運動で、がん細胞が消える

DP1M-100-1036本日7日付の日経新聞「今どき健康学」に、運動がASC遺伝子のメチル化と関係していて、運動すればメチル化率が高くなり、若返り効果があると紹介されている。

またASC遺伝子は細胞のアポトーシス(自殺)に関係している遺伝子で、がん化とも関係している。日経の記事は有料なので見ることができないが、このコラムの元となったと思われる記事が、1月3日の信濃毎日新聞に「運動で遺伝子の働き変化 信大教授ら解明」と題して掲載されている。

適度な運動による健康維持効果には遺伝子の働きの変化が関わっていることが、信大大学院医学系研究科(松本市)の谷口俊一郎教授(61)と橋本繁成助教(42)らの研究で明らかになった。糖尿病やがんなどの原因にもなる臓器の炎症を促進する遺伝子の働きが運動後に抑制されることを確認。生命活動を担う情報が記録されている遺伝子の働きは人の意思で変えられることを実証した形で、「遺伝子イコール運命」といった固定観念をあらためて突き崩す成果と言えそうだ。

谷口教授らは、遺伝子の働きを決める仕組みの一つで、メチル基という物質が遺伝子に付着する「メチル化」と呼ばれる現象に着目。臓器の炎症は体が有害なストレスや刺激を受けた時に生じるが、この時、炎症を抑える働きをする遺伝子は多くのメチル基が付いて働きが抑えられ、炎症を促進する遺伝子はメチル基が剥がれて働きが活発化していると考えられている。

信大では、能勢博・同研究科教授が開発したゆっくり歩きと早歩きを交互に繰り返す運動法「インターバル速歩」の効果と遺伝子の関係を調べる「遺伝子解析コンソーシアム」に取り組んでいる。谷口教授らは「適度な運動をすると遺伝子の働きも若返るのではないか」との仮説を立て、コンソーシアムを通じて、インターバル速歩を半年間行った中高年グループの血液を採取して遺伝子の変化を見た。

働きが強くなり過ぎると炎症を起こす原因になるタンパク質「ASC」の遺伝子を調べたところ、インターバル速歩を始める前はメチル化の割合が加齢とともに減り、働きが強まって炎症を起こしやすい状態だった。だが、速歩を始めて半年後にはメチル化の割合が高くなり、健康な若者のレベルに近づいた。橋本助教は「年齢に換算すると25~30年の若返り効果があった」と説明する。

炎症を促進する働きがある別の遺伝子でも同様の変化が確認でき、運動による効果が多面的に現れることも判明。半年後にメチル化の割合に変化が見られた遺伝子は約30個に上る。肥満やがん、うつに関係する遺伝子も含まれていることから、谷口教授らは今後、個々の遺伝子を一つ一つ調査し、遺伝子の働きの変化がどんな効果をもたらしているのかなどを解き明かしていく考えだ。

遺伝情報を伝えるDNA(デオキシリボ核酸)の一部である遺伝子の構造は基本的に変わらないが、どの遺伝子がどの程度働くかは環境などの影響で変化することはこれまでの研究でも分かっている。谷口教授は「遺伝子の構造は先天的に決まっていても、その働きは努力で変えることができる。DNAは運命ではない」と話している。

遺伝子は生命の設計図ではあっても、どの遺伝子がいつ、どの程度発現(働く)するかは環境の影響を強く受けて決定される、というのが、最近注目され研究が進んでいるエピジェネティクスの考え方です。

がんと炎症との関係は、シュレベールの『がんに効く生活』でも詳しく書かれている通りです。がん細胞は炎症反応を利用して自らの増殖を図るのです。「立花隆の『思索ドキュメント がん 生と死の謎に挑む』」

運動によって遺伝子の発現をコントロールし、がん細胞が炎症を利用するのを妨げたり、がん細胞のアポトーシスを誘導することも可能になるのです。

同様の研究は、エピジェネティクスの研究で有名なスウェーデンのカロリンスカ研究所が、昨年3月に発表しています。

 運動はなぜ健康に良いのか。それは,運動することによってミトコンドリアのエネルギー産生や代謝関連の遺伝子が活性化され,糖尿病にかかりにくい体質になるためだということが知られている。しかし,それらの遺伝子がどのように活性化されるのか,これまでよく分かっていなかった。スウェーデン・カロリンスカ大学のRomain Barres氏らは,運動後数時間以内に遺伝子のプロモーター領域(転写因子が結合する遺伝子の上流領域)のDNAメチル化が低下し,遺伝子が活性化される可能性を明らかにし,Cell Metab2012; 15: 405-411)に発表した。分化した細胞では安定していると思われていたゲノムのメチル化が,運動によって意外にもダイナミックな制御を受けることが明らかとなった。

運動で特定遺伝子の脱メチル化・発現が一過性に上昇

Barres氏らは、定期的な運動をしていない健康な20歳代半ばの男女から、運動強度を変えた運動の前後で大腿筋を採取し、ゲノムのメチル化度を調べたところ、エネルギー代謝に関連するいくつかの遺伝子(PGC-1α、PDK4、PPAR-δ)のプロモーター領域が、運動後その運動量に依存して脱メチル化されていることを見いだした。

一方で、エネルギー代謝とは直接関係のない、筋肉特異的な転写調節因子遺伝子(MYOD1)やハウスキーピング遺伝子(GAPDH)などでは、そのメチル化度に変化はなかった。

通常、プロモーター領域のDNA脱メチル化は遺伝子の活性化を導くことから、それら遺伝子の発現量を調べたところ、確かに脱メチル化と同時、もしくはその数時間後には上昇していることが分かった。また、この脱メチル化は一過性のものであり、運動直後に脱メチル化された場合、その3時間後には元のレベルに戻る遺伝子が多かった。

現状では、運動がどのようなメカニズムで特定の遺伝子の脱メチル化を引き起こすのかは明らかになっていないが、少なくとも運動に伴って分泌されるホルモンや神経伝達物質などの外来のシグナルによって引き起こされるのではないことは示された。

すなわち、電気刺激により体外で物理的な伸縮を行わせたマウス培養筋肉細胞でも、45分後には、上記と同様のエネルギー代謝関連遺伝子に関して、そのプロモータ領域のDNA脱メチル化が誘導され、3時間後にはそれら遺伝子の発現量も上昇したのだ。

単純にはいかなかったメカニズムの解明

面白いことに、培養筋肉細胞における同様の効果は、物理的伸縮がなくても、カフェインの添加によって得られた。そのため、両者に共通して起こる筋小胞体におけるカルシウムの放出が、脱メチル化の引き金となる可能性が予想された。

しかし、メカニズムの解明はそれほど単純ではなかった。というのも、カルシウムの放出を抑制する薬剤(ダントロレン)をカフェインと同時に添加すると、カフェインの効果は消失したものの、カフェインとは別のカルシウムの放出を刺激する薬剤(ionomycin)を添加しても、脱メチル化は誘導されなかったからだ。これは、カルシウムの放出が脱メチル化の必要条件にはなっても、十分条件にはなりえないことを示唆している。

さらに、DNAの脱メチル化と遺伝子活性化の相関に、直接的な因果関係がない可能性も示唆された。すなわち、上記のionomycinの添加によって、脱メチル化が誘導されなかったにもかかわらず、いくつかのエネルギー代謝関連遺伝子の発現が上昇してしまったのだ。これは、代謝関連遺伝子の活性化に脱メチル化は必ずしも必要ではない可能性を示唆している。ただし、活性化されるべき遺伝子を代謝関連遺伝子に限定する選択性に、脱メチル化が関与している可能性は否定できないとBarres氏らは述べている。

まだまだメカニズム的には未解明な点も多いが、少なくとも運動という環境刺激によってエネルギー代謝関連遺伝子の特異的脱メチル化というエピジェネティックな変化が直接的に誘導され、それが当該遺伝子の活性化と相関し、健康的な体質維持につながるという図式は確かのようだ。

運動が遺伝子によってはメチル化したり、あるいは脱メチル化するという違いはありますが、いずれにしろ注目すべき論文です。

世界がん研究基金(WCRF)と米国がん研究協会(AICR)によるがん予防の勧告(14か条の勧告)には、

第3条 運動は1日1時間の早歩きと、1週間に合計1時間の強度の運動を行ない、体を動かす習慣を維持する。

とあるように、継続的な運動にはがん予防効果があると推奨されている。また、多くのがんの奇跡的治癒例のなかには、歩行も困難な状態で、雪の降る庭を長時間歩くことを続け、腫瘍が消えたという例もあります。「膵臓がんが完治した私のがん攻略法」でも第一番に「ともかく、歩け、歩け」と書いている通りです。

高価なサプリメントを何種類も買い込んで、効くだろうか、治るだろうかと悩むより、無理のない範囲でまず歩くことを続ける。目的地の一駅手前で降りて歩く。4階までならエレベータ、エスカレータは使わない。金もかからず副作用もないのだから、がんにも効果があるはずだと、エピジェネティクスによる研究が示しているようです。


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