がん患者のための食事ーガイドライン

前の投稿『ゲルソン療法ってがんに効くの?』で、ゲルソン療法の危険性について書きましたが、ではがん患者はどのような食事をすれば良いのでしょうか。

初期の治療が一段落すると、がん患者と家族の方々は、「どのような食事や生活をすればよいか」という問題に直面することになります。世間にはさまざまな情報が氾濫しているので、「どれが正しいのか」と戸惑われることにもなります。

どう考え、どうすれば良いのでしょうか。

私の考えを先に書いてしまえば、「バランスよく食べる」。これに尽きると思います。

がん患者の食事の基本

がん患者が食事を考えるとき、やはり「抗がん作用」のあるものに目が行きがちですよね。ゲルソン療法もまさにそうです。でもそれ以前に、治療を続けることができる体力を維持する、そのための食事という視点が抜けている方が多いように思います。

体力がなければ標準治療=抗がん剤を続けられないし、副作用も重くなりがちで、白血球などの回復も遅いでしょう。

そのうえで、より効果的な食事とは何かを考えることが大切ではないでしょうか。

がんになってからの食事療法

がん体験者の食事を考えるときにも、科学的な根拠(エビデンス)に基づいた考え方が大切です。その意味では、米国対がん協会が出しているガイドライン『「がん」になってからの食事と運動』は、最新の研究をまとめたうえで、がん治療後の食事と運動について助言しています。

「がん」になってからの食事と運動―米国対がん協会の最新ガイドライン

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米国対がん協会
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ガイドラインの結論をまとめると次のようになります。

がん生存者の栄養と運動に関する米国対がん協会のガイドライン

健康的な体重を達成し維持しましょう。

  • もし過体重や肥満の場合は、高カロリーの食物や飲料を制限し、減量するために運動量を増やしましょう。

定期的に運動しましょう。

  • 運動不足を避け、診断後もなるべく早く通常の日常生活を取り戻るようにしましょう。
  • 1週間に150分以上運動することを目標としましょう。
  • 1週間のうち2日以上は筋力トレーニングを運動の中に含めましょう。

野菜、果物、全粒穀物が多い食事パターンにしましょう。

  • 「がん予防のための栄養と運動に関する米国対がん協会ガイドライン」に従いましょう。

ガイドラインには、がんの治療中、治療直後、再発のない安定期、進行がんとの共存のそれぞれの段階に応じた、より具体的なアドバイスも書かれています。

食事に関しては、「がん予防のための栄養と運動に関する米国対がん協会ガイドライン」に従いましょうとされています。がん患者も予防のためのガイドラインを遵守した方が良いのです。

「がん予防のための栄養と運動に関する米国対がん協会ガイドライン」で、食事に関する内容を抜粋します。

植物性の食物に重点を置いた、健康的な食事をとりましょう。

  • 食物と飲み物を選ぶ際には、健康体重を達成し維持するために必要な量にしましょう。
  • 加工肉や赤肉の摂取を少なくしましょう。
  • 毎日2.5盛り以上の野菜と2.5盛り以上の果物を食べましょう。
  • 精製穀物製品の代わりに全粒穀物を選びましょう。

飲酒する場合は、量を制限しましょう。

  • 女性は1日1ドリンク、男性は1日2ドリンクを限度としましょう。

世界がん研究基金と米国がん研究機関のがん予防指針(2007年)

が、より具体的に数値を上げたガイドラインを作成しています。

  1. やせ(BMI18.5未満)にならない範囲で、できるだけ体重を減らす。
  2. 毎日30分以上の運動をする(早歩きのような中等度の運動)。
  3. 高カロリーの食品を控え目にし、糖分を加えた飲料を避ける(ファストフードやソフトドリンクなど)。
  4. いろいろな野菜、果物、全粒穀類、豆類を食べる(野菜と果物は1日400g以上)。
  5. 肉類(牛・豚・羊等。鶏肉は除く)を控え目にし、加工肉(ハム・ベーコン・ソーセージ等)を避ける(肉類は週500g未満)。
  6. アルコール飲料を飲むなら、男性は1日2ドリンク、女性は1ドリンクまでにする(1ドリンクはアルコール10~15gに相当)。
  7. 塩分の多い食品を控え目にする。
  8. がん予防の目的でサプリメントを使わない。
  9. 生後6か月までは母乳のみで育てるようにする(母親の乳がん予防と小児の肥満予防)。
  10. 治療後のがん体験者は、がん予防のための上記の推奨にならう。

肉類は週500gまでとされていますが、米国の基準ですから、日本人はこれほど食べていません。したがって、肉類についての制限は考える必要はないでしょう。

私はときどき「いきなりステーキ」で牛肉を食べますが(安いし)、200gか300gです。300gのときにはライスは摂りません。週に1回行くのは難しいので、週500gという肉類の制限は気にしたことはありませんし、その必要はないです。

最近の論文や観察研究の結果によると、食生活や食物の選択が、がんの進行や再発リスク、全生存率に影響することが指摘されています。

しかし、ある特定の食物だけに注目するのではなく、パターンとしての食生活と生存率の関係も参考になるでしょう。

例えば、乳がんと診断されて治療を受けた女性では、果物と野菜、全粒穀物(玄米、黒パン、全粒パンなど)、鶏肉、魚類を多く含む食生活パターンのある人は、精製穀物(白米、白パンなど)、加工肉(ベーコン、ハム、ソーセージなど)、赤肉(牛、豚、羊肉)、デザート、高脂肪乳製品、フライドポテトを多く摂取する食生活パターンがある人に比べて、総死亡率が43%低いことが分かっています。

がんに効くという食物が、次から次に”発見”されて、納豆がスーパーの棚から消えたり、しょうが、煮あずき、とまとなどが登場していますが、一つの食品でがんが治るはずがないでしょ。

がんでは死なないがん患者

充分な量のタンパク質を摂ることは、がんの治療期、回復期、長期生存期、進行がんと共に生きる時期のすべてを通じて必須です。

いまは、日本の栄養学の転換期だと言われています。医療界はこれまで栄養学に関心が低かった。糖質制限についても同じですが、これまで正しいと考えられてきた栄養学が大きく変わろうとしています。

東口高志氏の『「がん」では死なない「がん患者」ー栄養障害が寿命を縮める』には、示唆的な内容が多く書かれています。

がんで入院しても、がんで亡くなる患者はたった2割です。8割の方は感染症で亡くなっています。なぜ感染症に罹るのか、それは栄養障害によって免疫機能が低下しているからです。

栄養素のバランスが崩れた結果、代謝障害が起き、身体機能に支障が出ます。免疫機能もそのひとつで、健康人なら問題のない弱い菌にすら感染して、回復できずに亡くなるのです。

著者らの調査によれば、余命一ヶ月のがん患者の82.4%は栄養障害に陥っていました。適切な栄養管理をしてもこれ以上よくならなかった患者はわずか17.6%でした。そして適切な栄養管理を受けた患者は、がんそのもので亡くなるのですが、その最期はとてもおだやかでした。

栄養を摂るとがん細胞が大きくなる。だからがんを兵糧攻めにするためには栄養を摂らない方が良い、との考えが、医療者にもあります。これはまちがいです。

がん細胞は栄養が取れなければ、炎症性サイトカインを放出して、タンパク質の代謝を異常にして、筋肉などを溶かすようにして栄養を集めて大きくなるのです。食べて栄養を摂らなければ、がん患者はあっという間に栄養障害になり、やせ細っていきます。感染症で亡くなるのです。

「栄養を摂るとがん細胞が大きくなる」との考え方は、その栄養が私たちの身体から奪われているという事実を無視しているわけです。

タンパク質、糖質、脂質の三大栄養素のなかで、タンパク質が不足すると筋肉量が減少します。足りない栄養を補うために筋肉を消費してしますのです。歩けない、立てない、座れない状態になるのです。

血液中のタンパク質が減少すると免疫細胞を作れずに免疫機能が低下するのです。これじゃがん細胞と闘う兵隊も補充できなくなります。

「四つ足動物の肉を避ける」には根拠がない

「済陽式ゲルソン療法」では四足歩行動物 (牛、豚、羊) の肉食を禁じ、鶏肉はOKとされています。確かに米国のガイドラインでも、これらの肉を「多く摂らない」ようにと推奨されていますが、量の問題です。一切ダメという食事療法では、免疫細胞の産生もできないので免疫機能が落ちてしまいます。

「がん予防」という観点では赤肉・加工肉 (ハム・ソーセージなど) の過剰摂取は、大腸がん罹患リスクとして確実視されていまが、アメリカ人のような「過剰摂取」のことを言っているわけで、週に500gの肉を食べられるような裕福な日本人は極少ないと思います。

(いきなりステーキで、450gのステーキにライスの大盛りを、連日食べている方もいましたが・・・)これではがんにならなくても、別の生活習慣病になるリスクが高くなるに違いありません。

腹八分目で、バランスよく食べることが、がんにも他の病気にも一番効果的でしょう。


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