がん医療対談「膵臓がんは最も大きな変化が期待できるがんです」

「癌Experts」の本日付に非常に興味深い記事が載りました。

膵臓がんの遺伝子改変マウスモデルを確立したことで有名な、英国Cambridge大学Cambridge研究所のDavidTuveson博士との対談です。

「膵臓がんは最も大きな変化が期待できるがんです」←全文はこちらをクリック

膵臓がんは平均生存期間3~5カ月という難治がんの筆頭。近年、モデル動物が完成、分子生物学の最先端の知見を動員した新規治療法の開発ラッシュが始まろうとしている。この動きの世界的に著名な研究者でこのほど日本生化学会の招きで来日したDavid
Tuveson氏と膵臓がんの信号伝達経路の研究から新規薬物の可能性を追求してきた古川徹氏に、膵臓がん研究の進歩と臨床応用への展望とを語り合っても
らった。
<以下、抜粋>
私たちの遺伝子改変マウス膵臓がんモデルは、ヒトの膵臓がんでよく見られる遺伝子変異である変異Kras遺伝子、変異Trp53(p53)遺伝子を人為的
に導入することで作られています。このマウスモデルに発生する膵臓がんは病理学的にヒトの膵臓がんによく似ていることが確認されています。

このモデルにより、何が膵臓がんの原因になっているか、どのようにすればこのがんを治癒させることができるか、また、どのようにすれば効率よく診断することができるか、さらには、どのようにすればこのがんを予防できるかを知りたいと私たちは考えています。

マウスモデルでは投与したゲムシタビンが腫瘍に十分に到達していないという結論に達したのです。それは、膵臓がん組織中の血流が乏しいため、がん組織に到達するゲムシタビンが正常組織と比べて非常に少ないからです。そこで私たちがとった戦略は腫瘍の血管を増やすというものです。

ヘッジホッグ信号阻害剤(hedgehog signaling
inhibitor)が間質を退縮させ、血管を増加させる。それによりがん組織にゲムシタビンや他の薬剤を効果的に行きわたらせることができると考えられました。実際に、この阻害剤とゲムシタビンを併用投与すると、膵臓がんが退縮して数週間も延命しました。

進行膵臓がん患者を対象にした研究でabraxane(アブラキサン)とゲムシタビンとの併用が膵臓がんに対し効果があることが示されました。第2相臨
床試験の結果も非常に有望な化合物であることを示すもので、私たちを期待させるものでした。現在、米国と欧州において、abraxaneとゲムシタビンと
の併用効果を確認する第3相試験が行われています。さらに、米国ではエルロチニブとabraxaneを併用した臨床試験も進められています。私たちのマウスモデルでもこの薬剤について研究しています。

KRAS遺伝子の変異がほとんどの膵臓がんで見られるわけで、この変異こそが膵臓がんの発生、進展過程で大きな役割を果たしていると考えられます。変異KRAS遺伝子が発現すると細胞内の活性酸素が減少することを発見したのです。活性酸素はがんの原因の1つと考えられていたので、これは腫瘍細胞の生理現象に大変重要な意味があると気づきました。つまり、活性酸素を減らすことはがんを進展させる可能性があるのです。

私が日本に来て驚いたのは日本における膵臓がんの研究資金の額が非常に限られているということです。年間7500人程の膵臓がん罹患者数の英国における研究資金に比較して年間24000人程が罹患する国(日本)における研究資金のレベルではないということです。一般の人に膵臓がんが重大な問題であることを認識してもらう必要があります。生存期間はわずか半年程なのですから。研究の進展によって、人々が膵臓がんになった時に恩恵を被ることができるようになるのです。

ここ1~2年で膵臓がんの診療は劇的に進歩する可能性があると思います。そのためにもよりよい研究を効率よく進めることが必要です。


「活性酸素を減らすことはがんを進展させる可能性がある」と聞いて、抗酸化作用のあるサプリメントを有害だ、と判断するのは性急すぎるだろう。「膵臓がん–>変異KRAS遺伝子がある、変異KRAS遺伝子が発現–>細胞内の活性酸素が減少」。これはこの文章を読む限りでは「相関」があるということであり、因果関係があるかどうかは明確ではないからです。「相関がある=因果関係がある」とは多くの場合、そうは言えないのです。因果関係があるというためには、もっと詳細な情報が必要です。


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がん医療対談「膵臓がんは最も大きな変化が期待できるがんです」” に対して8件のコメントがあります。

  1. キノシタ より:

    およぴぃさん、HNさん。コメントありがとうございます。
    およぴぃさんの仰るとおり、自分の寿命は自分で変える、その通りです。
    癌であろうがなかろうが、今日1日を一所懸命に生きる。ただそれだけ。膵臓がんだっていいじゃないか。
    元気の出るブログを書いてまいります。

  2. およぴぃ より:

    はじめましておよぴぃと申します。
    私もすい臓がんで、術後1年8カ月、おかげさまで腹膜転移しても、なんとか消え、昨年に比べるととっても元気です。
    今回初めてあなた様の存在を知り、とても心強くうれしくなりました。仲間みーつけた!て気持ちです。
    病気前からですが私も歌を唄って、同じ記事を読んでいます。
    すい臓がんは生きる希望を奪われるような発言が多くて、未だに治らないと言わざるをいえないがんとか、転移再発があれば広い意味での終末期といえるので、余命を聞いておくほうがよい等、聞きます。自分の寿命は自分で変えるからほっといてくれの心境です。
    家族も私も?主治医も長く生きられるのを望んでいるのです。たとえがんを持っていても、がんと仲良く一緒にすごしたいのです。
    一般論はすべての人に当てはまるわけでなく、すい臓がんになりやすい因子がなくてもすい臓がんにかかったように、同じく可能性はあると思っています。
    といっても落ち込む時はありますのので、勇気をください。今後ともよろしくお願いいたします。

  3. 匿名 より:

     一ヶ月ほど前に「陶」というHNでコメントを書いた者です。実はHN無し(or 名無し)で「5生率」と「Tuveson博士のインタビュー
    記事」のに関してコメントを書かせて頂きました。HN無しにしたのは、内容がブログ記事に触発された独り言のようなコメントであること、
    そして何よりも私のコメントに対する返信を頂かなくて済むようにとの浅慮からでした。(したがって、今回もコメントはお読み捨て
    願います。)
     スーザン・ソンターグ女史が彼女自身、がん患者になって気づいたがんを取り巻くmetaphorやmythについて論じていますが
    (Illness as Metaphor;その後AIDSも含めたものを改訂版として出しています)、この疾病(=がん)は生と死について否が応でも
    向きあわさせられます。
     私自身もキノシタさんには足元にも及びませんが、空海、道元、源信、白隠さらには中国の六朝時代の詩人や老荘思想などの
    かじり読みをしています。病を得る前は三国志や史記だったのですが。(笑)
    (ちなみに、仏教には入り込めても何故かキリスト教には帰依できず、却って選民宗教のユダヤ教のトーラ(律法)あたりには引き
    込まれる何かを感じたりします。)
     今回も無駄なお喋りが多くなってしまいましたが、最後に一言。
    キノシタさんのブログは稀に見る質の高いブログだと思います。どうか、ご無理のない範囲で今後も有益な情報や素晴らしい知見の
    ご提示を行っていただければと存じます。 不乙

  4. キノシタ より:

    みーたこさん。
    コメントがスパム扱いにされておりました。失礼しました。
    (スパムが多いので、URLのついたコメントは一端管理人が預かることにしています)
    肉類は控えた方がよいようです。私の主治医から、手術後はそのように言われました。ひとつは膵臓切除後は消化酵素が分泌されないので肉類の消化が悪いためです。
    更には「がんに効く生活」などでも書かれていますが、肉食よりは地中海料理・アジア料理のような野菜と魚の多い食生活ががん治癒には効果的だということでしょう。
    私の場合は、もちろん玄米菜食中心ですが、たまには肉類(鳥肉がほとんど)を摂ります。癌と闘うためには体力も必要です。そのためにはあまり厳密に考えずに、食事が楽しい範囲で肉類を控えるという考えです。

  5. 匿名 より:

    このブログからは教わることが多くて本当に感謝しております。
    (5生率でコメントさせて頂いた者です。)
    『膵臓がんは最も大きな変化が期待できるがんです』
    ・根治率が10%未満ということは、効果の高い治療法が見つかれば必然的に(がんの中では)最も大きな変化が期待できる
     ということになるかとは思います。(もともと低値の根治率が一挙に数倍になる、という意味で。)
    ・病理学的にヒトの膵臓がんによく似ている「遺伝子改変マウスモデル」を使ってヘッジホッグ信号阻害剤とゲムシタビンを
     併用投与することで、膵臓がんが退縮して数週間も延命が得られた、というのがTuveson博士がエビデンスを伴った実績
     として紹介なさっていることになりましょうか。
    ・モデルとなっているマウスたちには気の毒な限りですが、それはともかく阻害剤を使うことでゲムシタビンが行き渡る度合い・
     奏効率が高くなるのであれば朗報です。
     (マウスで数週間の延命というのは人間に換算するとどれくらいの期間になるのか、少し興味があります。)
    ・それ以外では、abraxane(アブラキサン)とゲムシタビンとの併用、さらには、エルロチニブとabraxaneを併用効果についても
     マウスモデルで検証中とのこと
    それでもって
    「ここ1~2年で膵臓がんの診療は劇的に進歩する可能性がある」と言われるような、‘劇的な進歩’の兆しを感じられるのかは
    素人である私には解かりませんが、兎にも角にもこういった最先端で治療法を研究してくださる方がいないと困るわけで、
    頑張っていただきたいと心の底から思います。

  6. キノシタ より:

    usa123_1さま。
    リンク、引用などご自由に。ただ、他からの引用した内容も多数ありますから、孫引きになる際には著作権違反にならないようにご注意してください。

  7. usa123_1 より:

    私も前立腺癌患者です。貴方様のブログを見て色々な情報にビックリしています。
    私のヤフーのブログに記事を引用してもよいでしょうか?
    玄米菜食を猿真似でやっておりますが、「がんは食事療法では治らない。
      しかし、がんは食事療法をしなければ(たぶん)治らない。」の言葉に
    勇気を頂きました。

  8. みーたこ より:

    はじめまして。みーたこと申します。
    昨年の12月に粘液性嚢胞腫瘍(MCT) と診断され
    1月14日に、膵臓を膵頭部を残し、脾臓とともに切除しました。
    現在、ジェムザール療法を続け、本日4回目の点滴を受けて来たところです。
    いろいろ検索し、このブログを見つけ
    大変参考になる記事に、大変感心しながら拝見させていただきました。
    そこで、少し質問なのですが
    今、肉類を食べると後で痛んでくるのですが
    やはり今後、焼肉などの食事は不可なのでしょうか?
    「がんは、自分で造った」の一文を読んで、「・・・そうなのか?」と思い当たりましたが
    今後は、美味しいものを控える生活になるのでしょうね・・・
    長生きはしたいので、我慢しますが、とっても寂しい気持ちになりました。
    末筆になりましたが、管理人さんの健康をお祈りいたします。

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