では、ビタミンDの血中濃度の違いで、死亡率に2倍以上の差があることが報告されているのです。
その他、メタボリック症候群、肥満、慢性腎臓病、自己免疫疾患、関節リウマチなど多くの病気と関連していることが研究されています。
日光浴でビタミンDを
太陽光(紫外線)を浴びれば、必要なビタミンDの必要量は体内でつくることができます。
国立環境研究所の研究によれば、厚生労働省の基準で成人に最低限必要な1日5.5μgを日光浴で作るためには、12月の晴れた日の正午に顔と両手を露出した状態で、那覇7.5分▽つくば22.4分▽札幌76.4分と、札幌ではつくばの3倍以上の時間がかかることが明らかになった、とのことです。
国立環境研究所の記者発表資料はこちらにあります。要点は、
- ビタミンDについて、現代の日本人の多くは慢性的に不足している
- 厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2010年版)」では、成人について1日のビタミンDの摂取目安量として、最低5.5μg、上限50μgを推奨している
- 諸外国では、もっと多くのビタミンD摂取を推奨する研究者もいる
- ビタミンD欠乏は世界的に問題となっており、高緯度に位置する北欧諸国などでは、日光浴不足によるビタミンDの欠乏を補うためにサプリメントの摂取が積極的に行われている
- 紫外線は有害であるとの考え方が浸透し、太陽光をなるべく浴びないようにするという風潮が広まってきたことも、近年のビタミンD不足の一因
- ビタミンDには、骨の生育に必須な血中のカルシウム濃度を高める作用のほかに、免疫作用を高めたり、さまざまな病気の予防効果があることが判ってきている
- ビタミンDが不足すると、骨へのカルシウム沈着障害が発生し、頭蓋ろう、くる病、骨軟化症、骨粗しょう症などの病気が引き起こされるほか、高血圧、結核、癌、歯周病、多発性硬化症、冬季うつ病、抹消動脈疾患、自己免疫疾患などの疾病への罹患率が上昇する可能性が指摘されている
- ビタミンDは魚やキノコなどの食物や、場合によってはサプリメントによっても体内に補給することが可能です。また、1日に消費される以上に得られたビタミンDは体内で蓄積され、ある程度はその効果が持続することが判っています。
関東(つくば)では7月なら5~10分で最低必要量を確保できるのですが、12月の15時なら270時間も必要です。日光浴だけでは全体的に不足しがちだと言えます。カナダ癌学会では成人の必要推奨量を1000IUとしています。日本の厚生労働省の基準は低すぎるかもしれません。
ビタミンD血中濃度が最低(54pg/mL未満)だったグループは最高だったグループ(78.2pg/mL以上)に比べて総死亡リスクが54%高い。 血中濃度が高い人(約125nmol/ml超)に比べて早死にするリスクが90%高い。 国立環境研究所(茨城県つくば市)の研究によると、冬の札幌でも76分間の日光浴で成人が1日に必要とする量のビタミンDを作れます。 スペインのバレンシアで行われた研究では、真冬の1月に 1,000IUのビタミンDを得るには130分間の日光浴が必要だという結果になっています。 十分なビタミンDを得るのに必要となる日光浴の時間は、服装(長袖か半袖かなど)や姿勢の影響を受けるので、日光にさらされる皮膚の範囲が狭ければ必要となる日光浴の時間が長くなります。 一般的には、日光に当たりすぎてもビタミンDが過剰に作られる心配はありません。