患者会の役割ってなんだろう?
患者会はどういう役にたつのか
「患者会って何をするところだろう?」とか、「患者会に入って何かいいことがあるの?」とか、「患者会に参加しても、魔法の治療法が見つかるわけないし」という声がよく聞かれます。
がんの患者会の役割って何でしょうか?
大きく次の三つが患者会の役割として考えられるのではないでしょうか。
- がんという病気を正しく、科学的にとらえること
- がんと闘う気概を持つこと
- がんを克服する条件をつくりだすこと
膵臓がんを告知されたばかりの患者さんでは、初めて膵臓の位置を知った方も多いのです。膵臓とは何をする臓器なのか、まだ少しだけ分かり始めた段階でしょう。自分のがんの病期(ステージ)を知らない方も多くいます。
まず、自分のがんの特徴やどのような治療ができるのかを知ることが最初にやることです。使える抗がん剤の種類や副作用についても知識を蓄えることが大切です。そして、なによりも自分の体の状態をよく知ることです。
とくに膵臓がんは予後の厳しいがんですから、「どうせ治らないから」と落ち込んでしまいがちです。副作用で好きなこともできないし、仕事も休まなければなりません。経済的にもたいへんな状況になります。
しかし、がんになっても、心まで病気になる必要はありません。
「自分もあの人のように良くなることができる」、「自分も少しでも頑張ろう」と言う気持ちになることが大切です。膵臓がんの集いに初めて参加された方は「みんな明るくてびっくりする」「どこが病気なの」という感想をよく話されます。
おなじ病気の仲間から、がんと闘う勇気と希望、気概を受け取ることができるのです。自分のがんをよく知り、治療の方向を確かめて、そして医師の協力を得て病気を治していくという考え方が必要です。
がん患者は自分の経験から、医療費のことや、仕事のこと、通院の大変さや使える抗がん剤がないこと、障害年金や身障手帳をもらえないことも、生活保護の抱える矛盾も実感しています。こうした矛盾を抱えた医療政策や厚生施策を変えていくことで、将来の患者が良い医療を受けられるようになります。こうした取り組みは、パンキャンなどが担っています。
科学的とは
一つ目の「がんという病気を正しく、科学的にとらえること」を考えてみます。
病気を正しく、科学的に知ることは、言うは易し行うは難しです。
科学的とはどういうことでしょうか。標準治療は全て科学的なのでしょうか。標準治療以外は全て非科学的なのでしょうか。そのように白か黒かはっきりと分けられはずはありません。
例えば、ある薬が試験管の中のがん細胞に対しては効果があったとします。100回の実験をやって、100回とも効果がありました。しかしそれを人間の体に投与すると同じような効果はありません。これが普通です。
なぜなら、例えばその薬ががん細胞にまで届かなかったり、さまざまな酵素や体内の成分によって分解されたりします。試験管の中のような効果は出ません。
試験管の実験では、多くの複雑な条件を排除して行います。しかし人間の体に入ると複雑な影響を受けることになります。試験管の実験段階で、人体と同じような複雑な条件を試してみることは不可能なのです。
仮に、その薬に影響を与える因子が10あったとして、2つ以上の条件の組み合わせはいくらになるでしょうか? 10のうち2つで45通り、10のうち3つで120通り・・・・・。
これらを足すと、実に、1013通りの組み合わせがあるのです。
全て組み合わせて確認することなどできやしません。結局、科学的ということは効くか効かないか、白か黒ではなく、広いグレーゾーンが存在するのです。効くこともあれば効かないこともある。そして、人によって違う効果をどのように表現するかと言うと、統計的に表現するしかないのです。
標準治療以外の治療法において、がんが消えたとかの症例を紹介される場合がありますが、言ってみれば試験管の実験で、限られた条件、1013通りのうちの一つにすぎないのです。
たまたま、ある条件の患者さんなのかもしれませんし、実際はでっち上げなのかもしれません。こういうメカニズムだから効くはずだ、治った患者がいる、これは一見科学的に見えますが、それは実験室レベルの科学的となんら違いはないのです。
本当に科学的な正直な科学者であれば、「この薬は効きますか」と尋ねられた時に、「効くこともあれば効かないこともあるね」というのが本来科学的な答えのはずです。そしてそれを数量的に表そうとすれば統計的な表現にならざるを得ないのです。
患者会の役割として、がんを科学的に捉えるということは、確率的・統計的に考えるスタンスを身につけるということでもあります。
それじゃあ、標準治療以外は科学的ではないのかと言うと、これもまた一概には言えません。そこにもグレーゾーンがあります。ほぼ標準治療に近いほどの効果があるにも関わらず、臨床試験のやり方の不手際から統計的有意差にならなかった、そんなものもあります。また臨床試験を行うときに登録する患者数を増やすほど統計的有意差は出やすいと言う統計のマジックもあります。ですから標準治療以外は全て非科学的とも言えません。
一方で箸にも棒にもかからないようなエセがん治療と言ってもよいようなものも存在します。代替療法が全て非科学的ということでもありません。代替療法から標準治療に格上げされた薬も存在するのです。
患者会では、こうした科学的な考え方を学ぶ場でもあるのです。