闘病記『ステージⅣbからの脱出』

水田賢一さんの闘病記『ステージⅣbからの脱出』を読み終わりました。

水田さんは昭和24年生まれですから、私と一歳違い、同年代の方です。人間ドックの腫瘍マーカーの検査でCA19-9が基準値を超えていたことにより膵臓がんが見つかります。

すぐに手術をしますが、腹膜播種があり、膵尾部の腫瘍には手をつけずにお腹を閉じたのです。この時点でステージⅣb を宣告されます。(2013年ですから旧分類です。現在の新分類ならステージⅣ)

そして園田隆医師のもとで抗がん剤治療を行います。抗がん剤で腫瘍を縮小させて手術に持ち込もうという計画です。

園田医師の最初の言葉が「私の治療法は標準治療ではないよ」というものでした。

当時の甲南病院のサイトには次のように書かれていました。

「下町ロケット」のごとく、革新的なアイデアに職人的な技術を加味した治療でがんの根治を目指します。

進行固形腫瘍に対する治療戦略として、次のように基本的な考え方をあげています。

  1. 寛解導入療法:固形がんは薬剤感受性が悪いので、治癒する前に薬剤耐性を獲得します。多剤併用、2週間ごとの集中治療と、がん腫により薬剤耐性克服剤の併用を行います。
  2. 局所療法:固形がんは治療後も縮小したがん細胞の塊が残存します。手術・放射線治療・Aポートによる動注療法等の局所治療を追加します。
  3. 維持療法:固形がんは、がんの幹細胞が多いため数年後に再発することがあります。緩解後も外来化学療法を長期に継続します。

「標準治療ではないよ」という中身は水田さんの治療歴を読めばわかります。

薬の名前をはっきりとは書いていないのですが、水田さんはFOLFIRINOXと薬剤耐性克服材(水虫治療薬)を併用したものと思われます。薬剤耐性克服剤については、このブログで紹介しています。

園田医師は、FOLFIRINOXも薬剤量を微妙に増減しているようです。腫瘍の様子を確認しながら、ある時はイリノテカンを1.5倍にしたり、オキサリプラチンを微妙に増やすなど、患者の体力と検査結果による腫瘍の様子を確認しながら、微妙にさじ加減をしている様子が伝わってきます。

FOLFIRINOXもきついですが、輪をかけてきつい治療法のようです。脱落する患者が多いのも頷けます。

しかし、その治療の結果、水田さんのCA19-9は基準値内に収まり、CT 画像による腫瘍のサイズも小さくなったので開腹手術に臨むことになります。

お腹を開けた結果、腹膜播種は全く消えていました。膵尾部の腫瘍もよく見ないと分からないほどに小さくなっていたといいます。

標準治療であれば、この時点で術後の抗がん剤治療として TS-1だけになるのですが、園田医師の考えは違います。術後も続けてFOLFIRINOXを投与し続けます。

しかしPET-CT検査で転移の疑いが見つかります。検討の上、3度目の手術に臨むのですが、開腹してみると、PET検査で光った箇所には、前の手術の膵臓がんの残滓物が残って、胃にへばりついていたということです。これを取り除きます。

以上が水田さんの治療経過ですが、8年たった現在、再発転移もなく元気に仕事をしておられます。

残念ながら薬剤耐性克服剤の詳細については触れられておりません。微妙な問題があるのかもしれません。

水田さんはご自身の教訓から、がんは早期発見すること、特に膵臓がんは見つかった時点では手遅れになる場合が多いからと言います。そういう水田さん自身も、人間ドックで腫瘍マーカーを検査していたから見つかったのですが、見つかった時点ではすでに腹膜に転移していたわけです。早期発見とは言えません。

もう一つ水田さんが強調していることは、「希望を捨てたらあかん」ということです。ステージⅣであっても、腹膜播種があっても、標準治療から外れた治療法で希望が見つかることもある。

水田さんの経験はそのことの大切さを明らかにしています。

もう一つ言えることは、常に楽天的であれということです。予後の厳しい膵臓がんですが、希望を持ってやるべきことをやる。結果についてはあれこれと悩まない。

確かに、園田医師の治療法は標準治療ではないかもしれませんが、それを若干アレンジしたものにすぎません。

現在臨床試験中の治療法であり、エビデンスが確立されているとは言えませんが、水田さんのような完治例と著効例は多数出ているようです。

 


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