ゲルソン療法ってがんに効くの?
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がんと言われてからの食事療法
2007年6月に膵臓がんのステージ3が告知されたとき、「さて、助かる方法はあるのか?」と深刻に考えたものでした。
「がんの王様」「がんの中では最悪の5年生存率」、よい情報は一つもありません。当時はまだインターネット上での情報も少なくて、膵臓がんに関するものはほとんどありませんでした。
再発したらあっという間に死ぬだろうから元気なうちにと、田舎の墓を墓終いして東京に移し、準備万端。いつでも入れるようにしました。
しかし、考えるのは誰も同じで「どこかに奇跡の治療法があるはずだ」「(膵臓がんではないが)食事で治ったという人もいる」と、自分に都合のよい情報だけを取りあげて、必死になっていました。
当時も既に済陽高穂や星野仁彦の食事療法に関する本が、書店に並んでいました。ゲルソン療法を日本人向けに改良したという触れ込みだったと思います。さっそく買い求めて、必死で読みましたよ。
コーヒー浣腸はさすがにためらいましたが、低速ジューサーを買って、ニンジンジュースも飲んでみました。しかし、即座に激しい下痢と体調の悪化で、一日で断念。ジューサーは物置の隅で埃をかぶっています。
西台クリニックのサイトには、
出版物(著書)が70冊を超え、認知度が向上したため、食事療法に関するお申込みとお問い合わせが大変多くなっております。初診の診療スケジュールと担当スタッフを増やす改善活動を行いましたが、なお順番待ちが多い状況となっております。
とあります。同じような内容の本を、飽きもせず70冊も書いたものだと感心します。これほどの執筆力があるのなら、済陽式の治療に関して論文のひとつもあると思うのですが、これがないのですね。しかし営業戦略としては成功しています。
ゲルソン療法は、がんには効きません。とくに膵臓がん患者は絶対に手を出してはダメです。
その理由を書いてみます。
旧『すい臓がんカフェ』(現在は『膵臓がん患者と家族の集い』)でも、ゲルソン療法についての質問が多いです。
ゲルソン療法とは
マックス・ゲルソン医師は1881年にドイツで生まれています。肺炎で亡くなったのは1959年です。第一次・第二次世界大戦で使われた毒ガス「マスタードガス」を改良して最初の抗がん剤が1940年代に開発されますが、ゲルソンが食事療法を提唱した1930年代はには、抗がん剤はなかったのです。
ゲルソン博士は若いころ偏頭痛に苦しめられていましたが、食事の内容を改善すると偏頭痛が起こらなくなったことで、食事療法を編み出すに至りました。
その後、食事療法は結核にも効果があることがわかり研究をしていましたが、結核とがんの両方を発症した患者に、結核のための食事療法を指導していたところ、がんにも効果があったため、がんの治療法としても着目するようになります。
ゲルソン療法では、がんの原因となる食品を排除し、 自然な食物の持つ様々な栄養素をバランスよく摂取することによって人間が本来持っている身体の機能を高め、病気を排除しようとするものです。 ゲルソン療法の最大のポイントは、人間の持つ自然治癒力を高めることにあります。
ま、総論としては正しいのかもしれませんが、がんの原因は食品だけではないし、自然治癒力だけでがんが治るとは考え難い。
- 無塩食
- 油脂類と動物性蛋白質の制限
- 大量かつ多種類の野菜ジュース
- コーヒー浣腸を1日数回行い、肝機能の回復と免疫力の向上を図る。
- アルコール、カフェイン、たばこ、精製された砂糖、人工的食品添加物(着色、保存剤)などの禁止
- 芋類、未精白の麦類(オートミール)、玄米、胚芽米、全粒粉などの炭水化物、豆類、新鮮な野菜や果物(国産)、乾燥プルーンなど中心とした食事。
がゲルソン療法の基本とされています。
“私は、ガンのそもそもの始まりは多分、肝臓の精密な働きの一つ、酸化酵素の再活性化が疎外されることなのだろうと考えている”と述べてゲルソン医師ですが、がんの研究が未熟だった歴史的な背景を考えると無理もないでしょう。肝臓機能を解毒作用によって開腹しようとしてコーヒー浣腸を考えたのです。
済陽式と星野式ゲルソン療法
日本人向けにアレンジしたという済陽式ゲルソン療法は、コーヒー浣腸がなくなって、動物性たんぱく質と脂肪の制限は、「四足歩行動物」に限って制限しています。代わりに乳酸菌(ヨーグルト)、キノコ、海藻、レモン、ハチミツ、ビール酵母を摂るように推奨しています。野菜ニュースは果物も入れてOKです。
星野式、済陽式に取り入れられなかったもの
- 子牛の生レバージュースの摂取
- コーヒー浣腸
- 大豆製品の摂取の禁止
- 甲状腺ホルモン剤の服用
- カリウム剤の服用
星野氏は、S状結腸がんを患って手術をしたが、その後肝臓に2箇所の転移(肝転移)があったと書かれています。
そして、肝転移は 1cm 程度のものが 2個。それらにエタノール注入する局所治療を受けており、その結果腫瘍は 2つとも壊死したと書かれています。
ゲルソン療法で治ったわけではないようです。
大腸がんの肝転移は、ステージ IV であっても治癒する可能性が十分見込めるがんです。今は積極的に手術も行います。
星野氏は、ゲルソン療法の普及を熱心に勧める以外にも、福島県郡山市にあるロマリンダクリニックで、似非免疫細胞療法や高濃度ビタミンC療法にも関わっているようです。
済陽式ゲルソン療法の治療成績では、対象となっているのはほとんどがステージIVの進行がん患者です。420例のうちなんと57例も完全治癒したとのこと。
全体の有効率は61.2%。胃がん56.6%、大腸がん66.4%、前立腺がんは76.3%、乳がんは67.9%、悪性リンパ腫では86.7% 。
なんと、7人に一人は完治した! これはビッグニュースでしょう。しかもステージ4の進行がんです。多くの患者が「もしかすると私も・・・」と期待するのも無理はありません。
これまで70冊の著作を出している済陽先生ですから、この成績なら医学誌に論文を出せば、ノーベル賞も確実です。西台クリニックの名声はさらに上がり、クリニックもこれまで以上に大繁盛でしょう。
近代的医療を受けることができない貧困に喘ぐ貧しい国の患者は、食事療法だけで治るのなら、こんなすばらしいことはありません。国際貢献にもなります。
どうしてそうしないのでしょうか?
ゲルソンの娘は「抗がん剤をやった患者には勧められない」という
ゲルソン療法は、アメリカでは法律で禁止されています。それで、国境に近いメキシコで病院を開設しているのです。
ゲルソンの娘で、シュバイツァー博士の主治医でもあったシャルロッテ・ゲルソンは、1977年にゲルソン・インスティテュートを開設しています。
そのシャルロッテの書いた『決定版 ゲルソンがん食事療法』にはこんなことが書かれています。
どの程度であれ、また最後に受けた抗がん剤治療からどんなに時間が経っていようとも、化学療法を受けたことのある患者が、基本のゲルソン療法のまま忠実に実行することは大変危険である。
一度でも抗がん剤をやったがん患者は基本のゲルソン療法はやってはいけないというのです。
12章の最後の段落にはこんな記述があります。
膵臓がん患者で、以前に化学療法を受けたことがある場合には、残念ながらゲルソン療法でも良い結果が出せない。抗がん剤で膵臓があまりに激しく損傷を受けるからである。
第16章「治った人たち」に「膵臓ガンが消えて15年」と紹介されているエイニーさん(46歳)の場合、1985年当時は膵臓がんのステージ4に有効な抗がん剤はなかったので、抗がん剤は投与していない。そしてゲルソン療法で完全に消失して、15年間生存しています。彼女の場合抗がん剤の治療をしていなかったのでゲルソン療法が有効だったと言いたいようです。
しかし、『癌が消えた―驚くべき自己治癒力』にも、何も治療をしないで膵臓がんが消えた例が紹介されています。がんには稀に「奇跡的治癒例」が存在するのです。
臨床試験の結果は?
ゲルソン療法には本当に効果があるのかどうかを調べるには、無治療あるいは抗がん剤治療との比較試験が必要です。しかしゲルソン療法についての臨床試験はありません。もちろん済陽式・星野式もないです。
ゲルソン療法をアレンジしたゴンザレス療法(ゴンザレス・レジメン)と標準治療(ゲムシタビン化学療法)を比較した試験を、アメリカ国立衛生研究所(NIH)が資金提供して行っています。
アメリカはこんなことをやるのですね。
ゴンザレス療法とは
ゴンザレス療法では、豚の膵臓から抽出した膵酵素をカプセル剤で4時間おきに、また食事の際にも服用する。加えて、毎日クエン酸マグネシウム、パパイヤ、ビタミン、ミネラルなど150種類といわれるサプリメントを患者により使い分ける。さらに、1日2回コーヒー浣腸を行ない、有機食材のみという厳しい 食事療法を行う。
治療の鍵となる膵酵素は、体内に溜まった毒素を排泄する作用があるといわれる。また、コーヒー浣腸で大腸内の神経を刺激し肝機能を活発にし、解毒パワーをアップ。患者の病態に合せたサプリメントや食事療法で体のバランスを整え、免疫力を高めてがんを撃退する。
豚の膵酵素なら私も服用しています。リパクレオンです。膵臓がん切除で消化酵素が出ないので、その補充の目的です。リパクレオンに毒素の排出作用があるとは、聞いたことがない。
手術のできない進行膵臓がん患者55人を対象にした非ランダム化対照臨床試験の結果です。多くの患者が無作為化のためのくじ引きを拒否したので、非ランダム化試験になったのです。70人の患者のうち、15人が脱落(死亡など)して55人のデータです。
標準化学療法の治療を受けた患者は平均14ヵ月生存したのに対し、ゴンザレス療法の治療を受けた患者は平均4.3ヵ月生存しただけでした。さらに生活の質(生活の質(QOL))は、化学療法の治療を受けた患者さんの方がゴンザレスレジメンの治療を受けた患者さんよりも高くなっていました。元の論文はこちら。
小規模の試験では、ゴンザレス療法で10年以上生存した膵臓がん患者もいたのです。しかし、規模を大きくして再試験をするの、上のような結果でした。
ゲルソン療法やその亜流(済陽式・星野式・ゴンザレス・レジメン)では、生活の質も悪いし、命を縮めることになります。
ゲルソン療法でろくな栄養を取れず、治療の継続もできない患者、体力がなくてよれよれになった患者が沢山います。
ゲルソン療法をやっている方へ
ゲルソン療法は危険な食事療法です。
しかし、あなたが納得し、効果があると感じているのなら、続ければよろしいと思います。あなたの命ですから。
じゃあ、がん患者の食事はどうすれば良いのか? 続きをこちらに書きました。