1ヶ月で追い出される緩和ケア病棟

先日の『膵臓がん患者と家族の集い』では大津秀一先生の講演がありましたが、たくさんの方から「役立った」「今必要な知識でした」という反響を頂いています。

講演が終わった後の質問の時間でも、切実な現状が参加者から表明されました。講演後も大津先生は残ってくださったのですが、参加者がひっきりなしに詰めかけて、退室する時間を過ぎてもなお熱心に相談をされていました。

緩和ケア病棟やホスピスに入りづらい。治療を継続している状態では面接すら受け付けてもらえない。そうした事例が後を絶ちません。また緩和ケア病棟の空きを待っている間にも、間に合わずに亡くなってしまうがん患者さんもたくさんいます。

幸いにして緩和ケア病棟に入院できたとしても1か月あるいは2ヶ月で退院してくれと言われるのです。

この原因は、緩和ケア病棟の診療報酬が2段階制になったせいです。

どういうことかと言うと、国は緩和ケアを普及させるという方針とは裏腹に緩和ケア関連の診療報酬を引き下げているのです。

緩和ケア診療加算  4000円/日→2018年より3900円/日
外来緩和ケア管理料 3000円/月→2018年より2900円/月

早期からの緩和ケアが重要だと言いながら言ってることとやってることが違うじゃん。

さらに2018年からは緩和ケア病棟の入院料が2段階制になりました。

終のすみかとも言うべき緩和ケア病棟から追い出されたと訴えられる事例が増えてきているのです日本の緩和ケア病棟に何が起きているのでしょうか

西智弘先生のブログから

表にあるように、2018年に30日以内、30日から60日、60日以上と、入院期間が長くなるにつれて診療報酬がどんどん下がる仕組みが導入されたのです。

要するに、患者さんの症状を早期に緩和し、退院させて、次の患者さんを受け入れて行こうという考えです。

これはがん患者さんだけをとっても年間で30万人が亡くなるという現状では、今の緩和ケア病棟の病床数が圧倒的に足りないからです。その意味では一定の合理性はあるのですが、「終の棲家」と考えて入院した患者さんにとっては、たまったものではありません。

2018年の診療報酬改定では、「入院料1」と「入院料2」に分けられました。

より高い診療報酬の「入院料1」を貰うためには、直近1年間で、

A: 全ての患者さんの入院日数の平均が30日未満であり、患者さんの入院意思表示から平均14日未満で入院させている

あるいは、

B:患者さんの15%以上が在宅や診療所に退院する(※例えば、患者さんの9割が死亡退院すると満たさない)

という条件が付いたのです。

「患者さんの入院意思表示から平均14日未満で入院させ」るために、ぎりぎりまで面接を引き延ばすようにする病院側の対策がはびこっているのです。

2017年まででしたら、多くの患者さんが20日ぐらいで退院していく中で、一人くらい100日入院していてもなんとかなりました。2018年の改定後は一人でも長期の入院患者がいれば平均の30日を超えてしまい、全員分のの診療報酬がカットされる「連帯責任制」ということです。

ここから今日の事態が始まります。入院した当初から一か月で退院してほしいと念を押されるのです。あるいは長期入院になりそうな患者、すなわちすぐには亡くなりそうにない患者は敬遠するようになります。

こうした現状に多くの良心的な医療者が苦しみ絶望して現場を去ってしまうと言います。患者のためにと思って働いてきたのに一か月近くになってくると「死んでくれる」のを待っている、そんな暗澹とした気持ちになるでしょう。医療者も苦しんでいるのです。

ただ大津先生の講演の中では、このような現状も地域によって大きな差があると言います。東京の都心部は厳しいが、都下であればそれほどでもない。地方に行けば昔とあまり変わらないような現状もあると話されていました。

ではどうすればいいのか。

西智弘先生は一つの選択肢として「地域ホスピス」という考え方を提起しています。

医療法人ではなく、看護師や介護士が中心となる民間の緩和ケア施設です。神奈川県には「ケアホスピス中原」という施設があります。

緩和ケアに入院して30日で死なないといけないのですが、人間そんなに都合よく死ねるわけはありません。

辛い抗がん剤に耐えて治療したが、効果がなくなった。覚悟を決めて緩和ケア病棟に入院して最期を迎える決心をしたが、1ヶ月で出て行ってくれと言われる。これでは安心して死ぬことすらもできない。

緩和ケア病棟に長くいられなくなる現状ですが、次に受け入れてくれる場所が整っていません。かといって、自宅で最期を迎えることのできる患者さんはごく少数です。

多くの患者さんが居場所を求めてさまよい、辛い思いをしているのが、現在の日本の終末期医療の現状なのです。

生きていると迷惑をかける、早く死んだ方がいい、安楽死したい。本人の人生観や哲学からではなく、国の政策のしわ寄せから安楽死を望むなんていうのはあってはならないことでしょう。

安楽死か尊厳死か、安楽死は認められるべきかどうかという議論よりも前に、こうした「緩和ケア難民」を大量に作り出す今の医療政策を変える方向に向かわないといけないのじゃないですか。

年金が2000万円足りないと参院選の前に話題になったが、緩和ケア病棟も圧倒的に足らないのです。アメリカからトウモロコシを買っている場合じゃないでしょ。

緩和病棟 追ん出された! 日本死ね

こう言ってやれば、「待機児童ゼロ」の旗振りを始めたように、「待機末期がん患者ゼロ」ってことにならないかなぁ。いやいや、死んでいくがん患者には金は出せないということだろうな。


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1ヶ月で追い出される緩和ケア病棟” に対して2件のコメントがあります。

  1. より:

    いちおう2つの解決策があります
    ・健康保険料の引き上げ ・患者の自己負担割合の引き上げ
    しかし多くの国民はこれはノーでしょう
    ですから国は医療費抑制に走ってるわけです

    膨大な数の高齢者を抱え、個々の問題がどうというより
    保険医療制度そのものを今後どうしていくかという
    政治問題だと思います

    1. キノシタ より:

      OECD加盟国の中で、一人当たりの医療費は3649ドルで15位、対GDP比では10.3%で10位ですから、まだ増やせる余裕はあるはずです。
      その意味でも「政治問題」だと考えます。
      https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/iryouhoken11/index.html

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