今日の一冊(35)『がんは引き分けに持ち込め』

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「アブラキサンもFOLFIRINOXもTS-1も効きませんでした。あなたに効く抗がん剤はありませんから、あとは緩和ですね」と言われても、「こんなに元気なのに」と諦めきれないのはあたりまえですよね。そんなときのひとつの選択肢が低用量抗がん剤治療です。我慢ができる程度の副作用になるように、患者それぞれに会わせて抗がん剤の投与量を減量し、生活の質(QOL)を保って治療が継続できる方法です。

休眠療法、メトロのミック療法、低用量抗がん剤治療など、さまざまに言われている治療法を行っている銀座並木通りクリニックの三好立先生の2冊目の上梓です。

休眠療法については、著名な腫瘍内科医である勝俣医師は、臨床試験もやってない、エビデンスもない治療をすることは「人体実験」に等しいと述べて批判しています。たしかにランダム化比較試験はありません。というよりも、患者ごとに抗がん剤の投与量を変えるのですから、比較試験ができません。腫瘍内科医の先生が得意とする標準治療でも、アブラキサンが効果がなかったから次はTS-1をというセカンドラインの抗がん剤治療は、その多くがランダム化比較試験などのエビデンスはありません。

私の主治医もはっきりと言いました。「再発したときの抗がん剤治療には明確なエビデンスはありません。しかし、専門家のコンセンサスとしてやった方が良いだろうという程度ですよ」と。専門家の意見はエビデンスレベルではⅥなんですよ。これって、人体実験と言わないのですか?

三好医師もその点は分かっていて、エビデンスレベルの4:分析疫学的研究と5:記述研究の中間くらいだろうと述べています。

Ⅰ システマティック・レビュー/randomized controlled trial(RCT)のメタアナリシス
II  1つ以上のランダム化比較試験による
III  非ランダム化比較試験による
IVa 分析疫学的研究(コホート研究)
IVb 分析疫学的研究(症例対照研究、横断研究)
V 記述研究(症例報告やケースシリーズ)
VI 患者データに基づかない、専門委員会や専門家個人の意見

三好医師に関わった341症例の治療効果がまとめられています。それによると、疾患制御率=52.5%、奏功率=10%。

疾患制御率とは「完全治癒」+「改善」+「不変」の合計。奏功率は「完全治癒」+「改善」の合計ですから、がんが大きくも小さくもならない、引き分け=がんとの共存をしている患者が半数以上いるということですね。

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転移したがんが抗がん剤だけで治ることはありません。抗がん剤はあくまでも「延命効果」をめざすだけですから、生活の質(QOL)を保ってどれだけ長く延命するかが評価の基準でしょう。

確かにエビデンスはないが、このブログでも何度も書いているとおり、「エビデンスがないことは、効果がない」ことを意味するわけではありません。三好医師も、341症例でこれだけの疾患制御率があることは、「偶然と切り捨てるには統計学的にも無理がある」と指摘しています。偶然が頻繁に起きたとしたら、それは偶然ではないのです。

膵臓がんでは、完治例はありません。疾患制御率は37%ですから、3人に1人はがんと長期に共存できているということです。梅澤医師の『使い方次第で抗がん剤は効く!』でも膵臓がんについては、

一番気になる膵臓がんの25例の成果も紹介されています。こちらは「膵がんの治療成績は、悲惨の一言です」と書かれているように、ほとんどの患者さんがすでに亡くなっています。それでもジェムザールの生存期間中央値6.8ヶ月に比較して、16.5ヶ月という治療成績です。膵臓がん患者からすれば「そんなものか」とがっかりしますが、標準治療よりは副作用も少なく、長生きできるのですから恩恵はあります。『膵がんには「借りてきた猫」は見当たりません。情け無用の猛獣ばかりです。』とは、たくさんの膵臓がん患者を見てきた先生の正直な感想です。覚悟をしています。しかし、中には「完治」の可能性のある患者もいるとも書かれています。少しは希望もありそうです。

とのことですから、こちらも疾患制御率では効果があるものと考えられます。

三好先生の本では膵臓がんの症例がひとつ紹介されています。

●「もって半年」の膵臓がんが、想定外の縮小

GEM100mg+シクロホスファミド50mgの投与で、2年半経つが原発巣は縮小したまま。膵臓がんと低用量抗がん剤治療の相性はそう悪くはない。悪性度の高い膵臓がんでもここまでできる。

 

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後半部には、低用量抗がん剤治療と田の治療法との相乗効果(ベストミックス)について書かれています。CART療法、血管内治療、自家ワクチン療法、ガンマナイフ、分子標的薬との併用などが紹介されています。

 

こういう選択肢もあるんだよ、ということで、興味があれば手にしてみては。私は再発したらこの治療法を選ぶ予定でした。幸い再発なしでここまで来ましたが。

お勧めの一冊です。


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今日の一冊(35)『がんは引き分けに持ち込め』” に対して1件のコメントがあります。

  1. 通りすがり より:

    「RCT・メタアナリシスがされる療法のほとんどは、プラセボ効果・バイアスに埋もれてしまうほど効果が低い療法である」
    心臓マッサージが世に広まったのはエビデンスレベル5の症例報告(1960年20例の症例)からです。
    ノーベルの作ったニトログリセリンが狭心症の方に舌下投与されるようになったの症例報告からです。
    心臓マッサージで心臓が復活する、発作時にニトログリセリンの舌下投与で発作を抑える、、、など世の中症例報告から始まった治療法、RCTなどしなくも採用された療法が非常に多い。
    誤ったEBMをする医師がエビデンスレベル至上主義に走ることもありますが、症例報告のほうがRCTより有用なことのほうが多い。
    エビデンスを次のように使用するほうが良い。
    効果が顕著な症例報告(例:心臓マッサージ)>>>>>>>>>RCTしないとプラセボ効果に埋もれてしまうような療法

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