腫瘍マーカーの試薬取り違え

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国立がん研究センター東病院で、4年間にわたって、腫瘍マーカーに使う試薬をよく似た名前のものと取り違えていたと、産経新聞が報道。

 国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)の臨床検査部で、平成21年までの4年間にわたり、がんの発生を確認する「腫瘍マーカー検査」に使う「試薬」に、本来使うべきものとは異なるものを使用、少なくとも627件の検査が行われていたことが27日、関係者への取材や内部資料から分かった。誤った検査結果は、そのまま医師に伝えられており、その後の患者に不必要な検査などを強いた可能性がある。厚生労働省は同病院から事情を聴き始めた。病院が立地し、調査権限を持つ柏市も立ち入り検査を検討している。
 関係者によると、臨床検査部内では試薬の誤使用を19年の時点で把握していたにもかかわらず、事態を公表することなく、さらに2年間同じ試薬を使用し続けていた。他にも、検査結果が正常か異常かを判断するための「基準値」が、複数にわたり誤って設定されて運用されていたことも判明。がん治療の拠点病院がずさんな検査をしていたことで、原因究明などが求められそうだ。

これでは臨床検査技士としての基本的能力が疑われます。それ以上に事実を患者にも隠していたことは、命を預かる医療機関としての自覚が全くない。検査には誤差はつきもの、人のミスもゼロにはできません。これまでにも別の患者と検体の取り違えは幾度も報道されていますが、氷山の一角なのでしょう。このようなこともあるから、腫瘍マーカーの値や検査結果に「一喜一憂しない」で、じっくりと考える必要があります。

話題が少し違いますが、次のような問題を考えてみてください。

40歳から50歳までの自覚症状のない女性が乳がんにかかっている確率は0.8%である。また乳がん患者が、マンモグラフィー検査で陽性になる確率は90%である。乳がんではなかったとして、それでも検査結果が陽性になる確率は7%である。さて、検査結果が陽性と出た女性が、実際に乳がんである確率は何%か?

分からない? でも心配は要りません。ドイツの平均して14年の臨床経験のある医師24人に同じ質問をしたところ、正解できた医師は2人だけだったのです。一番多い答えは90%です。確率で説明されると混乱しますが、次のように頻度で考えれば迷うことなく計算できます。

  • 10000人のうち、80人が乳がんにかかっている
  • この80人のうち72人は検査で陽性となる
  • 乳がんではない9920人のうち、695人は、やはり陽性になる

したがって、陽性と出た女性が乳がんである確率は、72÷(72+695)=9.4%となる。本当に乳がんなのは、10人に1人の割合です。

90%と9%、ずいぶん大きな勘違いですね。90%と考えるのは、「乳がんであったときに陽性となる確率」と「陽性だったときに乳がんである確率」を取り違えているわけです。ドイツだけではなく、日本の医師でもこのように勘違いしている先生が多いのではないでしょうか。

これはベイズの条件付き確率といわれるものです。陽性という検査結果の起きる確率は、病気の起きる確率に影響されるのです。この例では図で示した「感度」と「陽性的中度」を取り違えているとも言えます。通常病院では「感度」のことしか言いません。しかも、「陽性と出たら90%は癌だよ」と、誤った伝え方をします。それはそうですよ。医師24人に2人しか正解はいないのですから。

東病院の例のように、悪質な検査ミスがあればさらに検査の信頼度は落ちますね。

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マンモグラフィー検査を受けることにより、9920人のうち4人が新たに乳がんになると考えられています。これは検査時の年齢が低くなればなるほど急激に多くなります。さらに精密検査でCTだPETだとなれば、9920人の方の被曝線量はますます増えます。

癌の早期発見、早期治療が必ずしも正しいとは限らない理由です。山田邦子は「毎年定期的に乳がん検診を受けましょう」とアピールしているようですが、これは異常です。乳がんではない人に乳がんになる確率を増加させることになります。メリットとデメリットを、リスク(確率)をしっかり判断して検査を受けるか受けないか判断すべきでしょう。

以上の論評は、自覚症状のない集団検診の場合です。何らかの自覚症状がある場合にはあてはまりませんが、条件付き確率の考え方については同じです。

【参考図書】

数字に弱いあなたの驚くほど危険な生活―病院や裁判で統計にだまされないために
たまたま―日常に潜む「偶然」を科学する


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