術前化学療法で生存率が改善&膵癌診療ガイドライン2019版

ヨミドクターに「膵臓がん治療に新手法…手術前の抗がん剤に効果」という記事が載っています。

試験には全国57医療機関の患者364人が参加。手術後にS―1を投与する標準治療のグループと、千葉さんのように術前化学療法を加えたグループに分け、治療成績を比べた。

その結果、患者の生存期間(中央値)は、術前化学療法グループの36・72か月に対し、標準治療グループは26・65か月。2年生存率も前者が63・7%、後者は52・5%と差がついた。

結果をとりまとめた東北大病院総合外科長の 海野倫明(うんのみちあき) さんによると、手術前は後に比べ、患者の体力があるため、十分な量の抗がん剤を投与できる。周囲のリンパ節への転移や肝臓への再発が減るほか、がんが小さくなって手術がしやすくなる効果もあるという。

一方、すぐに手術しないことでがんが進行し、切除できなくなるとの懸念もあったが、今回の試験では、標準治療のグループとの違いはなかった。関連学会でも標準治療に位置付けるための議論が始まっている。

これほどの差がついたのなら、すぐにでも標準治療になりそうなものですが、そうもいかない事情があるようです。

術前補助化学療法は推奨されるか

現在『膵癌診療ガイドライン2019版(第5版)』を発刊すべく、急ピッチで作業が進んでいるようです。パブコメの募集も終わり、意見への対応表も発表されています。

膵癌診療ガイドライン2019版(案)への関連リンク

しかし、術前補助化学療法については(案)では次のように書かれています。

RA1 切除可能膵癌に対して術前補助療法は推奨されるか?
ステートメント
長期予後への効果や周術期への影響が明確に証明されていないため、切除可能膵癌に
対する術前補助療法は行わないことを提案する
[推奨の強さ:弱い、エビデンスの確実性(強さ): C(弱) ]

切除可能膵癌に対する術前補助療法は、一般的に数週間以上の期間を要することから、もしその治療効果が乏しい場合には治療期間中に膵癌が進行するのではないかという患者の不安がつきまとうことは紛れもない事実である。

術前補助療法の治療効果を前もって予測するための実践的な方法がない現状では、治療効果が乏しければ治療中に病勢が進行して切除のチャンスを逃す危険性があることを否定し得ず、このことは術前補助療法の短所と言わざるを得ない。

ただし、術前治療期間中に本当に長期予後に影響するほど進行するかどうかを証明することは困難であり、またそのような急速進行をきたす症例では切除術がかえって患者に不利益をもたらすという考え方も存在し、むしろ術前補助療法が手術適格性の判断材料になるとの意見もある。

しかし、上述の短所に加えて術前補助療法そのものの有害事象やコストも考慮すれば、切除可能膵癌に対する術前補助療法は行わないことを提案する(弱く推奨する)のが現時点では妥当であろう。

歯切れが悪いですが、現状では推奨できないという結論です。ただし、「明日への提言」には、上記のヨミドクターの記事にある臨床試験に言及して、

切除可能膵癌に対するゲムシタビン塩酸塩と S-1 を併用した術前補助療法のランダム化第 III 相試験が本邦で行われ、既に症例集積が終了している。このような質の高い臨床試験の結果が待たれるところで
あり、その結果によっては将来的に本 CQ に対するステートメントが改訂される可能性もある。

とされています。今回の2019年版ガイドラインでは推奨されなくても、実行する施設は増えるのではないでしょうか。

ガイドラインは法律ではないのですから、あくまでも指針です。

以下、新ガイドラインで興味深い内容を紹介してみます。

EUS-FNA(超音波内視鏡下穿刺吸引法)のデメリット

パブコメで出された意見を採用し、EUS-FNAの危険性を付け加えています。

病理診断法の第一選択としては、その診断能の高さから現状ではEUS-FNAが推奨されるが、穿刺経路への播種のリスクを伴う手技であることにも十分留意する必要がある。特に切除予定の症例に対しては、穿刺経路への播種の可能性を考慮したうえで得られるメリット、デメリットを吟味し、EUS-FNAを行うかどうかについて判断する必要がある。

EUS-FNAを行った結果、胃壁に転移したという例を、私も2人ほどから伺っています。胃壁を通して細胞を取り、返ってくる際にがん細胞をまき散らすのですね。ただ、その発生頻度も充分には調査し切れていないようです。

だったら確定診断はしないという選択肢もあります。私が手術をしたがん研有明では、十数年前から細胞を取っての膵癌の確定診断はしませんでした。播種の可能性と手術が遅れて、その間に手術不可となることを考慮した結果です。「良性だったら、ごめんなさい」ということです。

そうした考え方があることを知っておくことも参考になるでしょう。

粒子線治療

以下のように、コラム欄で紹介されている。

粒子線治療は、放射線の一つである陽子線や炭素線といった粒子線を用いた治療法であり、一定の深さにおいて急激に高いエネルギーをその部位に与える性質を持つ。このため腫瘍へ高い線量を集中させ、周囲の正常臓器への線量を抑えることが可能となる。
更に炭素線(=重粒子線)は生物学的な効果も高く、 X 線に抵抗性の骨肉腫や悪性黒色腫などに対して高い効果が示されている。膵癌も代表的な X 線抵抗性癌と考えられており、重粒子線治療による治療成績の向上が期待されている。

本邦においては切除不能局所進行膵癌を対象に、 2003 年から炭素線治療による第Ⅰ/Ⅱ 相臨床試験が開始された。現在は炭素線 55.2 Gy(RBE)/12 回を用いた治療が先進医療として行われ、生存期間中央値 25.1 ヶ月、 2 年生存率 53%と良好な成績が報告されている。

重粒子線の治療成績が出そろってきたようですね。

ハイパーサーミア

ハイパーサーミアの治療効果

普及当初より 42℃以上の良好な温度上昇の得やすい乳癌、頭頸部癌、皮膚悪性黒色腫などの表在性腫瘍では、高いエビデンスが得られている。放射線療法にハイパーサーミアを追加することで、腫瘍完全消失率や局所制御率の有意な改善が複数のランダム化比較試験やそのメタアナリシスで示されている。その後、加温装置の改良がなされ、深在性腫瘍においても 40~41℃程度の加温が可能となり、子宮頸癌や直腸癌ではランダム化比較試験で有効性が示されている。化学療法との併用に関しては、軟部肉腫においてランダム化比較試験が施行され有効性が確認されている。副作用は、低温熱傷による皮下脂肪の硬結・疼痛を生じうるが、多くは一過性である。放射線療法や化学療法の副作用の増加は、いずれのランダム化比較試験においても認めていない。

膵癌に関する臨床試験

膵癌に対するハイパーサーミアは、放射線療法や化学療法との併用に関する第2相試験までの報告にとどまり、 ランダム化比較試験の結果は報告されていない。現在、局所進行膵癌に対して、導入化学療法を施行した後に行われる化学放射線療法にハイパーサーミアを加えるか否かのランダム化比較試験(HEATPAC study,ClinicalTrials.gov (NCT02439593))が施行されおり、その結果が注目されている。

改良型の深部まで届くハイパーサーミアなら、もしかすると膵癌にも効果があるかもしれませんね。臨床試験の結果が期待されます。

しかし、それまで待てないですよね。だったら、私だったら挑戦してみますけどね。

膵癌における免疫チェックポイント阻害薬

膵癌は PD-L1 の発現が低く、かつリンパ球が少な い腫瘍で、腫瘍特異的変異抗原(neoantigen)の発現も多くなく、 免疫チェックポイント阻害薬が効きにくいがん種とされる 。一方、免疫チェックポイント阻害薬の効果とマイクロサテライト不安定性(MSI)や DNA ミスマッチ修復の欠損(d MMR)との関連が報告され、がん種に関係なく抗 PD-1/PD-L1 抗体薬の効果が期待できると報告された。膵癌も MSI-high、d MMR の頻度はそ れ程多くないものの良好な効果が得られている。

現在、免疫チェックポイント阻害薬はがん薬物療法の大きな柱になっている。さらに免疫チェックポイント阻害薬単独から、分子標的薬、化学療法、放射線療法などとの併用による複合的免疫治療の開発が進められている。膵癌でも有効な免疫療法の確立が期待される。

MSI-high、d MMRの患者には期待できますが、まだまだ有効な治療法が確立されているとは言えないです。

膵臓がんと言われたら、歯周病の治療を

ガイドラインでは、これもパブコメの意見を入れて、歯周病についても書かれています。

何度がこのブログで書いていますが、歯周病菌と膵癌の関係が明らかになりつつあり、歯周病に罹患していると、膵癌の発症リスクが1.7倍前後増加すると報告されています。膵臓がんと診断されてからの予後との関係は明らかではありませんが、念のためにも膵臓がんと告知されたら、歯科医に行って歯周病の治療も並行して行った方がよろしいでしょう。


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