膵臓がんの重粒子線治療

4月から局所進行膵癌の粒子線治療が保険適用に

1月8日付の記事でも紹介しましたが、この4月から膵臓癌に対する粒子線治療(陽子線治療と重粒子線治療)が保険適用となります。

これまでは先進医療として粒子線治療を受けることもできましたが、患者の自己負担金が300万円ほど必要でした。そのために治療を諦めざるを得なかった膵臓がん患者さんも多いのではないでしょうか。

保険適用となることで粒子線治療を考えてみようかという患者さんも多いのではないでしょうか。その際に参考となる情報をここにまとめてみました。

保険適用となる膵癌

今回保険適用となるのは、「局所進行膵がん(切除不能のものに限る)」とされています。遠隔転移や腹水がある場合は対象にはなりません。

2022年1月6日の第106回先進医療会議における資料では下記のように報告されています。

☆局所進行膵癌とは・・・

がんが膵臓の表面を越えて周囲の大事な血管、および血管周囲へ浸潤しており、かつ遠隔転移を伴わない状態の膵がんのことを局所進行膵がんと呼びます。

重粒子線が適用できない場合
  • 転移がある。(傍大動脈リンパ節転移のみの場合は適応になる場合もあります。)
  • 腫瘍が腸管に接していて、腸管を避けて照射することが不可能である。
  • 黄疸に対して胆管に金属ステントを挿入されている(チューブステントは可能です)。
  • 腹水がある。
  • 重い合併症など治療に差し障る全身状態
  • その他医師が治療困難と判断した場合

治療成績

局所進行膵がんの現状

膵がん治療のアルゴリズムでは、切除可能境界型と遠隔転移のない切除不能局所進行がんに対して化学放射線治療ないしは化学療法が推奨されています。

放射線治療としては、Krishnan(IJROBP 2016)は膵がんに対し放射線化学療法を施行した患者さんを高線量群(153例)と低線量群(47例)と分けて比較すると、2年生存率は36%対19%と高照射線量群で有意に生存率が高いことを報告しています。

より高い線量で治療するために、局所に限局して殺細胞効果の高い放射線を照射することが可能な重粒子線治療が期待されました。

局所進行膵がんに対する重粒子線治療の成績

2007年から局所進行膵がんに対するゲムシタビン(GEM)併用重粒子線治療の線量増加第I/II相試験が行われ、72例の患者さんにGEM併用重粒子線治療が施行されました。

用量・線量制限となる正常組織障害は3例(4%)に認めた(Grade4好中球減少2例、Grade3胆管炎1例)のみで、極めて少ない割合でした。

治療成績は、2年局所制御率83%(2年間照射部位に再発がない割合が83%)で、2年生存率は35%でした。45.6Gy(RBE)以上照射された高線量群42例の2年生存率、生存期間中央値はそれぞれ48%、23.9か月と良好な成績でした。

J-CROS(重粒子線治療多施設共同研究:Japan Carbon-ion Radiation Oncology Study Group)では、2012年から2014年まで放医研、九州国際重粒子線治療センター、群馬大学で重粒子線治療を施行した72例を解析しました。

正常組織障害としては重症(Grade3以上)の血液毒性が19例で、非血液毒性は食欲不振が2例のみでした。

全症例の2年全生存率、生存期間中央値はそれぞれ46%、21.5か月でした。

重粒子線治療とは?

放射線は大きく分けて電磁波(X線、ガンマ線)と荷電粒子線に分類できます。

荷電粒子線は、さらに電子線と重粒子線に分けられます。

日本では、重イオン線の中で、原子番号12の炭素原子を光速の70%程度まで加速したものが使われ、それを伝統的に「重粒子線」と呼んでおり、粒子線の一部である「陽子線」と区別しています。

重粒子線の特徴

イオンの重粒子線には「ブラッグピーク」という現象があり、下図のように深さ方向で腫瘍の近辺で一番放射線量が大きくなります。その前後の正常な組織に対する影響を小さくすることが可能です。

また重粒子イオンは磁場によって放射線を収束させることができるので、ピンポイントで腫瘍をターゲットにして、腫瘍の周囲の組織への照射も極力抑えることができます。

さらに、陽子の12倍の質量のある炭素原子イオンは、より強力な殺細胞効果を有するのです。

重粒子線照射施設

QST病院 重粒子線回転ガントリー治療室の紹介動画

膵臓がんの重粒子線への期待

  • 膵がんは、低酸素細胞の割合が多く、X線等の従来の放射線治療では効果があらわれにくい
  • 放射線感受性の高い消化管に周囲を囲まれているので、十分高い線量を膵がんに照射することが困難
  • 重粒子線は陽子線の優れた線量分布に加えて、粒子が重いことから、より強力な殺細胞効果を有する
  • がんの周囲にある放射線の影響を受けやすい臓器を避けて、腫瘍のみを狙い撃ちにすることが可能
  • 放射線抵抗性であったがん細胞(腺がんや肉腫、低酸素細胞、がん幹細胞など)にも高い殺細胞効果が示されています。

これらのことから膵がんに対する治療として重粒子線が期待されています。

膵臓がん患者の重粒子線治療体験談

「(放医研ニュース)医用原子力だより 17号」に掲載された、膵臓がん患者 林 正男さんの体験談をPDFで紹介します。(画像をクリックでPDFファイルが表示されます。)

国内の粒子線治療施設

兵庫県立粒子線医療センター

各施設の詳細は施設紹介ページでご確認ください。

重粒子線陽子線都道府県施設名称紹介ページ
北海道北海道大学病院陽子線治療センタークリック
北海道札幌禎心会病院陽子線治療センタークリック
北海道北海道大野記念病院 札幌高機能放射線治療センタークリック
山形県山形大学医学部東日本重粒子センタークリック
福島県南東北がん陽子線治療センタークリック
群馬県群馬大学医学部附属病院 重粒子線医学研究センタークリック
茨城県筑波大学附属病院 陽子線医学利用研究センタークリック
千葉県国立がん研究センター東病院クリック
千葉県量子科学技術研究開発機構QST病院(旧放医研病院)クリック
神奈川県神奈川県立がんセンター 重粒子線治療施設クリック
長野県相澤病院 陽子線治療センタークリック
静岡県静岡県立静岡がんセンタークリック
愛知県社会医療法人明陽会 成田記念陽子線センター クリック
愛知県名古屋陽子線治療センタークリック
京都府京都府立医科大学 永守記念最先端がん治療研究センタークリック
大阪府大阪重粒子線センタークリック
大阪府大阪陽子線クリニッククリック
奈良県社会医療法人 高清会 陽子線治療センタークリック
福井県福井県立病院 陽子線がん治療センタークリック
兵庫県兵庫県立粒子線医療センタークリック
兵庫県兵庫県立粒子線医療センター付属神戸陽子線センタークリック
岡山県岡山大学・津山中央病院共同運用 がん陽子線治療センタークリック
佐賀県九州国際重粒子線がん治療センタークリック
鹿児島県メディポリス国際陽子線治療センタークリック
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膵癌治療の最前線:重粒子線治療の効果と展望

QST病院(旧放射線医学総合研究所病院)副院長の山田 滋先生による解説です。



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