がんを完治させる統合医療

以前に行った2回の講演内容のうち、補完代替療法、統合医療に関する部分を書き出してみました。パンキャンのセミナーでも、参加者から「こんな話が聞きたかったんですよ」と好評でした。やはりがん患者としては「治るために、私には何ができるのか?」が最大の関心事なのです。このブログに書き溜めてはあるのですが、あちらこちらに分散しているので、そのまとめという意図もあります。

統合医療とは?

西洋医療に全人的医療を加え、補完代替医療に科学的根拠を加えて、これらを有機的に統合したものを「統合医療」と言います。

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多くのがん患者は、がんを治すために自分でも何かをしたいと思っているのです。医者任せではなくて、自分も治療チームの一員として何かできることがあるはずだと。だって、自分の体だし、治療の結果に命を賭けて責任を取るのは医者ではなくて患者ですからね。

現代医学にも限界があります。それに最近はますます細分化が進んでいます。先日大学病院で整形外科の診察を受けたのですが、整形外科の中にさらに「肩関節外科」「手・肘関節外科」「足関節外科」「脊椎・脊髄外科」等と分かれていて驚いた。臓器は診るけど患者は診ないことになりかねない。少なからずの医者が、 ディスプレイを見て患者の顔もろくに見ないと言われるのもなるほどと思った。

そのような現在医学の欠点を「全人的医療」で元に戻そうよというのが統合医療です。患者が自分の医療に参加しようとすると、当然それは補完代替医療といわれる分野になります。しかし、これには科学的根拠(エビデンス)が乏しい。乏しいから代替医療なのである。あたりまえといえばあたりまえだが。

しかし、そのなかでもエビデンスのレベルには差がある。よりましなエビデンスのあるものを使って、現代医療と有機的に結びつけようというのが「統合医療」です。

自然治癒力と全人的医療

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統合医療では、人間には自然治癒力が備わっていると考えるのです。

ナイフで切った切り傷も、いつのまにか傷口がふさがってきますね。周囲の細胞が張り出してきて、いろいろなサイトカインといわれる物質を放出し、元通りにきれいになりますが、実はこの仕組みが現代の医学でもまだよく分かっていないのです。その程度ですよ。現代医学でもわからないことはたくさんあるのです。

がんは遺伝子の病気だといわれますが、遺伝子だけでがんのすべてが説明できるほど単純ではありません。近年ではエピジェネティクスという分野の研究が盛んになり、遺伝子のオン・オフをコントロールしているのはこれらのエピジェネティックな働きであることが分かりつつあるのです。それにも免疫システムが関わっている。人間の身体の自然治癒力というもは、本当にすごい力を持っているのです。

また、患者を臓器という部品の集まりと見るのではなく、その人なりの生い立ちがあり、家族環境があり、どんな仕事をしているのか、どのような考え方をしてきた人なのか。こうした「患者の物語」にも関心を持ちます。なぜなら、こうしたことが病気の原因の特定や効果的な治療法の選択に大切だからです。

「スピリチュアリティ」これの説明は難しいですね。訳せば「霊性」となるのでしょうが、まだよく分からない。テレビに「スピリチュアル・カウンセラー」が出てくると、私は、どこかいかがわしさが漂っているように感じてしまう。

私なら、老子のタオを思い起こしますね。すべての命はタオにつながっている。タオは宇宙のエネルギーであり、すべての物の有り様の法則でもある。私の命は、超新星の爆発で生じた重い原子が集まってできた太陽系の第3惑星、その地球の鉄などの原子で私の体はできている。その私に宿った「意識」は、だから、 宇宙のすべてとつながっているのです。<わたし>が生きた証しはきっとどこかで何かの役にたつはずだと思っている。スピリチュアリティをこのように受け取っています。

少し話がそれましたが、三つ目は「ライフスタイルの重要性」です。がんの遺伝子を持っていても、がんになる人とならない人がいる。病気を治し、健康になるためには、現代医学だけでは足りません。食事・運動・休息と睡眠・ストレス・人間関係などの問題を解決することが大事です。

統合医療の一部を担う補完代替医療(CAM)

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統合医療の一部を担う「補完代替医療」は、アメリカにおいて1990年代から出現してきました。高齢化社会になり、生活習慣病が主な疾病になりました。生活習慣病の多くは治るということがありません。また、医療の細分化により、患者の心の問題が置き去りにされ、インターネットなどの情報手段が発達して、健康への関心の高い患者は能動的に情報を探し、治療法の自己決定意識を持つようになってきます。医療に関してもこれまで以上の生活の質(生活の質(QOL))を重視した 価値判断を行うようになってきたのです。

米国の国立補完代替医療センターでは「統合医療」を、「従来の医学と、安全性と有効性について質の高いエビデンスが得られている補完代替療法とを統合した療法」と定義しています。

そして、米国では『がんの統合医療』という医学生向けの教科書までできているのです。日本はまだまだ遅れています。

日本でも厚生労働省による「統合医療事業」として『「統合医療」情報発信サイト』が運営されるようになりました。お目当ての情報がすぐには出てこないなど、まだまだ改善の余地はありますが、ぜひチェックすべきサイトだと思います。

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補完代替療法とは、「一般的に従来の通常医療と見なされていない、さまざまな医学・ヘルスケアシステム、施術、生成物質など」のことで、「まだ科学的にその効果が証明されていいないもの」です。これには、瞑想やヨーガ、マッサージ・整体、気功・・・こういったものが含まれます。

補完代替医療の治癒への貢献度
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さて、私が膵臓がんを告知されてからずっと実行してきた補完代替療法を紹介しますが、その経験から申しますと、効果の貢献度というか、がんに効くレベルは、感覚的ですがこの図のようになると感じています。つまり、健康食品やサプリメント、多くの患者さんがまずはサプリメントに走るのですが、これにはほとんど効果はない。物にもよりますが、ほとんど科学的根拠やデータのないものもあります。

健康食品・サプリメント < 食事 < 運動 < 心の平安

このような序列ではないかと思います。「心の平安」これが一番重視すべきことですよ、というのが今日の話の核心部分です。後ほど詳細に説明します。

がんを治すことが証明された代替医療はない
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がんを治すことができると、科学的に証明された代替療法は一つもありません。ここで言う「科学的に証明された」とは、ランダム化比較試験あるいは非ランダム化比較試験のことです。患者を二つに分けて、片方にはプラセボ(偽薬)を与え、もう片方に試験対象の薬物なりを投与するという方法です。これで統計的に有意な差があるかどうかを検証するわけです。信頼性ランキングからいえば、例えばムラキテルミさんのがんが、ゆで小豆で治ったとしても、単に1症例にすぎないので信頼性は低いのです。つまり、同じことをしても、あなたのがんが同じように治るという保証はまったくありません。

1万人に一人は、何もしなくてもがんが自然消失することがあるのですから、ムラキテルミさんはその例だったのかもしれません。がんが治ったのは本当だとしても、何がその原因なのか、本当のところは分からないのです。

専門家などの報告はエビデンスレベルとしては最低のランクです。済陽高穂、石原結實、安保徹、これらの専門家が何を言おうと、科学な根拠がないかぎり信用しては危険です。

馬ではあるまいし、ニンジンばかり食ってては体力がなくなるでしょう。それでがんと闘えるのでしょうか。

ゲルソンの娘であり、シュバイツアー博士の主治医でもあったシャルロッテ・ゲルソンの『決定版 ゲルソンがん食事療法』には驚くようなことが書かれています。

どの程度であれ、また最後に受けた抗がん剤治療からどんなに時間が経っていようとも、化学療法を受けたことのある患者が、基本のゲルソン療法のまま忠実に実行することは大変危険である

12章の最後の段落にはこんな記述があります。

膵臓がん患者で、以前に化学療法を受けたことがある場合には、残念ながらゲルソン療法でも良い結果が出せない。抗がん剤で膵臓があまりに激しく損傷を受けるからである。

代替医療を選択する基準
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現代医学には限界がある。東洋医学はどうも説明不足だ。代替療法にはエビデンスが乏しい。それじゃがん患者はどうすれば良いのですか? エビデンスが揃うまで手を出すべきではないという専門家もいます。でもね、がん患者には「時間が無い」のです。余命数ヶ月と言われたら、待っていられない。一つの臨床試験の結果が出るまでには10年はかかりますよ。エビデンスがでるまでに。10年も待っていられる患者なんておりません。

だから、私の代替療法に対する選択の基準は、

  • ヒトに対しるある程度のエビデンスがある(せめてコホート研究以上)
  • 重篤な副作用が無いこと。
  • 費用が高額でない(ポケットマネーで賄える)

の三つです。

完全なエビデンスがないから代替療法なわけで、それでもエビデンスレベルに差があります。マウス実験や試験管でのデータしかない等というのは私の採用する対象にはなりません。上の図で言えば、せめてヒトに対するコホート研究以上の科学的な証拠があるものが対象です。

二番目は「重篤な副作用が無いこと」。がんを治す行為が、別の病気を引き起こしたり、そのために死んだりでは目も当てられません。ただ、それではどこまでの副作用を容認するのか。これは得られると予想される利益とのバランスを考えて、患者個人が決めることです。

三番目の費用の問題。これって、以外と重要です。治すために続けるのですから、何年も買いつづけることになります。月に十数万円もかかるようでは、普通の家計では続きませんよね。

以前にNHKが覆面インタビューしていました。がんに効くというサプリメントを販売している業者ですが、このように言っていました。

原価が千円のサプリメントを一万円の価格にすると売れないが、十万円の値を付けると飛ぶように売れた。

高い物にはそれなりの効果があるはずだと、がん患者は錯覚するんですね。これほど高いものを摂っているのだから、効果があるはずだと。価格と効果には何の関係もありません。むしろ、理由もなく高いサプリメントは疑ってかかった方が良いのです。

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健康食品やサプリメントを選択するのであれば、『「健康食品」の安全性・有効性情報』のサイトでぜひチェックして欲しい。各食品のごとのデータがPubMedの論文を根拠に示され、日々更新されています。

この中から膵臓がんに何らかの効果(腫瘍が消えるということではないですよ)があると思われるものを検索で抜き出しました。

  • 緑茶(カテキン)
  • 魚油(EPA、DHA)
  • シイタケ
    ーアガリクスよりよほどましー
  • メラトニン
  • ビタミンD:多くても少なすぎてもリスクが高くなる。これについては「米国統合医療ノート」を参照してください。

に少し期待が持てる。ウコン(クルクミン)については、まだ膵がんの記述は追加されていないようだ。その他は芳しい内容ではない。

断っておきますが、これらを推奨するのではないですよ。気になるサプリメントがあれば、こうした方法で調べてみれば良い、考え方が重要だという例として挙げています。

私が採用しているのは、先の三つの基準に合うもの、カテキン・メラトニン・ビタミンD・EPA/DHAです。

牛蒡子の成分、アルクチゲニンについては、確か国立がん研究センター東病院で臨床試験が始まっているはずですね。【詳細はこちら

メラトニンについて
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ひとつだけ詳しく見てみましょう。メラトニンです。

メラトニンは脳の松果体でつくられるホルモンで、体内時計の働きと関係しているといわれています。ジェットラグ(時差ぼけ)の緩和に有効だという話で、国際線のパイロットなどが使用しているとも。日本では医薬品扱いですので医師の処方箋がないと買えませんが、アメリカでは普通にドラッグ・ストアで売られています。私はインターネット上の個人輸入代行業者を利用して購入しています。

ごらんのように、がんに関する「一般情報」では「固形がんに対して有効性が示唆されている」「すい臓がん、胃がん・・・縮小を促進するという報告がある」などと書かれていますね。

最高のエビデンスレベルというわれる「メタ解析」で、「固形がんに対する化学療法および放射線療法とメラトニン20 mg/日摂取の併用は、腫瘍寛解や1年生存率の増加、放射線化学療法による副作用 (血小板減少、神経毒性、疲労) の減少と関連が認められたという報告がある」となっています。

一方で、その下の部分では、「メラトニン20 mg/日を28日間摂取させたところ、食欲、体重、生活の質(QOL)、生存率に影響は認められなかったという報告がある」と否定的な報告もあることが分かります。

だから、まだ代替療法なわけで、すべてに肯定的なデータばかりなら標準治療に取り入れられているはずです。

がん患者としては、もうこれだけのエビデンスがあれば「やってみるしかない」「無視するのは勿体ない」と思うのではないでしょうか。

私の場合、6年前からメラトニンを摂り始めました。最初は服用量も不明だったので、3mg,5mg,10mgと徐々に増やし、最終的には20mgにしましたが、この量では翌日の昼間も眠くてたまらず、10mgに減量したのです。

私が服用を始めたころは、上のメタ解析のデータはまだありませんでした。

メラトニンは人体で作られるホルモンですから、その効果について特許がとれないのです。だから製薬企業が莫大な資金を使って臨床試験をするということはありません。したがってなかなか効果のエビデンスが出てこなかったのですが、米国の大学などで徐々に研究が進んできた次第です。(服用は自己判断、自己責任ですよ!)

メラトニンの購入はこちら「ラククル

他のカテキンなどの情報は、私のブログでキーワードを入力すれば出てきますので、興味があれば閲覧してください。

以上で健康食品・サプリメントの話はおしまいです。次は食事と運動についてです。

がん患者の食事と運動

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がんに限らず、医療の基本は食事と運動です。入院患者の食事が保険の対象となるのも、食事が治療の一環だからです。必要な栄養素を摂って体力をつける。がんと闘うための基本ではないでしょうか。”ニンジンジュース断食療法”などというものは、これと真逆の食事ですよね。ムラキテルミさんの本はミリオンセラーで売れているのですから、この食餌療法を実行した患者の中から、第二、第三の「ムラキテルミ」が数十人規模で自己申告してきても良さそうなものではありませんか。そんな気配はなさそうですが。

私の食事の基本は、シュレベールの『がんに効く生活―克服した医師の自分でできる「統合医療」』に書かれた内容が中心です。魚と野菜、オリーブオイル。地中海式の食事といわれるものでしょうか。全粒食物はずっと玄米を食べてきましたが、血糖値の管理が気になり、糖質制限食を取り入れたときから、玄米もほとんど食べなくなりました。

がんを治す食事はありません。『がんになってからの食事と運動』にも書かれているようとおりです。結局は野菜、肉、魚など特定の食材に偏らないでバランス良く食べることが最良だという結論になります。

「がん」になってからの食事と運動―米国対がん協会の最新ガイドライン

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「がん生存者の栄養と運動に関する米国対がん協会のガイドライン」をスライドにしてありますが、第一に適切な体重を維持すること。肥満も痩せ過ぎも注意です。そして運動をすること。予想に反して生存しているがんサバイバーのほぼ全員が、何らかの運動を定期的にやっているのです。

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私は通勤に往復一駅分を歩いてきました。約2.5kmでちょっと早足ですと25分くらいです。往復で50分、週に3日歩けば150分で、ちょうどスライドに書かれた推奨時間となります。筋力トレーニングはとくにやっていませんが、チェロを弾くのはけっこうな筋トレになります。

私も術後ICUから出たらすぐに廊下を歩き始めました。あるときは点滴棒を担いで階段を上っていたら看護師に見つかってえらく叱られた。「転んだらどうするんですか!!」

こんな無茶はしてはいけませんが、ともかく「歩け、歩け」ですよ。歩いている患者は治りが早い。

運動の効果は本当にすごいですよ。みなさんサプリメントだとか食事とか、何か形のあるもの、一発でがんを攻撃して消してくれる物を探していますが、自分の体の自己治癒力を高めたいのなら、運動に勝るものはありません。

4月に放映されたNHKスペシャル「人体 ミクロの大冒険 第3回 あなたを守る!細胞が老いと戦う」は長生きする人の免疫細胞には特徴がある。NK細胞が老化による影響がなく、元気なのです。老化した免疫細胞を20大と同じように活発にする方法があるのです。それが運動です。わずか5分間の自転車漕ぎ運動で、免疫細胞が活発に活動することを、バーミンガム大学の研究者らが明らかにしました。【リンク先の動画の13分ころから】

次に、食事と運動に関する米国対がん協会の詳細および世界がん研究基金の予防指針を示します。詳しい説明は時間の都合で割愛しますが、興味を持たれたらあとでご覧くださればよろしいかと思います。

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がんとの闘いには「心の平安」が一番大切です

私が膵臓がんとの戦いの中で一番に大切だと思ったことは、「心の平安」です。自分のブログを見直してみると、すでに手術後からそのように考えていたことがうかがえます。『がんで死ぬことはそんなに悪いものしゃない』と入院前の6月19日に書いています。

所詮は「自殺」以外は、何で死ぬかを選択することはできないのですが、少なくともがんを何か特別なことのように考えないで、人の死因のひとつに過ぎないと考えて、がんだとわかったら最善を尽くすこと、これもひとつの生き方でしょう。

また、『拾った命だから、のんびり生きる』と強がってもいる。手術日の前日には『生きるということ』と題して、

「哲学の根本問題」とは少し大げさだが、生きるとはなんだろうか、との問なら今の私には身近で切実だ。

古代ローマのストア派哲学者エピクテートスは、自分の権能下にないものを頼るなとして、自分の力のうちにあって自由になるものと、自分の力のうちになくて自由にならないものを峻別せよ、これがもっとも大事なことだと言った。 自由になるものは、自分の考え・行動・意欲・拒否。自由にならないものは、自分の身体・所有物・評判・社会での地位、妻・子供・友人などなど。

自分の自由になることにおいて最善を尽くす。これこそが人が自由になる唯一の方法だ。良寛は次のように言う。

欲なければ一切足り 欲ありて万事窮す  良寛

世の中の哲学・宗教において共通しているのは、自分が影響を与えることのできることがらに専念すること。これが第一の教えだった。

フランクリン・コビューの「七つの習慣」でも、「自分の関心のある領域のみで生きることは止め、影響を与えられる領域で生きよ」と言っている。東西共通の賢人が到達した知恵であるからだ。

がんになった自分の体をあれこれ悔やんでみても、いまさらどうなるものでもない。治療に専念するだけのことだ。自由にならない己の身体のことに思い悩むのはやめにして、己の自由になる「心(マインド)」の翼を広げて大いなるものと交信することだ。

『神』、『自然』、『仏性』、『タオ』などとそれぞれ言い方は違うけれども、要するに『永遠の命』につながる自分を信じて、その一点につながる生き方をすることだ。いかに死ぬかということは、とりもなおさず、いかに生きるかということなのだから。

と書いている。明確に意識していたわけではないが、こうして心の平安を保とうとしていたようだ。

精神腫瘍免疫学
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精神神経免疫学(PNI)という学問分野は、私たちの精神的な要因と免疫システムの関係を明らかにした。人生が思い通りにならないと感じたり、人生には苦しみの方が多いと感じたりしたとき、脳はストレスホルモンであるノルアドレナリンやコルチゾールを放出する。

神経系を活性化させて野獣の攻撃から身を守るための”闘争か逃走反応”の準備を整える。これらのホルモンはNK細胞の機能を封じ込める。さらに、白血球の表面にある受容体はストレスホルモンのレベルの変化に反応して炎症性のサイトカインやケモカインを放出して、その結果がん細胞との戦いが押さえられてしまう。

一方で、免疫細胞も常に脳に化学的な信号を伝達している。このようにして脳と免疫システムは常に情報交換をしているのである。

免疫システムの白血球は、無力感や、生きたいという願望の喪失に強く影響されるようだ。自分の置かれた状況を諦め、生きるに値しないと感じるようになると、免疫システムもまた機能しなくなり、がん細胞との戦いを諦めてしまうのです。

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こちらのスライドは、心と免疫系の関係をより詳細に紹介している図です。心は遺伝子レベルでもつながっています。神経伝達物質が細胞の核内の遺伝子の発現を詳説していますが、早ければ5分、数時間で遺伝子の発現に影響が出てくるのです。

心と遺伝子はつながっているのです。白血球の表面にあるレセプターは伝達物質を通じて脳とつながっている。

プラシーボ効果が存在するということは、治癒の根底には心と身体のコミュニケーションが大きな役割を果たしていることになるのです。

がんとストレス

「精神的」ストレスのもとでは、脳の大脳辺縁ー視床下部系は、心からの神経信号をからだの神経ホルモンである「伝達物質」に変換する。この伝達物質が内分泌系に指令を出して、ステロイドホルモンを放出させる。

ステロイドホルモンはからだの各種細胞の核内に達し、遺伝子の発現を調節する。そしてこの遺伝子が細胞に命じて、代謝、成長、活動レベル、性衝動を調整し、また病気のときも健康なときも免疫反応を調整する、種々の分子をつくらせるのである。心と遺伝子のつながりは本当に存在するのだ! 心は最終的には、生命をつかさどる分子の創出や発現に作用を及ぼしているのである!

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有名なマウスによる実験が、がんとストレス=心と身体の関係を示しています。

マウスを3つのグループに分け、第一群は電気刺激を与えられているが、ディスクを押すことによってスイッチを切ることができる。第二群は同じように電気刺激を与えられているが、ディスクを押してもそれはスイッチにつながっていないグループ。第三群は電気刺激の与えられていないグループです。

すると、電気刺激をコントロールできたマウスでは63%が腫瘍が縮小していたのです。二つの図では左右が逆になっていますが、下の図では第一群が右のグラフになります。電気刺激のないマウスよりも、それをコントロールできたマウスの方が、腫瘍縮小効果が高かったという実験結果です。

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ヒトの場合では、乳がんの患者の例があります。①医学情報を得て、前向きに対応した。②診断を否定したり、軽視した。③告知を深刻にとらえて禁欲的に受容した。④告知を聞いて絶望した。と4つのグループを13年間追跡した結果では、図のように生存率に大きな違いがあります。もっとも追跡調査の結果ではそれほどのさがなかったという報告もありましたが、少なくとも何らかの違いが生じている。特に絶望したり深刻に受け取った患者の生存率が悪かったのです。

自然治癒・奇跡的治癒

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がんには自然治癒あるいは奇跡的治癒といわれる現象があります。これにも心の有り様が大きく関与していると思われます。

自然治癒例がどれくらいあるのか、誰も統計を取っていないので分かりませんが、SF作家のカール・セーガンは最後の著作『科学と悪霊を語る』の中で、「ガン全体でおおざっぱに言えば1万から10万人に1人は自然治癒する」と書いています。

また、『がんが消えた―驚くべき自己治癒力』には多くの自然治癒例が紹介されていますが、その中でエバーソンとコールらが『がんの自然治癒』という著作で176例の自然治癒例を分析したと書かれています。

いまでは心療内科は普通の町の医院にも看板が掲げられていますが、この心身医療を日本で最初に研究された池見酉次郎博士がいます。私などは博士の自律訓練法のおかげで不整脈が軽減したのでした。その池見酉次郎博士と弟子の中川俊二博士はまた、世界に先駆けてがんの自然治癒例を研究された方でした。

池見酉次郎博士は、がんの自然治癒(自然退縮、奇跡的治癒)は500から1000例に1例はあると考えられているのだそうです。

中川俊二博士は『ガンを生き抜く』という著作で、74人のがんの自然退縮がみられた患者のうちで、精神生活や生活環境を詳しく分析できた31人をまとめています。31人中23人(74パーセント)に人生観や生き方の大きな変化「実存的転換」があったとされています。

「実存的転換」の意味は中川俊二さんの言葉を借りると、『今までの生活を心機一転し、新しい対象を発見し、満足感を見出し、生活を是正するとともに残された生涯の一日一日を前向きに行動しようとするあり方』です。より詳しくは私のブログの記事『がんの奇跡的治癒』『銀河系と治癒系』に紹介していますので、ご覧ください。

奇跡的治癒は起きるのは、サプリメントではなく心の平安、実存的転換と言われる状態になり得たときに起きるようなのです。

「分かった! 私もこれから心の平安を保って奇跡的治癒を起こそう」と考えたあなた! それは取り違えています。奇跡的治癒を目的とした時点で、それは実存的転換の状態になり得ていないのです。

治癒は成り行きとしてやってくるのであって、努力して獲得するものでないのです。

がんとは闘え、死とは闘うな

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心の平安を得るためには、ひとつには「死」というものについて、自分なりの考えを整理しておくことです。膵臓がんは手術できなければもちろん、できたとしても90%の患者は治りません。いずれ再発そして死が待っています。しかし、明日の命の保証のないことは、人間すべて同じです。欲を捨てることです。もっと生きたいというのも、欲であり煩悩です。自分の思い通りにならないことにこだわるから煩悩なのです。さらにその状態ではストレスになり、免疫力も低下します。

欲なければ一切足り 欲ありて万事窮す  良寛

がんとは闘っても、死とは闘わないことです。なぜなら、人類の歴史上、死と闘って勝利を収めた人は誰もいないからです。必ず負けると分かっている相手と闘うのは愚かであり、欲がなせる技でしょう。

希望を持ってがんと闘いましょう。しかし、欲張らないように。

希望+欲=執着となります。希望はえてして執着になりやすいものです。臨終した患者の腕から伸びた管の先には、抗がん剤の点滴がぽたりぽたりと落ちていた・・・などというのは、執着の最たるものですね。

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心の平安を保つために、私が実行してきたのは、最初はサイモントン療法でした。これはイメージ療法の一種で、カール・サイモントン博士が考案したものですね。一番取っつきやすいのは、川畑伸子氏の『サイモントン療法――治癒に導くがんのイメージ療法』に付属しているCDを聞いて始めてみることでしょう。

瞑想・座禅・ヨーガも良いと思います。それぞれ自分に合ったものを選べば良い。ジョン・カバットジンの『マインドフルネスストレス低減法』はがんに対する代替療法だけではなく、多くのストレスを受けている現代人の問題を解決するためのすばらしい方法です。サイモントン療法があるていど身についたと思ったなら、是非ともマインドフルネス瞑想法にも挑戦してください。

ただし、カバットジンは次のように注意しています。

「自分のストレスをコントロールし、病気と闘うために免疫システムを向上させたい」という期待をもって、多くのがんやエイズの患者たちが瞑想を始めようとしています。

しかし、私たちは、「瞑想で自分の免疫システムを強化できる」という強い期待をもつことは、実際には自分のもっている癒やしの力を十分に引き出すうえでの障害になる、と考えています。

なぜならば瞑想は、ゴールをめざすものではないからです。

あまりにも期待感や目的意識が強すぎると、瞑想の精神が損なわれ、効果どころか逆に障害になってしまうのです。

瞑想の本質は”何もしない”ということです。何もしないで、あるがままに受け入れ、解き放つことによって、”全体性”を体験するのです。そして、これが治癒力の基礎となるわけです。

がんも心も複雑系

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私たちの心は、一時も休むことなくさまざまなことを考え続けています。その多くは過去の失敗した経験だったり、未来の心配事で占められています。「あのときに精密検査をしていれば・・・」とか「いつ転移するのだろう」「あと何年生きられるのだろう」というようなことでいっぱいなのです。

この世界のできごとには、原因と結果が一対一になっているものはほとんどありません。天候を例に取ってみれば、気温、気圧、海水温、地形など実にたくさんの要因が絡み合って、明日の天気を決めているのです。スパコンを使えば、気温と気圧の関係程度なら、決定論的に微分方程式を説いて予測することはできるでしょう。しかし、たくさんの要因が複雑に絡み合っている現実の世界では、未来を予測することは不可能なのです。明日の天気はまあまああたっても、1週間先の予報はほとんどあたりません。

気象だけでなく、この宇宙全体も複雑系であり、私たちの身体も複雑系、がん細胞も複雑系です。だから治るかどうかも統計的にしか分からないのです。

原理的に予測できないものを予測しようとするから悩みが生じるのです。瞑想は「何もしない」ことによって、こうした悩みから解き放されることができます。

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一方で、複雑系のもう一つの特徴として、カオス理論では、初期値のわずかな違いが時間とともに拡大していって、まったく違った結果が生じる、という点があります。

バタフライ効果という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、気象学者のローレンツが「ブラジルでの蝶の羽ばたきが、テキサスでトルネードを引き起こす」と例えています。(いくつかの違うパターンがあるが。北京で蝶が・・とか)

例えば、実存的転換と言われる心の状態になったという、初期値のわずかな違いが、奇跡的治癒という結果を生じる、私は多くの奇跡的治癒例にこうした現象が関与しているのではないだろうかと推測しています。

奇跡的治癒は、それを目的としても得ることのできるものではないけれども、誰にでもその可能性はある。例え末期の膵臓がんであっても、消失した患者がいるのですから。

心の平安こそが、治癒への道を開いてくれるのです。(おわり)


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