エビデンスだけでがん治療ができるのか?(2)

ガイドラインにはエビデンス(科学的な根拠)・レベルが、質の高いものから、

Ⅰ システマティック・レビュー/RCT のメタアナリシス
Ⅱ 1 つ以上のランダム化比較試験による
Ⅲ 非ランダム化比較試験による
Ⅳa 分析疫学的研究(コホート研究)
Ⅳb 分析疫学的研究(症例対照研究,横断研究)
Ⅴ 記述研究(症例報告やケース・シリーズ)
Ⅵ 患者データに基づかない、専門委員会や専門家個人の意見

のように分類されており、それをもとにそれぞれの治療法が

○勧告の強さの分類
A 強い科学的根拠があり,行うよう強く勧められる
B 科学的根拠があり、行うよう勧められる
C1 科学的根拠はないが、行うよう勧められる
C2 科学的根拠がなく、行わないよう勧められる
D 無効性あるいは害を示す科学的根拠があり、行わないよう勧められる

の5段階のグレードとして示されています。例えば、

術後補助化学療法を行うことは推奨されるか?

推奨:術後補助化学療法は切除単独に比べ良好な治療成績を示しており,実施することが勧められる(グレードA)。術後補助療法のレジメンはS-1 単独療法が推奨され(グレードA),S-1 に対する忍容性が低い症例などではゲムシタビン塩酸塩単独療法が勧められる(グレードB)。

と記述され、その根拠としてエビデンス(科学的な根拠)レベルⅡのランダム化比較試験が多く紹介されています。一方で、

切除不能膵癌に対して二次化学療法は推奨されるか?

推奨:海外における二次治療のランダム化比較試験により,支持療法に比べ化学療法の有用性が示されており,二次化学療法の実施が推奨される(グレードB)。
二次化学療法のレジメンは一次治療に応じて,一次治療がゲムシタビン塩酸塩ベースの治療であればフッ化ピリミジン薬を中心とした治療を,一次治療がフッ化ピリミジンベースの治療であればゲムシタビン塩酸塩を中心とした治療を選択する(グレードC1)。

二次化学療法は推奨するが、そのレジメンには「C1 科学的根拠はないが」専門家の意見として「行うよう勧められる」ということです。

膵頭十二指腸切除において、胃(全胃あるいは亜全胃)を温存したほうがよいとしているが、その場合に生存率などには確かなエビデンス(科学的な根拠)は乏しく、グレードC1とされています。

ところが、「専門委員会や専門家個人の意見」は、エビデンス(科学的な根拠)レベルでは最低のレベルⅥなのです。「患者データに基づかない」と一応但し書きがありますが、巷の怪しげなクリニックでも一応患者のデータに基づいているわけですからね。

「科学的根拠に基づく」と言いながら、最低限の科学的根拠を含まざるを得ないところにガイダンスの矛盾があります。エビデンスだけでは現場の医療は回らないのです。

EBMは臨床疫学を現場の医療に応用するための方法論として出発したものです。「科学的に実証され、最も信頼できるものは疫学的な情報である」というのが疫学的な見解ですが、あくまでも科学的方法論の1つに過ぎず、科学全体を網羅するものでもありません。(NBM:ナラティブ・ベイスド・メディシンという方法論もある)

そうした議論への妥協点として、エビデンス・レベルが考え出されたのではないでしょうか。


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