少量の酒でもがんリスク増加:さて呑兵衛はどうする?
呑兵衛には気になる、少量のお酒でも癌になるリスクが増加するとの報道がありました。
生涯アルコール消費量とがんのリスク
1日ワイン1杯程度の少量のアルコールでも10年間飲酒を続けると、がんになるリスクが5%上がるとの研究結果を東京大などのチームが9日、米医学誌に発表した。少量の飲酒は循環器病などのリスクを下げるとの報告もあるが、がんに関しては量に応じて危険性が高まるとしている。
少量のアルコールで、がんのリスクが高まるとの研究は最近、海外でも報告されているが、日本人を大規模に調べた研究は初めて。チームの財津將嘉東大助教(公衆衛生学)は「リスクを自覚してお酒と付き合ってほしい」と話している。(共同通信)
- 独立行政法人労働者健康安全機構が構築した全国 33 箇所の労災病院の入院患者病職歴データベースを用いて、新規がん 63,232 症例と対照 63,232 症例から、低~中等度の飲酒とがん罹患のリスクを推計しました。
- がん全体の罹患リスクは低~中等度の飲酒でも容量依存的に上昇し、飲酒指数が 10 drink-year (例えば 1 日 1 杯を日常的に 10 年間継続)で、罹患リスクは 1.05 倍程度上昇しました。
- 低~中等度の飲酒においても、全がんの罹患リスクは軽度上昇する可能性が示されました。
缶ビール(500ml)一本を10年間飲み続けると、がんになるリスクが5%(オッズ比 1.05 90%信頼区間 1.04~1.06 )増加する。20年間では6%増加するとなっています。
元論文の表を見ると、10drink-yearで膵癌になるリスクは、オッズ比 1.02(0.95~1.09)ですね。
欧米での研究
2018年には『ランセット』誌に「1990〜2016年の195の国と地域のアルコールの使用と負担」との論文が載りました。
この論文は、世界195カ国で実施された592の研究を統合した大規模研究でした。また、心筋梗塞や乳がんを含む23個の健康指標に対してアルコールの影響を総合的に評価したものでした。
この論文は衝撃を持って受け止められました。なぜなら、それまでは少量であれば健康に良いが、過量になると悪影響があると考えられていたアルコールが、たとえ少量でも健康に悪いという報告であったからです。
日本の研究では、一杯の推定アルコール含有量 23gとしており、こちらは10gですから、半分以下ですが、それでも一杯を超えると次第にリスクが増加しています。
この論文では、あらゆる病気になるリスクを述べているのですが、がんでは少量でもリスクが増加すると結論されていました。
日本における上の研究と同じ結果ですね。
呑兵衛はどうする? 私の結論
複数の研究でアルコールは少量であれば動脈硬化を原因とした病気によって死亡する確率を減らす可能性があると報告されており、これが「少量の酒は健康に良い」といわれる根拠になってきた。
少量のアルコールが健康に良いかどうかは、動脈硬化への影響とがんへの影響の「つな引き」で決まるということである。
がんになるリスクが5%増加するというが、造影CTで被ばくしてもがんになるリスクは増加する。ICRP(国際放射線防護委員会)によれば、1000mSvの被ばくで生涯にがんになるリスクが5%増加するとされている。
CT検査による全身被ばく線量は最大でも15mSv程度とされているから、飲酒ほどではないが、こちらもがんになるリスクはある。
一日一杯程度のお酒なら、動脈硬化で死亡するリスクを減らすが、がんになるリスクは増える。しかしその差は僅かなものだろう。
親族にがんになった人がいれば、お酒は最小限にし、また過去に酒が原因で怪我をしたとか、事故を起こしそうになったという人も控えたほうが良い。
そして、人間は病気にならないためだけに生きているわけではないのだから、1~2杯程度のお酒はリスクを承知で続けるという選択も間違いではないと思う。