なかにし礼『生きる力』

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鷲神社の、なでおかめをSPPのモノクロモードで


生きる力 心でがんに克つ
ステージ2Bの食道がんを、陽子線治療でCR(完全奏功)を勝ち取ったなかにし礼氏の『生きる力 心でがんに克つ』を一気に読んだ。

若いころの医療ミス(?)により心筋梗塞の持病のあるなかにし礼に、どこの病院も、ゴッドハンドと呼ばれている内視鏡手術の名人でさえも通常の手術を勧めるが、なかにし礼は「私の体では手術に絶えられないだろう」と躊躇する。抗がん剤で叩いて、放射線で縮小を狙い、そして手術という、マニュアル通りの医者の強引な提案に、「悪意はないけれど『ロボット』だ」と抵抗を感じる。

突然がんを告げられたことを、カフカの『変身』になぞらえる。ある日突然、油虫になった青年とその家族の不条理小説だ。そして切ることしか考えない医者たちとの堂堂巡りのやりとりを、やはりカフカの『審判』になぞらえて考える。罪状も告げられずに法廷引っ張り出されたヨーゼフが追い詰められていく様子を、オーソン・ウェルズが映画化して高い評価を得た小説だ。患者の既往歴や考えを聞こうともせず、ただ切りたがる医者との茶番のような会話に「いったい患者は誰なのです」と心の中でつぶやく。

私も心室性期外収縮で不整脈が頻発する持病があったが、しかしがん研では、手術前にしつこいくらい心臓内科の検査を受けさせられた。手術に絶えられない、手術不可の判定が出やしないか、やきもきした覚えがある。手術後に医者から「あなたの不整脈は、お腹にメスを当てるとぴたっと止まったよ」と笑われた。麻酔が効いていてもお腹に当てられたメスの冷たさを感知できるのだろうか。今でも不思議だ。

だから、全ての病院が「何が何でも切りたがる」のではないと思うが、マニュアル一辺倒の医者が多いのも事実だ。

形而上学的な思考の対象だった「死」が現実問題として突然日常生活に落ちてきた。
死という”友”が平凡な衣装を着て無精髭を生やしてやってきた。

切らずに治したい、との希望が叶えられない画一化した医療の現状を、幾重にも門を閉ざして「よそ者」を入れようとしないカフカの『城』に例える。そしてインターネットの世界から陽子線治療の情報を得た彼は、やっと新しい希望の”城”にたどり着く。

カフカ以外にも、カミュやトーマス・マン、トルストイなどの作品を挙げて、これらの作家から、がんと戦うための多くの「英知」を得たとふりかえっている。

がんという病気になって前へ進もうとしたときに、私の前に立ちはだかったのが、一般的な医療によって永年培われた常識であったし、その奥は霧に包まれて見えない。その霧を取り払って、自分の行くべき道に導いてくれたのは、運などではなく、過去の時の試練を超えた文学作品で蟻、思想書であり、哲学書で、それらの英知に触れたことが私の”生きる力”となってくれたのだ。

食道がんから生還した彼が今「命」に輝いているさまを、「はじめに」の一部を抜粋して紹介する。

暁の音楽を聞きながら、今、目覚めたこの生きものたちと私は、曙の光の中でともに生きていることを実感する。草や木と、花や小鳥と、熊や猿、犬や猫、地を這う甲虫や蟻たちとともに私は生きている。こんな当たり前のことに今更のように気がつく。私は人間でもない。私自身でもない。ただの生き物なのだ。自然の一部なのだ。
生きとし生けるもののうちの一つの命なのだもの、生きようとして当然ではないか。
私は生まれ変わって、生きとし生けるものの中の、ただ一つの命として、また生きはじめている。

彼のオフィシャルサイトに書籍の刊行インタビューがある。彼は決して陽子線治療を誰にでも勧めているのではない。食道がんも膵臓がんと同じく治療成績の悪いがんであり、ステージ2Bの術後の5年生存率は34%である。陽子線治療は先進医療として行われており、患者は約300万年の自己負担をしなければならない。保険診療として認められていないのは、他の治療方法と比較して陽子線治療が優れているというデータが揃っていないためだ。手術、放射線よりも優れているかどうかは”分からない”。いまだに臨床試験段階の治療法なのである。

ただ、なかにし礼の場合は心筋梗塞の持病があるために陽子線治療を選択し、結果的にそれが良かったということだ。

今の治療法だけに捕らわれずに情報を集めなさい。がんと向き合って直視せよ。自分が自分であることを決して止めてはいけない。自分に合った治療法を選択しなさい。人生に意味はないかもしれないが、がんが意味のない人生に意味を持たせてくれる。そうすればそこには自ずと魂の解脱にも似た歓喜が待っているはずだ。だから、英知を自分のものとして、逆境を乗り越えよう。


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