mRNAワクチンで膵臓がんが消えた!
新型コロナウイルスのワクチンで初めてmRNAが医薬に応用され、目覚ましい効果を上げたのですが、これががん治療にも使えるのではないかと、注目を集めています。
6月に開催されたASCO 2022で、mRNAワクチンを投与された膵臓がん患者の半数が、18 か月後にがんのない状態を維持していたと発表され話題になりました。安全性を評価する第1相試験でしたが、驚くような結果でした。
このmRNAワクチンは、メモリアル・スローン・ケタリングがんセンター (MSKCC) の外科医兼科学者であるヴィノド・バラチャンドラン医学博士によって発見され、バイオ医薬品会社 BioNTech およびバイオテクノロジー会社 Genentech と協力して開発されました。
膵臓がんに対する機序は次のように考えられています。
- 膵臓がんの長期生存者は、短期生存者と比較して、原発腫瘍の自然免疫認識レベルが高いことがわかりました。
- 長期生存者は、短期生存者の腫瘍と比較して、約 12 倍の活性化 T細胞を持っていました。
- これらの T細胞は、ネオアンチゲンに由来する腫瘍内のタンパク質を認識していました。
- つまり、腫瘍は自発的に認識され、T 細胞によって攻撃されます。これらの患者では、ネオアンチゲン特異的 T 細胞が、治療後 10 年以上経っても体内をパトロールしていることがわかりました。
- 長期生存者ではなかった人々の腫瘍にもネオアンチゲンを発見しました。しかし、これらのネオアンチゲンは T 細胞によって自発的に認識されることはありませんでした。
- 例外的な長期生存者とそうでない者との間の顕著な違いの 1 つは、T 細胞と呼ばれる免疫細胞によって認識される腫瘍内のネオアンチゲンと呼ばれる分子の存在であるということです。
- 手術した膵臓がん患者にがん免疫薬や抗がん剤とともにmRNAを投与した。患者の約半数で免疫反応が強まり、その反応が強いほど再発しない期間が延びた。
- 短期生存者に対しては、適切なネオアンチゲンを組み込んだワクチンが免疫細胞を活性化させれば、同じ抗がん効果をもたらす可能性がある、と考えられます。
- バラチャンドラン博士の開発した各膵臓がんワクチンは、個々の患者に合わせてカスタマイズされており、T 細胞を刺激する可能性が最も高い腫瘍由来のネオアンチゲンが含まれています。
ネオアンチゲンとは
がん細胞で起こる遺伝子異常(遺伝子変異といいます)により、新たに出現したがん抗原(がんの目印)のこと。患者ごとに発生する遺伝子変異の部位は異なるため、ネオアンチゲンもがん患者固有のものであり、一人ひとり内容が異なります。
つまり、mRNAワクチンによってT細胞ががんを認識できるようになって寿命が伸びたというわけです。
この記事の根拠となった論文です。↓
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大いに期待できる研究ですが、今現在の膵臓がん患者は、この事実をどのように活用すればよいのか。
T細胞を活性化させることも一つの対策です。
ではどのようにしてT細胞を活性化させればよいのか? こちらの記事で色々と提案しています。
適度な運動と睡眠、そして心の平安。目新しくもないですが、T細胞を活性化させるのには、これらが一番効果的です。
第一層試験が始まったことは喜ばしいことです。コロナワクチンが開発された当初モデルナのCEOはテレビでがんワクチンについて尋ねられ、10年待ってくれというていました。
膵臓がん患者としては、早く実用化してほしいですよね。
第3相試験まではまだ距離があります。運良く効果が証明されても、実用化されるのは早くて5年後かも。