今日の一冊(133)『免疫力を強くする』

 

がん患者なら「免疫力」を高めることに関心があることでしょう。多くの方がサプリメントや食事療法を取り入れています。

免疫学の第一人者、宮坂昌之さんが科学的に正しい「免疫力」の鍛え方を書いています。

昨日18日に発売されたばかりの本ですが、早速Kindleで購入して一気に読みました。

ここではがん患者が最も関心の深いと思われる『第8章「免疫力を強くする」のウソ・ホント』を紹介します。

免疫力は測定できるのか?

免疫系は多くの部品からなり、多機能な精密機器のようなものです。このような機器の場合、個々の部品だけを調べても、機器全体の機能は測れません。

Tリンパ球やNK細胞に注目して、その数や能力を調べることはできますが、これは、個々の部品の数や機能を見ているのであって、それなりに参考にはなるものの、それで系全体の機能がわかるわけではありません。

免疫系は幾種類もの細胞が連携して働く多機能なシステムであり、その一つの細胞の多い少ないを測っても精密機械全体の能力を測定したことにはなりませんね。

また、測定には血液を採取するのですが、例えば血液中に流れているリンパ球は全体の2%ほどであり、残りの98%は血液以外のところにいるのです。

特定のサプリメントや食品を摂って、リンパ球が上がった下がったということにどれほどの意味があるのか疑問です。

免疫療法のクリニックの中には、高額な検査費用をとって「免疫機能検査」をすれば、がん患者さん一人ひとりに最適な治療法が選択できるなどと謳っていることがあります。

確かに細胞を取り出して精密な検査をすれば、部品が揃っているかどうか、部品の機能を調べることはできます。しかしそれも一定の抗原に対しての反応を見るのであり、それが免疫系全体の反応を表しているとは限らないのです。

「免疫力」は強くできるのか?

科学的に信頼できる方法で、免疫力を強化できる方法はあるのでしょうか。その問いについては明快に「イエス」といえます。

免疫学者 宮坂昌之さんが「イエス」と断定する、その方法とは。

第一にワクチンだというのですが、(がんワクチンは別にして)これはがん患者には関係が薄いので、それ以外の方法というのが、

このように書いてしまうと、がっかりされるかもしれませんが、こうした薬剤に頼らずとも、免疫力を高める方法は存在します。それは、血管系やリンパ系における細胞の往来をすみやかにする方法です。もう少しわかりやすい言い方をすると、血液循環やリンパ循環を良くしてやれば、その分、免疫力が高くなるのです。この場合、免疫力とは、からだの防衛能力の全体のことで、部品の能力のことではありません。

免疫系は、免疫細胞が作られる場所(骨髄、胸腺)と活躍する場所(脾臓、リンパ節、バイエル版)が離れており、免疫細胞は血管やリンパ管を通って活動することになるのです。

この通り道を快適に流れるようにしてあげることです。

それでは、血流、リンパ流を良くするようなことは、そのまま免疫力のアップにつながる、と考えていいのでしょうか。 答えは、条件つきでイエスです。

ストレスがかからない状態で、血液、リンパ液の流れを良くするのが良い。それには、

  • ウオーキング、ストレッティングなどの軽い運動をする
  • ヨガ、マッサージ、乾布摩擦
  • ぬるいお風呂でゆっくりと体を動かす
  • 乳酸菌を含むヨーグルトなどの飲み物は、腸内環境のバランスを整えることにより、間接的にからだの免疫力を上げる

などが効果的です。

まとめると、ストレスがかからないような、スローライフ・スタイルで、ゆったりと息を吐いたり吸ったりしながら、持続してゆっくりと筋肉運動をする、あるいはゆっくりと体温を上げる、ということが、免疫系の機能を向上させ、からだに良い、ということになります。

食事も同様です。ゆっくりと食べ、その後は一休みしてから、ゆっくりと後片付けをしたり、のんびりと散歩をしたりすることがいいのです。

試験管内で免疫細胞にサイトカインを作らせるときでも、温度を37℃より少し上げるとサイトカインがたくさん作られるようになります。体温が少し上がると免疫機能が向上するのです。体が冷えないようにしましょう。

リンパ球のもとになるのはタンパク質ですから、「四足の動物はダメ」などの迷信に惑わされず肉も食べ、きのこ類やオリーブオイルなど抗癌作用のある食物、青魚などを含んだバランスの良い食事を摂ることです。

免疫力を高めるというサプリメントや健康食品には、プラセボ効果という暗示以上の効果はありません。

ストレスと「免疫力」の不思議な関係

過度のストレスは免疫力を低下させます。このブログでもストレスと免疫の関係については何度か紹介しています。

ハンス・セリエ氏は、ストレスは脳下垂体を介して副腎を刺激し、その結果、副腎皮質からコルチゾール(別名ヒドロコルチゾン) というホルモンが多量に作られることを発見しました。

このコルチゾールがストレス症状を起こすことを明らかにしました。コルチゾールは、免疫細胞の働きを特に強く抑制することから、その後、コルチゾールとその誘導体を含む種々のステロイド剤が免疫抑制剤、炎症抑制剤として開発されています。

このような強力な免疫抑制的なホルモンがストレスの際に分泌されるのですから、ストレスによってからだの抵抗力が低下するのは当然です。

ストレスは免疫を抑制し、体に良くないことは明らかです。一方でそれをあまり意識しすぎるのも問題があります。

アメリカでの研究によると、「ストレスの量」と「ストレスが健康に悪いと思う」という二つのことが、相乗的に悪さをする可能性を示していて、ストレスが健康に悪いと思いすぎる人のほうが、そうでない人に比べて、死亡リスクが高い、すなわち短命であるとの結果が出ています。

また大阪大学による研究では、初期のストレスによって交感神経が刺激され、その際に神経末端から放出されるノルアドレナリンの影響を受けて、リンパ球の日内変動が起きることを示しました。

つまり、適度なストレスで交感神経が刺激されると、リンパ球がより長い時間リンパ節に留め置かれ、リンパ節内のリンパ球が増えることで免疫反応がより活発になることを証明したのです。

適度なストレスは免疫系を刺激して免疫反応を強める可能性が高いので、少しぐらいのストレスならば、それを味方するという、ポジティブな考え方が良いでしょう。

「俺はストレスが多い」などと悩む”ストレス”なんて、笑えないですね。(*^ー゜)

過度のストレスには、ヨガや瞑想、マインドフルネス療法などが効果的です。

過度のストレスは免疫力を低め、適度のストレスは免疫力を高める

まとめると

まとめると、免疫学者である私が推薦する免疫力を高める方法は、個人の年齢や生活環境などを考慮して、科学的なエビデンスがあり確実な予防効果があるワクチンを接種するとともに、不必要な抗菌薬などの使用を控えて良好な腸内環境を整える。

そして、暴飲暴食を控えて、寒すぎず暖かすぎずの環境の中で節度ある生活をして、毎日、適度な運動をする。

「なんだ、そんなありふれたこと……」と思われるかもしれません。しかし、これは、免疫力がアップするという健康食品や腸内細菌を増やすというヨーグルトを食べるよりも、より科学的エビデンスで裏付けられた免疫力増強法です。

特別な道具や薬は不要で多大な金銭的な出費もともないません。やみくもに健康食品や怪しげな民間療法に頼るよりも、からだの働き方を科学的に理解して、それにともなったものの考え方、生活の仕方をすることが大事です。

他にも慢性炎症とがんなどの病気との関係も詳しく書かれています。慢性炎症については、宮坂昌之さんの前書に詳しく書かれています。こちらも良書です。

免疫と「病」の科学  万病のもと「慢性炎症」とは何か (ブルーバックス)

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宮坂 昌之, 定岡 恵
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がん患者は、歩け、歩け。「死」がストレスになっているのなら先人たちに学べ。スロー・ライフで生き、バランスのよい食生活をし、しっかりと睡眠を取ることです。

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