今日の一冊(20)『代替医療の光と闇』

代替医療の光と闇 ― 魔法を信じるかい?

代替医療の光と闇 ― 魔法を信じるかい?

ポール・オフィット
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アメリカの医療費はバカ高い。アメリカでの自己破産の6割はがん患者だという。日本のような国民皆保険制度を作ろうとしたオバマは、「社会主義的だ」との共和党の反対で不十分な改革しかできなかった。そうか、日本は社会主義国なのか。

だから国民の多くが代替医療に関心を持っている。サプリメントの売上も伸びている。しかし、これにも製薬企業のロビー活動によってFDAの規制が及ばないようにされてしまった。『代替医療の光と闇 ― 魔法を信じるかい?』は、こうしたアメリカの代替医療の歴史を豊富なエピソードを交えてわかりやすく解説してくれている。

たくさんの代替医療のグルや広告塔となったセレブが登場する。フリーラジカルが悪玉だという喧伝も、研究の結果一面的だと分かった。ビタミンEとβカロチンを摂っていた患者は、そうでない患者よりも肺がんか心臓病で死亡する割合が高かった。

アスベストに曝露され肺がんのリスクの高い18000人を対象にした臨床研究でも、ビタミンA、βカロチンを摂っていた被験者は摂っていない被験者よりもそれぞれ28%と17%多くがんと心臓病で亡くなった。研究は突然打ち切られた。マルチビタミンを摂っていた男性は、摂っていない男性に比べて前立腺がんで死亡する割合が2倍になっていた。

なぜだろうか? フリーラジカルはまちがいなく細胞を傷つける。そしてフリーラジカルを中和する野菜や果物をたくさん食べる人は健康である。サプリメントではなぜ駄目なのか。フリーラジカルは細菌を殺し、がん細胞を消滅させるためにも必要なのだ。サプリメントで大量の抗酸化物質を摂ると、フリーラジカルのバランスが崩れてしまい、免疫システムが有害な侵入者を殺す能力が減ってしまう。これが「杭酸化物質パラドックス」といわれているものだ。

二つのノーベル賞を受賞し、後に大量のビタミンC療法を提唱していたライナ・ポーリングの妻は胃がんで死亡し、ポーリング自身も前立腺がんで死んだ。

紹介されているいくつかの話題をならべてみる。

  • 国立補完代替医療センター(NCCAM)は、40万6000ドルを使って、コーヒー浣腸では膵臓がんは治療できないとの結論を得た。(でも未だにこれを勧めているエセ医師がいる)
  • NCCAMは、前立腺肥大症のある男性225人を二つにわけ、ノコギリヤシとプラセボを与えたが、二つのグループに尿流量、前立腺の大きさ、生活の質(QOL)に差はなかった。
  • イチョウに認知症の予防効果はなく、セントジョーンズ・ワートにうつ病を治す力はなく、ニンニクにコレステロールを下げる力はなく、関節痛にコンドロイチンとグルコサミンは効かないことがわかった。
  • スミソニアン研究書の記録によれば、サメはまちがいなくがんになり、軟骨のがんにもなる。『サメはがんにならない』本が日本でも売られ、サメ軟骨のサプリが売られているが、そもそもの前提がウソである。仮にサメ軟骨がある種のがんを治療できたとしても、それを食べるということは、胃の中の酸と酵素が軟骨のタンパク質を分解してしまうので効果は期待できない。(だからインスリンは飲まずに注射するのである)
  • 一方でオメガ3脂肪酸、ビタミンD、カルシウム、葉酸は一定の条件の下では摂取することが勧められる。

代替医療の効果はプラセボ以上ではないとしつつも、第11章では「驚くほど強力で過小評価されているブラセボ反応」と題して、その強力さを述べている。ブラセボ効果は思い込みではなく、”実際に”ある身体効果であり、それは脳内で造られるエンドルフィンの発見によって科学となった。

いくつかの研究によって、人間が意識し学習することで免疫反応を抑制したり、逆に強化することができることも判明した。人は花粉のない造花に対しても花粉症の症状を引き起こすことがある。これは免疫反応を”学習”する一例である。

ジョンズ・ホプキンス医科大学の研究では、抑うつ状態にあった新兵はそうでない兵士と比較して、インフルエンザの症状がより長く続き、より重かったことを発見した。”精神状態が病気を決定”したのである。「病は気から」という格言に根拠を与えるものである。

であるのなら、精神状態のありようと、プラセボ反応を利用して自分の免疫反応をコントロールし、強化して病気と闘うことも可能であるはずだ。

だから私は代替療法をやっている患者には、それがいかさま医療であったとしても「あなたが心底から信じているのなら、やってみれば良い」と言っている。


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