がんを公表した34歳のカメラマン
34歳で余命3ヵ月から半年と告げられた写真家の幡野広志さん。ブログでがんを公表し、Twitterでも発信を続けています。
そんな幡野さんのインタビュー記事があります。言いにくいことをずばずばと言うのが小気味よいですね。
患者は病気だけでなく、周りの言動にも苦しめられる
がんを公表すると、入院中の彼の携帯電話にたくさんの電話がかかってくる。病室では電話に出られないから、通話が可能なスペースに移動して折り返して電話をするので、通話料が2万円にもなってしまったと怒っている。
「そして電話の内容のほとんどが、『奇跡は起きるよ』『頑張って』などの無責任な言葉です。今うつ病患者に『頑張って』というのはNGだとみんな知っている。がん患者にもNGワードはたくさんあるのに、みんながんのことをよく知らないからそんな言葉をかけてしまう。時間を取られて、金を払って、ストレスを買うなんてたまらない。お見舞いに来たいという人も山ほどいましたが、ただただ迷惑でした」
不快な言葉の筆頭は、やはり「頑張れ」や「奇跡は起きるよ」だ。
善意なんだろうが、代替療法を勧めてくる人も多い。これらも迷惑だ。
「これ以上頑張れないし、奇跡は起きない。奇跡を信じて治療するのはいいですが、最後に待っているのは絶望です。『必ず治るよ』もよく言われますが、大学病院の教授が治りませんよと言っているものを、がんのことを何も知らない人が治ると言うのは一体どういうつもりなのでしょう。でも本人は良かれと思って言っているんです」
「そういうのを勧める人は患者が亡くなった後に『私が勧めた治療を拒否したからよ』と家族を責めて、苦しめることさえある。ひどかったのは、『ブログやSNSでうちの商品のことを書いてくれたら8万円支払います』と言ってきた業者です。」
いるんだよね、こういう人。「あいつ、がんだって。余命数ヶ月。そういえばこの前本屋で、奇跡的に治ったって本があったなぁ。あいつに教えてやろう」てな乗りで、勧めてくるんですよ。
こっちは命がかかっているから、科学的な根拠を調べているのに、ネットでちょこっと調べた情報を、押しつけがましく勧めてくる。
なかには金ぴかのパッケージに入った、馬鹿高いキノコのなんとかを宅配便で届けてくれる猛者もいる。
おいおい、これを飲んで生存期間中央値以上に生きたら(半数はそれ以上生きるんだよ)、止められなくなるけど、治療費もかかるし、仕事も休んで収入が減った患者に高い商品を買い続けろというのかね。
治るという自信があって勧めるのなら、俺が死ぬまで(治るまで)買って届けろよ、と言いたくなるね。一度だけ送り届けて、善意を施した気になっているから、いい気なもんだ。
奇跡は起きるよ。だが、どうすれば起きるのかが分からないから「奇跡」なんで、それを信じても起きなければ絶望があるだけ。
『がんは複雑系だから奇跡は起きる』と記事には書いているが、奇跡を待ち望んでいる人には奇跡は起きないよ。奇跡は、奇跡を期待していない人だけに起きるのです。
多田富雄さんは、こうした行為を『善意の謀略』と言ったが、まさにそのとおり。
患者にも困った方がいる。
私は治療の相談を受けたらまず、「膵臓がんなんだから、最初に考えるべきは、どういう死に方をするのかを考えなさい。それが治療の出発点です」と言うのだが、これがなかなか理解されない。
どこで治療を止めるのか、抗がん剤をどこまでやるのか。完治を目指すのか延命か。統計的にはほとんどの患者が亡くなるのだから、自分はどういう死に方をするのかを予定しておく。死に方を考えることは、生き方を考えることです。
臨終のベッドでも抗がん剤の点滴がポタポタと落ちている、そんな死に方は誰も望まないでしょう。しかし、それに近い状態まで抗がん剤を続ける患者はいかに多いことか。
日本人は運命を受け入れることが下手になってしまった。