年賀状の図柄を考えて・・・

風天 渥美清のうた
年賀状の図柄を何にしようかと思案していたが、来年は寅年だから「寅さん」ではどうかと思い当たった。もちろんあの「ふうてんの寅さん」である。インターネット上で無料のイラスト素材を探したが、これといったものがない。あちらこちらネットサーフィンをしていたら、『風天 渥美清のうた』という本に行き当たった。

渥美清が俳号「風天」で多くの俳句を残していることはあまり知られていない。「アエラ句会」に永六輔らとともに参加していたが、「壁に向かってひとり沈黙し、終わると黙って出て行った」というふうな様子だったらしい。渥美清は肝臓がんが肺に転移した転移性肺がんで亡くなっている。私生活を一切公にしない彼らしく、がんになったことも世間には知らせることなく闘病していた。

   お遍路が一列に行く虹の中

これが渥美清の代表作であり、辞世の句といっても良い作だといわれている。これは『カラー版新日本大歳時記』の春の巻に、高浜虚子の「道のべに阿波の遍路の墓あはれ」らと並べて載せられている(らしい)から、アマチュアの域を脱している。私の気にいったいくつかを挙げると、

   好きだからつよくぶつけた雪合戦

   だーれもいない虫籠の中の胡瓜

   どんぐりのポトリと落ちて帰るかな

   少年の日に帰りたき初蛍

   背伸びして大声あげて虹を呼ぶ

   股ぐらに巻き込む布団眠れぬ夜

   扇子にてかるく袖打つ仲となり

   そば食らう歯のない婆(ひと)や夜の駅

   立小便する気も失せる冬木立

   冬の蚊もふと愛おしく長く病み

「好きだから・・・」なんて、そうそう、という気がしますね。私は南国育ちですからドッチボールでしたが。

この本を書いた森英介さんも、今月14日に膵臓がんで亡くなっています。がん患者が詠んだ俳句集を来年出版の予定を待たずにお亡くなりになったと報じられました。

樋口強さんの『貴方 最近笑えてますか』にこんなくだりがあります。「仕方なくもらったがんという”印籠”ですから、うまく使いましょうよ。私がんなんです、この印籠が目に入らぬか、とやったら、たいがい通りますよ。」

しかしね、二人に一人ががんになる時代ですよ。「私、がんなんです」と言ったって、「それがどうした。二人に一人は男だよ」と言われますよ。男が珍しいはずはないように、がん患者は珍しくもないわけです。「水戸黄門の印籠」のようには通用しません、最近は。最初のころは効きましたよ、確かに。難しい仕事は回ってきませんでした。家族も気を遣ってくれました。しかし、2年半もがん患者をやっていると、相手も慣れてくる(忘れているというのが本当のところ)のでしょうね。最近では会社でも仕事量は前と同じです。いっこうに減る気配がない。

しかし、これも考えようです。がんは安静にしていれば治るという病気ではない。むしろ、多くの方が言うように、使命感や生きがいを持つことが重要です。普通に扱っていただくことが(若干の配慮もお願いしたいですが)、治療にはよいのではないかと、あらためて周囲の皆さんに感謝する次第です。

年賀状の図柄のことを書いていたのだった。結局図柄はありふれた虎の絵にしました。

風天 渥美清のうた (文春文庫) 風天 渥美清のうた (文春文庫)
森 英介

おかしな男 渥美清 (新潮文庫) きょうも涙の日が落ちる―渥美清のフーテン人生論 渥美清の伝言 忘却の力―創造の再発見 人生に、寅さんを。 ~『男はつらいよ』名言集~
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