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CAR-T療法は期待できますか?

1月31日のヨミドクターにこんな記事があります。

遺伝子改変で免疫細胞強化…新がん免疫療法

免疫細胞の遺伝子を改変してがんへの攻撃力を高め、急性リンパ性白血病の患者の体内に戻して治療する臨床研究を、名古屋大学が2月から始める。2年後の承認を目指している。

この治療は「CAR―T(カーティ)療法」と呼ばれる。患者本人から免疫細胞の一種のリンパ球を取り出して遺伝子を操作し、白血病細胞を見つけて攻撃しやすくする。

米国で昨年承認され、抗がん剤が効かなかったり、骨髄移植しても再発したりして他の治療法がない患者に効果を上げている。国内では自治医科大学などが臨床試験を進めている。

高額な治療費がネックとなっているが、名古屋大学の手法は、遺伝子の操作でウイルスを使用する代わりに酵素を使うため、従来よりコストを大幅に削減できる可能性があるという。

CAR-T療法、はっきり言って、あまり効果は期待できないですね。その理由を書いてみます。

CAR-T療法とは

CAR-T(カーティ)は「キメラ抗原受容体」のことです。「キメラ」とは、ギリシア神話に登場する、ライオンの頭と山羊の胴体、毒蛇の尻尾を持つ伝説の生物「キマイラ」に由来します。これから、同一個体内に異なった遺伝情報を持つ細胞が混じっていること、その固体を「キメラ」と呼ぶようになりました。

免疫細胞の一種であるT細胞にCARを組み込むのでCAR-T療法となるわけです。

1990年代半ばに、ペンシルベニア大学のチームが、T細胞の免疫応答プロセスを強化しようと考えて、患者のT細胞を取りだしてがん細胞表面の蛋白質を認識する受容体を組み込んで患者に戻す方法を考え、翌年に重い白血病の患者に対して初の臨床試験を行ったのです。

ところが、この患者は10日後に発熱と呼吸困難に陥って集中治療室に修養される事態になります。免疫系が暴走する「サイトカイン・シンドローム」が起きたのです。生命の危機からなんとか持ち直した患者は、1ヶ月後の検査で白血病細胞がまったく見つからなくなったのです。

しかし、審査委員会はこの治療法は危険すぎるとして資金の提供を中止し、CAR-T療法も忘れ去られようとしましたが改良を重ねた結果、FDAが
「画期的治療薬」の指定をし、このほど小児・若年者の急性リンパ性白血病を対象として認可されたのです。

重篤な副作用が多発する

CAR-T療法が開発されたのは、「クリスバー」という遺伝子操作技術を使って、簡単に遺伝子を組み換えることができるようになったという背景もあります。多くの医療機関が導入に躍起になっています。

しかし、別の遺伝子をくっつけても、T細胞はがんを攻撃する最強の騎士ではありません。T細胞にはいくつものタイプがありますが、目の前のがん細胞を攻撃するT細胞の数は数万分の1ともいわれています。CARを組み込まれたT細胞でも同様です。どんながん細胞でも攻撃するわけではないのです。

がん細胞には発現しているが、正常細胞には発現していない“がん特異的抗原”が必要です。それが見つかれば、がん細胞だけを攻撃して副作用のない治療法ができますが、そんなものは見つかった試しがありません。

今回FDAが承認したのは、B細胞に特有のCD19という蛋白質を標的に細胞を攻撃するのですが、CD19はがん化したB細胞だけでなく正常なB細胞にも存在します。そのために血中の抗体が激減し、野菜を食べても感染症というレベルにいたるので、免疫グロブリン製剤の大量投与などの補助療法が必要になるのです。

敵味方の区別なく絨毯爆撃して、味方の損害は別の方法で考える、というのが、CAR-T療法に限らず、現在の免疫療法の限界です。絨毯爆撃の規模が大きければ大きいほど、多くの敵を殺せるが、味方の損害も大きくなるのです。

大阪大学の保仙直毅准教授は「免疫のアクセルを踏みっぱなしにする治療法だ」と説明していますが、まさにブレーキのない車で暴走運転するようなものです。

活性化を強める工夫をすればするほど、副作用も強烈になります。免疫の力を存分に活かせる治療法とはいえないのですから、免疫チェックポイント阻害剤もCAR-T療法も決定的ながん治療にはなりえません。

高額な治療費

この”改造された暴走車”の値段、最近FDAに承認されたCAR-T細胞療法の治療費が475,000ドル、日本円で5000万円以上と言われています。ある試算では7400万円という話もあります。CAR-T療法に続き、TCR導入T細胞療法が開発されるとさらに高額になります。

高額な治療費の裏には、利益相反の噂もありそうです。

CAR-T療法は、新潟大学の今井千速准教授らが米国留学中の04年に論文発表し、米国の聖ユダヤ小児研究病院に在籍していた当時に共同開発した技術を主な要素としている。

ペンシルベニア大学の研究チームを率いるカール・ジュン博士は「CAR-T療法の発明者の一人」として知られ、この技術に関する特許を何本も持っているといわれていますが、ジュン博士の功績はCAR-T療法を発明したというよりも、この技術を臨床に応用して効果を証明したことにあるのではないか。彼はまたCAR-T療法の商用化を図るスイスの大手製薬メーカー「ノバルティス」と金銭的な関係もとりざたされています。

ジュン博士は、今井准教授らが在席していた聖ユダヤ小児研究病院から「研究成果の移転合意」を結んでこの技術を臨床に応用し、発表した論文が大きな反響をよんだのですが、その論文には今井氏や聖ユダヤ小児研究病院のクレジット(功績)は一切記載されておらず、このため聖ユダヤ小児研究病院はペンシルバニア大学を告訴する事態になったのです。

このように、CAR-T療法の周囲には巨額の金銭を巡る疑惑が絶えないようです。

「画期的な新薬」になんども裏切られてきた身としては、CAR-T療法もいったん身を引いて、客観的な眼で見ることが必要かなと感じる次第です。


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